これから為替レートは円安になるのか、それとも円高になるのか。その判断を下す際、何を判断材料にすれば良いのか。おそらく、FXで資産を運用している方の多くが、常にこの手の疑問を持って取引に臨んでいることと思う。では、何をもって円高、円安の予測を行うのか。

「ファンダメンタルズが大事だ」と言う人がいる。マクロ経済予測を行うエコノミストがよく言う言葉だ。

「為替レートは金利や物価、株価、景気に左右される。金利が上がれば、その国の通貨は買いだ。株価が上がればその国の投資期待が高まるので、やはりその国の通貨が買われるし、景気が良い国の通貨は、やはり投資が活発になるので買われる。物価については購買力平価で説明できる」。逆の現象が生じれば、その国の通貨は売られるわけだ。さて、これは本当なのか。

なかでもファンダメンタルズとして注目されるものに「購買力平価」というものがある。同じマクドナルドのハンバーガーであれば、米国でも日本でも価値は同じ。そうであれば、両国の価格で計算した比率は、為替レートに準じるという考え方だ。

たとえば、米国のビッグマックが1個=4ドル、日本では360円だとしよう。この場合、4ドルと360円は等価なので、360円÷4ドルで、1ドル=90円という数字が算出される。これが現在の適正な為替レートというわけだ。

確かに、購買力平価は為替レートの妥当値を弾き出すうえで有効と考えることができる。しかし、それは極めて長期的な視点で考えた場合の話だ。10年単位という長い目で見た時には、購買力平価にさや寄せされる形で為替レートが形成される傾向は見られるが、目先の動きにはほとんど反映されないと考えても良いだろう。特にFXのように、短期トレードが中心になる外貨取引を行う場合、購買力平価などという悠長な物差しで投資判断を下そうとすれば、ほぼ100パーセントの確率で判断ミスを起こす。よく「購買力平価によると、ここしばらくは円安が続きそうだ」などというコメントもあるが、そのような判断を基にしてポジションを取るのは危険だ。

確かに、中長期的に見れば、そのように為替レートが動くのかも知れない。でも、為替レートは一直線に円安、あるいは円高に動くわけではない。その間、さまざまな要因で大きく上下にぶれる。このぶれを計算に入れておく必要がある。

たとえば5年間で、1ドル=100円から120円まで円安が進んだとしても、その間には、1ドル=80円まで円高が進むことも考えられる。中長期的に円安が進むという判断のもと、ドル買いポジションを持ったとして、50倍、あるいは100倍というレバレッジをかけていたら、1ドル=80円という円高水準までぶれる局面で、ストップロスがかかってしまう。いくら5年後、あるいは10年後に予測が当たったとしても、その途中で自分のポジションがゲームセットになってしまったら、リターンを得ることは不可能だ。外貨預金や外債など、買い切りにしておけるような外貨建て金融商品であれば、ストップロスの心配もないので、とにかく持ち続けるという投資法は可能だが、それはFXには全く当てはまらないのである。

FXでリターンを得るためには、中長期よりも目先の相場動向を当てていく必要がある。レバレッジを高めている場合はなおのことだ。その場合、通貨の需給動向がどうなっているのか、マーケット参加者が今、どのような材料に注目しているのかということを、相場予測の判断材料にするのが良いだろう。

執筆者紹介 : 鈴木雅光氏(JOYnt代表)

主な略歴 : 1989年4月 大学卒業後、岡三証券株式会社入社。支店営業を担当。 1991年4月 同社を退社し、公社債新聞社入社。投資信託、株式、転換社債、起債関係の取材に従事。 1992年6月 同社を退社し、金融データシステム入社。投資信託のデータベースを活用した雑誌への寄稿、単行本執筆、テレビ解説を中心に活動。2004年9月 同社を退社し、JOYntを設立。雑誌への寄稿や単行本執筆のほか、各種プロデュース業を展開。