トランプ米大統領の政策に期待が集まったのは、ほんの一時期であった。大統領支持率は、米ギャロップ調査では38%と最低水準に下がっている。今はトランプ期待ではなく、トランプ不安が世界に広がっている。

23日にトランプ政権が議会に提出した2018会計年度(2017年10月 - 2018年9月)の予算教書が、新たな不安材料となっている。予算教書から読み取れることは、トランプ政権がいつの間にか「弱者切り捨て」型の資本主義政権に変わりつつあることだ。

予算教書の柱は、今後10年間で、低所得者向け給付を中心に歳出を3兆6,000億ドル(約400兆円)削減するとともに、法人税の大型減税により、経済成長率を3%に高めることにある。低所得者向け給付をカットして、法人減税の財源とする政策は、「弱者切り捨て・大企業優遇」の冷徹な資本主義政策である。

トランプ大統領が属する共和党はもともと資本主義色の強い政党である。対する民主党は、共和党と比較すると、やや社会主義的な政策を重視する傾向がある。今回の予算教書で、トランプ政権もようやく本来の共和党の姿に戻りつつあると言えるが、この予算教書は、共和党主流派もあきれるくらいの露骨な弱者切り捨て策を含む。

トランプ大統領は、大統領選挙期間中、「米国第一」の経済政策を実施することを訴えつつ、弱者を守ることを重視する「社会主義的」発言を繰り返し、低所得者層からかっさいを浴びた。貧富の格差を拡大させた民主党オバマ政権を厳しく批判し、「Forgotten people will be forgotten no more! 忘れ去られた(見捨てられた)人々に、手をさしのべる」と繰り返し叫んでいた。共和党主流派から警戒されたものの、そのキャッチフレーズが米国の低所得者層から熱く支持された。それが、大統領選の勝利につながった。

今回の予算教書は、トランプ大統領の熱い支持者であった低所得者層から見ると、完全に裏切りと映るはずだ。トランプ大統領は、大統領になってから、いつの間にか共和党主流派に取り込まれて、資本主義色を出すようになったのか?あるいは、もともと、資本主義色の強い考えを持っていたのに、無理して社会主義的発言をしていたのが、化けの皮がはがれつつあるのか。

今になって振り返ると、トランプ大統領は実業家で、もとから資本主義的な考えが染みついていたのかもしれない。トランプ大統領は、主要閣僚に、米大手証券ゴールドマンサックスの出身者や大富豪を選んだ。大手金融機関に厳しい政策をとると思われていたのに、むしろ、規制緩和などで金融機関に有利な政策を打ち出そうとしている。

オバマケア(医療保険改革)代替案も、低所得者が幅広く公的医療保険に加入できるようにするものではなかった。弱者を救済するオバマケアの内容を縮小して財政負担を軽くするものだった。国防費を増やし、法人減税をするために、弱者を切り捨てる方針が露骨である。

今回の予算教書には、国防費を前年度比10%増の「歴史的な増額」にすることも含まれている。メキシコとの国境に壁を建設する費用も見込まれている。米国第一主義に基づき、対外強硬策を打ち出すことは看板通りであるが、「弱者を守る」旗印は、今のところ、完全な看板倒である。

ただ、予算の決定権限は議会にある。大統領が提出した予算教書は、議会に対する提案に過ぎない。議会は上下院とも、共和党が主流派を占めているが、予算教書を議会がすんなり認めるとは思えない。

あまりに露骨な弱者切り捨て策をそのまま通すと、来年11月に予定されている中間選挙で共和党が敗北する可能性が高まる。歳出カットが認められないと、減税や公共投資の内容も縮小せざるを得なくなる。トランプ大統領の政策実行能力の低下は、支持者のトランプ離れを加速する可能性がある。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

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