その昔、私はフィレンツェで暮らしていたことがあった。学生だったので貧乏暮らしを余儀なくされていたのだが、すでに成人していたので酒は飲みたい。そこで街のエノテカ、中でも超観光地の"おフィレンツェ"のワインショップをのぞいてみると、た、高い……。とてもじゃないが、私のような学生が立ち寄ることのできるような場所ではなかった。

仕方がないので、スーパーで売っている紙パックの料理用ワインを常用酒とした。これが意外とイケる。さらには、アパートの大家さんが週末にキャンティ近郊の別荘へ行く度、ワイン(もちろんキャンティ)を買ってきてくれた。笑ってしまうのが容器である。18リットル入りのポリ容器、つまりは灯油を入れる赤い色をした"アレ"であるということ。しかし、いくら飲兵衛(学生にして、すでに飲兵衛だった私……)でも、18リットルのワインを短期間で飲むことは難しい。酸化防止剤が入っていないワインだったので、3日もすれば酸っぱくなる。飲みきれずにもはや飲み物としての価値をなくしてしまったワインを眺めつつ、「もったいない……」と悔やんでいた日々が今となっては懐かしい。

そんな私の昔場話は置いておいて、ご存知のとおりイタリアは、生産量なら世界一、1人当たりの消費量ならフランスに次ぐ第2位といったワイン大国である(2005年度)。しかし、ワインといっても赤白といった色の違いから、DOCG(統制保証原産地呼称)やDOC(統制原産地呼称)などといった法的なカテゴリー、さらにはイタリアにある20の州ごとに存在するブドウの固有品種から造られるワインまで、多種多様。これらを網羅するには、恐ろしくなるほどの知識や情報が必要になってくる。そんなイタリアワインに関する情報がギュッと凝縮されているのが、毎年ヴェローナで開催される「Vinitaly(ヴィニタリー)」なのである。

Vinitalyはイタリア産ワインを中心に扱う大見本市。開催期間は5日間で、ちなみに2007年に開催されたVinitalyは41回目だった。会場となる「ヴェローナフィエラ」の敷地面積は、なんと幕張メッセ約4個分! この中に8,200以上の出展者、つまりはワイナリーがブースを出している。入場料は1日券が25ユーロ。(約4,100円)、5日通し券は85ユーロ(約1万4,000円)と結構なお値段である。基本は出展者とインポーターや飲食店などとの商談の場だが、この入場料さえ支払えば誰でも入場できるので、土日ともなるとベビーカーを押した家族連れや、とにかく飲みまって酔っ払いと化した若い男女などでごった返す。

「Vinitaly」の会場入り口付近。基本的に州毎に館が分かれている

テイスティングセミナーも多数

かくいう私は、Vinitalyへの参加回数10回以上。最初の頃は「わ~い、大好きなイタリアワインが飲み放題! 」と無邪気に喜んでいたものだが、近年は会場の入り口に近づくだけで胃がキリキリと痛むようになった。これだけの広さを5日間に渡って歩りまわり、その上9時から19時までずーっとワインを飲みまくるわけだ。「試飲も積もり積もればボトル5本」。5日間あっても全種類を飲みきることはほぼ無理だし、全てのブースを訪れることも不可能に近い。つまりは、足と肝臓に多大な負荷がかかるイベントなのである。

それでも私が毎年行ってしまうのは、斬新なデザインのブースを見てまわるのが楽しいという点と、「毎年違う表情を見せてくれるワインに会いに行きたいから」というのが理由である。

会場内には、パニーニなどが食べられるバールも多数あるが、ローカルフードを用意してあるブースもある

ワインは、同じワイナリーが同じ技術で造っても、年によって違う味わいのものができるという少々やっかいな代物である。その年の天候などでブドウの出来が違うと、それ以前のヴィンテージとはまったく違う味になってしまうのだ。この"生き物"のようなワインたちに、私は毎年会いに行く。そこから、最近のワイン造りの傾向を探っていくのもまた楽しい。……ということで、次回はいよいよVinitalyの詳細レポート!