夏休み期間中ということで、子供と海や山へロングドライブに出かけるという人も多いだろう。子供をクルマに乗せるときアナタはチャイルドシートを使っていますか? 自分の子供はすでに着用義務がある6歳を越えたから必要ないと思っている方がいるかもしれないが、それは大きな間違い。

6歳というのは道路交通法で決められている最低ラインの基準で、子供の安全を考えれば体の成長に合わせて的確なシートを選ぶことが必要。日本では6歳までが対象だが、欧米ではもう少し高い年齢までチャイルドシートやジュニアシートを使うことを義務付けているところが多い。国によっては体が大きくなるまでフロントシート(助手席)に乗せてはいけないという国まであるのだ。

ではどのようにチャイルドシートを使うのが適しているかだ。新生児は乳児用(ベビーシート)を使うのがベスト。日本製は少ないが輸入製品は比較的価格が安い割に保護性能が高いものもある。ただし、乳児用なので1年と少し(成長具合によるが18カ月、体重13kg未満が多い)しか使えないため、日本では乳児・幼児兼用タイプが好まれる。もちろんこれらも乳児用に専用パッドなどを使うので拘束性はそれほど悪くない。

次の成長段階が幼児用で4歳、18kgまで使えるというシートが多い。日本ではこのシートをそのまま6歳までムリに使い、次のステップであるジュニアを使わないということがある。ここが問題なのだ。幼児はクルマに備え付けられている大人用の3点式シートベルトでは拘束できないから、チャイルドシートを使う必要性がある。6歳になり体が大きくなり、体重も20kg近くになるとチャイルドシートでは狭くなり座り心地が悪くなる。しかし、大人用の3点式シートベルトでは身長がまだ足りないため、肩ベルトが首にかかって危険だ。ジュニアシートならお尻の下に敷いてヒップポイントを上げることができる。これを使えば肩ベルトが首にかからないわけだ。子供の年齢に関係なく、体の成長に合わせてチャイルドシートやジュニアシートを使うことが大切。成長具合によっては、ジュニアシートを小学校高学年まで使うこと必要だと考えて欲しい。

チャイルドシートアセスメントは財団法人日本自動車研究所(JARI)の試験施設を使って実施される。これが試験に使われる装置で実車に近い状態でシートにG(衝撃)をかける。試験機はハイGスレッドと呼ばれるもので圧縮空気でクルマを打ち出すことで、衝突時の衝撃を再現する。骨組みだけのクルマは先代エスティマで、もっとも子供が乗車することが多いミニバンの人気車ということで選ばれている。取り付けるシートやそのレール、シートベルトなどは試験ごとに新品に交換される

これはベビーシートの試験。取り付け方法は取り扱い説明書どおりに行われ、シートメーカーの担当者が試験に立ち会う場合はメーカー側の担当者にも取り付け状況を確認させて試験を実施する

欧米は「子供の安全を守るのは大人の義務」という考えが徹底している。日本のドライバーのなかには「自分はスピードも出さず、安全運転しているから大丈夫」という人がいるが、これは自分は安全運転していても他車が衝突してくるというリスクをまったく考えていない。現在の交通環境のなかではどこで事故に巻き込まれるかまったくわからない。だからシートベルトをしたりチャイルドシート、ジュニアシートを使ったり、クルマにはエアバッグが備えられているわけだ。子供の安全は大人が考えるべきなのだ。

試験直後の状況。激しい衝撃を受けてベビーシートは動いてしまっているが、幼児をしっかりと拘束していることがわかる。試験では幼児を拘束するベルトをしっかり締めるため本来の性能を発揮できるが、実際の使用状況をリサーチしたデータを見るとしっかりとベルトを締めていないことが多い。ベルトをしっかりと締めていないと幼児がシートから飛び出す可能性もある

チャイルドシートの試験を実施した直後。まず状況を確認するためあらゆる方向から写真撮影が行われる

どんなシートを選んだらいいのか?

ベビーシートやチャイルドシートを選ぶ基準は何か? 国土交通省の型式指定番号を取得しているか、欧州のECE R44/03と04アメリカのFMVSS No.213に適合していればある程度の安全性はあると思っていい。もちろん法的にも、これらの認証を受けたものを使っていなければならない。

だが、どの製品にも特徴があり、性能差は存在する。そうした性能差を見るための公的な試験が平成13年から実施されている「チャイルドシートアセスメント」。これは自動車の安全性を確認する自動車アセスメントと同じで、国土交通省が"独立行政法人自動車事故対策機構(NASVA)"に試験を依頼して実施しているものだ。ベビーシートやチャイルドシートを選ぶときの参考になるので、買う前に必ず試験結果をチェックしたい。

試験は55km/hで前面衝突した状況を再現している。かなりの衝撃がシートに加わるため、このようにシートが破損することもある。評価では破損状況なども考慮される

新型ノア・ヴォクシーのシートアレンジの"チャイルドケアモード"は、子供をチャイルドシートに乗せやすいように回転する機構が付けられている。もちろんISO-FIX対応で、写真のチャイルドシートもISO-FIXタイプ。価格はISOベースが1万3,650円、本体が4万3,050円、合計5万6,700円

今年4月に発表されたチャイルドシートアセスメント(平成18年度分)では、乳児・幼児兼用チャイルドシート5製品、幼児専用チャイルドシート2製品をテストしている。試験項目は前面衝突試験と使用性評価試験の2種類。前面衝突試験は対向車と真正面でぶつかったことを想定したテストで、子供の体にかかる衝撃や拘束性などを評価する。使用性評価試験は取り付け説明書のわかりやすさ、使いすやすさなどを評価したものだ。

今回のアセスメントでは前面衝突試験で衝突安全性が高いと評価され、さらに使用性評価試験でも使い勝手がいいと評価される乳児用シートは2製品あった。自動車用シートベルトの大手のタカタが製作したtakata04-neoとカーメイトのエールベベ・ズットだ。乳児用シートは今回最高評価の優がこの2つ、ほかの製品5つも"良"の評価で、普通や推奨せずという最低の評価の製品はなかった。

幼児用のチャイルドシートは今回7製品がテストされたが、優は1つもなかった。過去には平成15年度と16年度のテストで1つずつ優の評価を受けてシートがあったが、それ以降は優を取るシートがない。今年は良が2つ、普通が3つ、推奨せずが2つだ。間違ってもチャイルドシートを買うときにこの推奨せずの2製品を買わないで欲しい。

これらの試験で使われているのは「ユニバーサルタイプ」と呼ばれるもので、3式シートベルトがあればどのクルマにも装着できる。だが、こうしたタイプはシートベルトを使ってチャイルドシートを固定するため、コツや力がいる場合があり、女性ではうまく装着できない場合がある。せっかく子供をチャイルドシートに座らせていても、そのシート自体がしっかりと固定されていなくてはまったく意味がない。そこでお薦めしたいのがISO-FIXタイプのチャイルドシートだ。これは自動車メーカー系からリリースされているものが多く、カーショップなどでは売られていることが少ないが、現在市販されているクルマのほとんどはISO-FIXに対応している。

ISO-FIXチャイルドシートの利点は、簡単にクルマに装着できるため、取り付けのミスがないこと。いわゆるミスユースを排除できるから女性でも簡単に装着できるし、クルマのシートベルトを使わないため脱着が簡単というメリットもある。では、こんなにいいISO-FIXチャイルドシートが今まで普及しなかったのはなぜかというと、製品の価格がやや高いこととクルマとセットで認証するという法的な規制があったためだ。ISO-FIXチャイルドシートはISOの文字からもわかるように、国際基準でどのクルマにも使える仕様になっているシート。だが、日本ではA車があるとするとA車用に認証を受けたISO-FIXチャイルドシートを今まで使わなければならなかった。そのため価格が高く、自動車メーカー系の製品が多かったわけだ。

だが、チャイルドシートの基準が改正され新基準に準拠したシートでクルマ側も認可を取っていればクルマを問わず装着できるようになる。もちろん今までのチャイルドシートも法的には問題なく使え、旧基準に準拠したシートは平成24年6月まで製造・販売できるため、しばらくは旧基準のままの製品も販売されることになる。しかし、これからチャイルドシートを購入する予定なら、やはりISO-FIXチャイルドシートがお薦めだ。まだ価格は高めで自動車ディーラーなどでしか購入できないが、それだけの価値がある。

チャイルドシートアセスメント結果の詳細は、国土交通省独立行政法人自動車事故対策機構で見られるほか、地方運輸局、運輸支局など、自動車事故対策機構の支所などでパンフレットも配布している。

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員