【コラム】

窪田真之の「時事深層」

39 米FRBが9年半ぶりに利上げ実施、日銀はどうする?--追加緩和の可能性も

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(1)米FOMC(金融政策決定会合)結果は、市場予想通り

米FRBはとうとう0.25%の利上げを実施した。FF金利の誘導目標を0~0.25%から0.25~0.5%へ、0.25%引き上げた。米FRBはこれまでFF金利を実質ゼロ%に誘導していた。今回の利上げで、事実上のゼロ金利に終止符を打った。ただし、これはイエレンFRB議長による「市場との対話」で、事前にほぼ織り込み済みで、金利・為替は発表後、大きくは動いていない。

市場の注目点は、利上げの有無ではなく、来年の追加利上げのペースに移っている。FOMC声明文では、利上げ後の金融政策のスタンスについて「緩和的であり続ける」としている。それも、事前の予想通りだ。

ただ、FOMCメンバー17人による2016年末のFF金利の予想(中央値)が1.375%のままで変更されなかったことは、ややサプライズ(驚き)と受け止められる。「利上げは実施されるが、2016年末のFF金利の予想は引き下げられる」が事前のコンセンサスだったからだ。

FOMCメンバーによるFF金利の予想(中央値)

FOMCメンバーによるFF金利の予想(中央値)(出所:米FRB)

米FOMCメンバー17人の予想(中央値)では、今回0.25%―0.5%に引き上げられたFF金利誘導水準が、2016年末に1.25%-1.5%まで引き上げられることになる。2016年中にFF金利が1%上昇すると想定されているわけだ。1回に0.25%ずつ利上げすると仮定すると、2016年中に、4回利上げが実施されることになる。2016年3月・6月・9月・12月に0.25%ずつ追加利上げが実施されるイメージだ。

市場では、そんなに速いペースで利上げが実施されるとは見ていない。最初の追加利上げが3月か、あるいは6月以降か、見方が割れている。FOMCメンバーの2016年末予測(中央値)が1%辺りへ下がっていれば、「追加利上げ時期は6月ころ」という見方が優勢になる可能性があったが、そうはならなかった。

(2)イエレンFRB議長の発言もほぼ事前予想通り

利上げ発表後に、イエレンFRB議長の記者会見が行われた。「利上げショックが世界の金融市場に広がらないようにハト派的(追加利上げを急がないトーン)で話をする」ことが、事前に市場で期待されていた。

イエレンFRB議長

いつも通り、イエレン流玉虫色の表現で、先行きに言質を与えるような内容はなかったが、それでも「金利正常化のペースは緩やかになる」と話したことから、市場では「追加利上げを急いでいるわけではない」と受け止められた。

「金融政策の変更が、金融市場にサプライズとならないように、市場と対話する」が米FRBの基本方針だが、今回、利上げ発表後に、金利・為替・株とも、大きな波乱はなかった。米FRBが、方針通り、市場と対話できていたことを示す。

(3)日本株市場への影響、日銀金融政策決定会合が次の注目点

米利上げ実施後に大きな波乱がなく、NYダウが上昇していることから、日経平均は大幅続伸して始まっている。

実は、日本株市場で今週注目されているイベントは、米FOMCだけではない。今日と明日実施される日銀の金融政策決定会合も、大きな注目点だ。黒田日銀総裁は、これまで追加緩和を近々に実施すると受け止められる発言はしていなかったので、もし追加緩和があれば、サプライズになる。ただし、外国人投資家の一部には、日銀が追加緩和することへの期待が根強く残っている。

黒田総裁の発言で、最近1つ話題になったことがある。11月30日の名古屋の講演で、「デフレというすくみの状況を打破するには、誰かが断固たる決意を持って物事を変えなければなりません」と発言したのち、「まず行動すべきは日本銀行です」と発言したことだ。これは、追加緩和への示唆と取れないこともない。

とはいえ、日銀は年間80兆円の国債買い取り、3兆円のETF(日本株)買い取りなどを実施中で、これ以上の追加緩和の余地が大きくないのも事実だ。マーケットを吹っ飛ばすような「黒田バズーカ」の再来は期待できない。

結論として、今日明日の金融政策決定会合で、追加緩和が発表される可能性は低いが、なんらかの小粒の追加緩和が発表される可能性は、否定できないと思う。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

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インデックス

連載目次
第42回 追い詰められるサウジアラビア
第41回 "中国GDPが6.8%増"発表の意味--中国政府が景気悪化を認めざるを得なくなった
第40回 日銀の緩和補完策、市場の失望招く--原油価格の下落も不安を増殖
第39回 米FRBが9年半ぶりに利上げ実施、日銀はどうする?--追加緩和の可能性も
第38回 "株主優待目当て"の株購入は個人投資家にとって問題はないのか?
第37回 トルコがロシア機を撃墜、"第三次世界大戦"の恐れはあるか!?
第36回 フランス・パリで同時多発テロ、世界の金融市場は警戒モードに
第35回 日本郵政グループ3社が新規上場、配当利回りに魅力も成長性に課題
第34回 安倍改造内閣、長年の懸案が実行段階に--TPP、マイナンバー、郵政上場
第33回 改正派遣法が施行、求人倍率は1.23倍に上昇--非正規の待遇は改善されるか!?
第32回 欧州への難民流入、"問題の根本"シリア内戦収束へ米国とロシアが動くことが鍵
第31回 独フォルクスワーゲンが"とんでもない"不祥事--日本の自動車産業への影響は!?
第30回 中国経済に起こっていることを"電力消費量"から読み解く
第29回 日経平均は売られ過ぎ!? 急落してきた日経平均が一旦反発
第28回 4-6月のGDPは前期比年率1.6%減--景気の不透明感、安倍内閣の政策運営に影響も
第27回 内閣支持率が急低下、"外国人投資家"が日本株を見る目が変わる可能性も
第26回 中国株がまた急落、「異形の大国」で何が起きている!?
第25回 ギリシャは6月末にデフォルトするのか? - EUは「問題ない」と"開き直り"!?
第24回 「新銀行東京」はなぜ成功しなかったのか?
第23回 スカイマーク支援に、ANAがあえて踏み込むメリットは何か?
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第21回 日経平均2万円でも日本株は割安!?
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第17回 3月の貿易収支、なぜ「貿易黒字」に転換できたのか!?--黒字額は徐々に拡大へ
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第15回 「日経平均株価」が一時2万円台に! いったい誰が買っているのか!?
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第13回 大塚家具はこれからどうなる!? 父娘対決となった経営権争奪戦は娘に軍配
第12回 電力小売り自由化、何がどう変わる? 電気料金は安くなる?
第11回 資金支援するドイツをギリシャが攻撃、なぜドイツはギリシャを見捨てない!?
第10回 伝統の貿易黒字国「日本」、原油急落で"黒字復活"は近い!?
第9回 原油急落でアメリカでは大型SUVが再び人気、「燃料電池車」はどうなる?
第8回 JTはなぜ「飲料事業」から撤退するのか? - "水道水"の品質向上も要因
第7回 ヤマト運輸はなぜ「クロネコメール便」を廃止するのか?
第6回 原油急落で電力会社にメリットはある? 投資対象としてはどうなの?
第5回 日銀が物価見通しを大幅に引き下げ、原油下落に追い詰められた!?
第4回 「イスラム国」など地政学リスクに注意が必要、ECBの追加緩和策に注目
第3回 「スイスフラン・ショック」はなぜ起きたのか!? - "日本円"との違いは?
第2回 スイス・フランが歴史的急騰 - 「為替を自然体に任せる」
第1回 2015年、なぜ「中国経済」が懸念されている?

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