先週金曜、一部報道機関が、関係者の話として、日銀は金融機関への貸し出しに対してマイナス金利の適用を検討していると報じたことにより、ショート筋のストップロスが集中しました。

そして、本日、月曜もまた、ドル/円は高値圏にいます。

ところが、10日ぐらい前からの、ドル/円の推移を見てみますと、状況は、今回の観測記事とは異なっていることがわかります。

ドル/円 1時間足(4月13日~25日)

4月14日、15日のG20で、ルー米財務長官は「最近は円高が進んだが、為替市場の動きは秩序的だ」と述べ、日本政府が円安誘導策に動くことをけん制しました。さらに、「日本は通貨安競争をしないというG20の約束に同意している」と指摘して、日本が円売り介入などに動くことを、さらに強くけん制しました。

この翌週18日月曜からの1時間足を見てみますと、ルー財務長官の発言に、まずはワッと売り込み、その後、戻り売りの繰り返しを先週金曜まで続けました。これは、ルー財務長官の発言に、マーケットは素直に反応し、戻りを売ったわけですが、それによって、ショートポジションは雪だるま式に膨らみました。

そして、先週末、一部報道機関が関係者の話として、日銀は金融機関への貸し出しに対してマイナス金利の適用を検討していると報じました。これにより、ショート筋のストップロスが殺到し、ドル/円は約2円50銭急騰しました。

米政府高官の発言と一部報道機関の観測記事は次元が違う

しかし、上記のルー米財務長官の発言と、一部報道機関の観測記事は、次元が違うことがわかります。

日本の円安誘導策けん制は、ルー米財務長官という米政府高官の直々の発言に対して、一部報道機関の観測記事は、身元も知らされてない関係者からの観測記事にすぎません。ということは、米国政府はどちらを求めているかと言えば、ドル安だろうと思います。

米国は、2014年以来のドル安によって、特に輸出産業でダメージを受けています。主には、ECBのユーロ安誘導によるところが大きかったことは確かです。

しかし、ドル/円にしても、東日本大震災による国内すべての原発停止に伴う液化天然ガスの大量輸入を受け、2012年2月から2014年5月までの3年4カ月で50円弱にも及ぶドル高円安になっているわけですから、米国は、ECBのみならず日本に対しても、これまでのドル高には不満を持っていたことは、今回にルー財務長官からの発言からもわかるところだと思います。

ルー財務長官発言を、ある報道機関の観測記事で一蹴されることはないものと思われます。

ただし今週は、27日にFOMC、28日に日銀の金融政策決定会合があるという状況です。発表まではFOMCには利上げ期待、日銀には追加緩和がまとわりつくものと思われ、そうなると、金利差拡大期待からのドル買いが強まる可能性は否めず、日銀の発表があるまでは、様子見で良いように思います。

最近の各国・地域の中央銀行の中でも、日銀の政策発表前後の揉み合いはトリッキー(油断のならない)であり、敢えてリスクを取るタイミングではないと思います。日銀が政策発表し、その後、黒田日銀総裁の記者会見を聞いてからでも良いように思います。

ただし、日銀の政策よりも、米国の政策の方が、マーケットに与える影響は、大きいものと思われ、日銀の前日となる27日のFOMCにも、十分な注意が必要です。尚、たとえば、今回のルー財務長官の発表後、相場がジリ高になった背景は、同財務長官の発言に限らず、よく起きることですので、十分注意する必要があります。

ある要人なり、重要指標で、決定的とも捉えられるような内容だった時、多くのマーケット参加者が、同じように考え、同じような行動をとります。

その結果として、ポジションが一方向に大きく偏ると、後は、その反動としての揺り戻しが起きるばかりですので、マーケットの大勢があるテーマに対して、どういうポジションに傾けているのかは、注意深くみることが大切です。

執筆者プロフィール : 水上 紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀に於いて為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売される。詳しくはこちら