結論から言ってしまおう。マダガスカルゴキブリはうまい!

東京・阿佐ヶ谷の喫茶店「よるのひるね」で開催されている「昆虫食のひるべ」の体験レポート。後編となる今回はいよいよメインディッシュである、マダガスカルゴキブリの素揚げに挑戦する。

※下記に昆虫の画像を掲載しています。苦手な方はご注意ください。

さて、調理法はとっても簡単。マダガスカルゴキブリを下茹でして、殻を開いて、素揚げするだけ。でっかいゴキブリを料理バサミで開いたり、油で揚げたりというのはなかなかすさまじい光景だ。遠目からおそるおそる様子をうかがう人もいたが、いい匂いがただよってくると、やはりみんな食欲のほうが勝ってしまうらしい。かく言う自分も目の前の黒い物体がかなりおいしそうに思えてきた。

前菜はカイコの腐乳漬け。カイコよりも腐乳が苦手な人が多かったため、現場での評判はぼちぼち

本日のメインディッシュ、マダガスカルゴキブリ。大型で動きも遅く、食用向き。熱帯魚の餌としても流通しており、これ自体をペットとして飼う人も

まずは茹でます。遠目に見れば、ムール貝とかを茹でているように……見えなくもない

茹で上がったら料理バサミで足を落とし、腹部を開きます

なんとなくシャコっぽい。黄色いのは卵で、内山さんによれば「当たり」だとか

見た目やサイズはなんとなくシャコに近い。意を決して食べてみると、触感や味はほぼ白身魚。殻は固いが臭みやクセなどはなく、拍子抜けするほど"普通に"うまい。驚いて主催者の内山さんを見ると「おいしいでしょう?」とこちらの反応に満足げな様子。参加者からは、「ゴキブリがこんなにうまいのは悔しい!」との声も漏れている。確かに悔しい。そう言えば手塚治虫のマンガ『火の鳥 太陽編』でゴキブリが食材として売られているシーンがあったが、あれはきっと食糧事情が貧しいからではなく、おいしいから売っていたに違いない。思わず勝手にそう解釈してしまうほどの味である。

下準備ができたら揚げます。見た目とは裏腹に香ばしい匂いが漂ってまいりました

こんがり揚がってしまいました。塩コショウを振って完成。見た目が近い『ナウシカ』の王蟲とか、じつは揚げるとうまいかも……。怒った仲間が押しよせますが

試食してみました。非常にグロテスクな絵面でナンですが、まあ、おいしいんだからいいじゃないの

割り当て分以外は早いもの勝ち! ということであっと言う間に全員で完食。ごちそうさまでした

結局この日、虫料理を食べられなかった脱落者はゼロ。自分もかなり抵抗感を感じるのではないかと不安だったが、なにしろ周りがおいしそうに食べるので、意外とすんなり口に運ぶことができた。昆虫食を試してみたい人は、嫌がる未経験者の多いアウェーで挑戦するよりも、昆虫食の経験者がいるホームで試すことを断然おすすめしておく。参加者にはとくにジャイアントミールワームとマダガスカルゴキブリが好評だったようだ。

今回も無事にお開きとなったところで、イベントの主催者であり、食品衛生責任者の資格も持つ内山昭一さんにお話をうかがった。

――昆虫食の普及活動を始めるきっかけは?

「約10年ぐらい前に多摩動物公園で『世界の食べられる昆虫展』というのがあって、そこへたまたま行ったんですね。それを見て『世界にこんなにおいしそうに食べてる人がいっぱいいるんだ』と思ったんです。僕は出身が信州なので、そう言えば小さいころ昆虫を食べてたことを思い出して、そのときに行ったメンバーで『じゃあ、ちょっと食べてみない?』と河原でバッタを取って素揚げして食べたのが最初の活動です。珍しいから取材されることも多くて、メディアによってはゲテモノ扱いをされることもどうしてもあるんですが、最近は真面目に紹介してくれるところが増えてきていますね」

――料理のご経験は?

「普通の料理は、もともとそんなにやるほうではないですね。自宅では昆虫用の調理器具と冷凍庫もべつべつにされてますし(笑)。家族は僕みたいに積極的には食べないんですが、おいしいのには手を伸ばすかな?」

――昆虫食は宇宙空間や南極といった、家畜を育てられない局地でのタンパク源としても注目されています。

「先日も南極設営シンポジウムが開かれまして、フリーズドライの話に続いて僕も昆虫食の話をさせてもらいました。試食用の昆虫も持って行ったんですけど、やっぱり冒険家の人たちの好奇心はすごいですね。あっと言う間になくなっちゃいました」

――昆虫は栄養もありそうですが、実際は?

「殻ごと食べられるタイプの虫はカルシウム豊富ですよね。ただ食品成分表にイナゴまでは載ってるんですけど、さすがにゴキブリとかは載ってないんでね(笑)、誰か調べてくれないかなと思ってるんです。でも昆虫は漢方薬にもなっているほどなので、今後研究が進んで健康や美容にいいという結果が出れば、昆虫食に興味を持ってくれる人がもっと増えるかもしれません」

――おすすめの虫や、逆におすすめできない虫は?

「おいしいのはやっぱりセミの幼虫。今年も8月にはセミを捕って食べる例会を開きますんで、みなさんぜひお越しください。逆においしくないのはカブトムシの幼虫。見た目はよさそうなんですけど、腐葉土を食べてるから、土臭さが残っちゃうんですね。基本的にどんな虫でも火さえ通せば毒や寄生虫の心配はなくなるんですが、ただハンミョウの類はカンタリジンっていう毒があるので食べないでください。まあ、野食のなかでも山菜やキノコに比べれば昆虫は安全な部類だと思いますよ」

――今後の計画は?

「海外で昆虫を捕まえて食べるツアーとかあったら楽しいですよね。ガイド役なら喜んでやります(笑)。あと試してみたいのは虫せんべい。多分、えびせんみたいにできると思うんですけどね、なぜ作らないかと言うと、単純にせんべいを上手に焼くのが難しい(笑)。もし、せんべい職人で興味を持たれた方がいたら、ご連絡をお待ちしてます」

事前の不安とは裏腹に、かなり満足できたこのイベント。今後も「よるのひるね」で開催していくとのことなので、興味を持った人はリンク先をチェックしてみてはいかがだろうか。個人的にはこのイベント以来、虫を見る目がなんとなく変わったような気がする。そんなわけで今年の夏はゴキブリとセミに要注目だ!?

内山さんの新刊『楽しい昆虫料理』。1,680円でビジネス社から7月26日に発売予定。昆虫食に興味を持った方には最適の1冊

<ご注意>
昆虫食イベントについては下記のサイトにお問い合わせください。また個人で試す場合は昆虫料理研究のサイトを参照の上、生食せずに必ず加熱して食べるようにしてください。