【あらすじ】
コマガール――。細かい女(ガール)の略。日々の生活において、独自の細かいこだわりが多い女性のこと。細々とした事務作業などでは絶大な力発揮をするが、怠惰な夫や恋人をもつとストレスが絶えない。要するに几帳面で神経質な女性。これは世に数多く生息する(?)そんなコマガールの実態を綴った笑撃の観察エッセイです。

激動の1年が終わり、また新たな年が始まった。日本という国においては、昨年の3・11以来、いまだ解決の糸口すら見えない問題が山積みだが、今年の干支は「動いて伸びる」「成長する」「整う」といった意味を持つ辰である。その意味通り、日本全体が苦難を糧に成長し、整っていくことを祈っている。読者の皆様、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

かくいう僕個人の話をすれば、今年は年男である。昨年は35歳になる年にして、ようやく結婚という人生の節目を迎えたわけだが、36歳を迎える今年は先述した辰年の意味に倣って、より夫婦生活、すなわち家庭を整えていきたい。新婚気分とはおさらばだ。

恋人同士の絆と夫婦の絆の違いの1つは、そこにお互いの家族・親戚が絡んでくるかどうかだ。普段、東京で妻のチーと二人暮らしをしているときは何も感じないが、年末年始に大阪の僕の実家に2人で帰省すると、たちまち夫婦とは多くの家族・親戚の中の1つの組み合わせであるということを実感する。今やチーは僕の妻というだけでなく、山田家全体の中の一員であり、それによって山田家の形も少しは変化しているのだ。

実を言うと、僕はこの変化にある期待を抱いていた。従来の山田家(大阪の実家)における僕は、長男でありながらまだまだ頑固な父に頭が上がらず、父と意見が衝突するたびに容赦なく抑えつけられるという情けないポジションだった。さらに僕には気の強い姉と妹がおり、その3人の中で意見が衝突したときも、男女の違いからか「姉妹vs.僕」という2対1の構図が生まれ、僕はどうしても分が悪くなってしまう。しかし、そんな僕にチーという心強い援軍ができたわけだ。これからは家族の中で誰と衝突しても、僕だけが孤立するという状況はなくなるだろう。チーが絶対的に僕の味方をしてくれるはずだ。

そんな思いを胸に秘めながら、この年末年始も大阪の実家ですごした。父、母、姉、妹の4人に、僕とチーを加えた計6人でゆっくり年を越す。幸いチーは山田家の家族全員と仲が良く、今のところ嫁姑戦争や小姑との諍いなどは無縁のようだ。最近はチーもすっかり山田家に慣れてきたのか、ずいぶんリラックスしているように見える。僕のいないところで、他の家族と親しげに会話するなど、コミュニケーションも円滑だ。

こういう状態になるのは、僕としても嬉しい限りである。チーが山田家に馴染めば馴染むほど、僕はニヤリとしてしまう。自分にとっての絶対的な味方が家族の中で大きな力を持つということは、必然的に僕のポジションも格段に上がるということだ。

実際、この年末年始も僕は何度か頑固な父や気の強い姉妹と意見が衝突し、あわや口論に発展しそうになった。30代半ばにもなって、いまだに些細なことで父に再三怒られ、姉妹と世間話をしているときも、2人がかりで厳しいダメ出しを食らう。「だから、おまえはアカンねん」「信用できへん」こういった罵倒をこの数日間で何発浴びせられたことか。

その都度、僕はチーに助けを求めた。もちろん、チーがいくら山田家に慣れたといっても、まだまだ父や姉妹に堂々と反論することはできないだろうから、そういう加勢を求めたわけではない。それぞれの口論のあとで2人になったときに、父や姉妹に対する僕の愚痴を聞いてくれるだけでいい。同情してくれるだけでいい。慰めてくれるだけでいい。それだけで、僕ははるかに孤立から脱することができるだろう。情けないけど。

ところがチーは、僕の気づかないうちに予想外の方向に走っていた。「なあ、チー。さっきのお父さんの発言、どう思う? なんで、この年になってまで、あんな理不尽に怒鳴られるんやろう。俺、なんか悪いことしたかなあ」。

父との口論のあと、僕がそんな愚痴をこぼすと、チーは乾いた口調で言った。

「考えすぎだよ。お父さんは悪気があって怒鳴ったわけじゃなくて、ああいう言い方しかできないだけだと思うよ。きっと不器用なんだよ」 「いやいや、だからといって些細なことでいちいち怒鳴られたら、むかつくやろ? 」 「しょうがないじゃん。もっと寛容になりなよ」 「寛容にも限界があるやろ。おまえは、俺があんな怒鳴られ方して気分悪くないの? 」 「別に。基本的にお父さんのこと好きだし」 「……」

唖然とした。まさかの展開だ。どれだけ僕が愚痴っても、チーは一向に味方をしてくれず、それどころかやや父寄りだ。こいつ、いつのまに父の味方になったのだ。

それは姉妹に関しても同じだった。僕が姉妹の文句を言っても、なぜかチーは僕ではなく、姉妹の味方をする。今まで「姉妹vs.僕」の2対1だった構図が、2対2になることはなく、「姉妹&チーvs.僕」という3対1に変化。ますます敵が増えたのだ。

かくして年末年始の僕は、チーの新たな加入によって、ますます山田家の中で分が悪くなった。妻が自分の父や姉妹と仲良くなることは確かに喜ばしいことであり、僕もそうなるように仕向けたところはあるのだが、いかんせんチーの場合はそれぞれと仲良くなりすぎてしまった。僕の援軍ではなく、まさか他の家族の援軍になってしまうとは、いったい誰が予想できようか。なんとなく、今後の自分が不安になる辰年の幕開けである。

<作者プロフィール>
山田隆道(やまだ たかみち) : 作家。1976年大阪府生まれ。早稲田大学卒業。おもな著作品に『雑草女に敵なし!』『Simple Heart』『阪神タイガース暗黒のダメ虎史』『彼女色の彼女』などがある。また、コメンテーターとして各種番組やイベントなどにも多数出演している。私生活では愛妻・チーと愛犬・ポンポン丸と暮らすマイペースで偏屈な亭主。チーが几帳面で神経質なコマガールのため、三日に一度のペースで怒られまくる日々。
山田隆道Official Blog
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