MotherJonesより

米国でダントツの人気を誇るプロスポーツといえばNFL。そのNFLで、試合に華を添えるチアリーダーが所属チームを訴える例が相次いでいる。

NFLに限らず、プロスポーツチームのチアリーダーは狭き門だ。昔風の言い方をすれば、容姿端麗で高い身体能力も持ち合わせた女性しか就けない職業(職業でなければ役柄)という印象が強い。私が応援するブルックリン・ネッツ(NBA)では「ブルックリネッツ」(Brooklynettes)のメンバー選考オーディションの様子をYouTubeで公開しているが、競争倍率の高さがよく伝わってくる映像になっている。


[Meet The Brooklynette Rookies - ROAD TO BROOKLYN]


何百人という応募者の中から選ばれた精鋭の女性たち。そんなチアリーダーが、実は小遣い程度のギャラしかもらっておらず、ヘアメイクなどにかかる持ち出し分も含めると、トータルで赤字になる例も珍しくない──。4月のはじめにESPN Magaineに掲載された特集記事では、そんなチアリーダーの冷遇ぶり、あるいは一部のNFL球団のブラック企業ぶりが描かれている。

この話の主役は、オークランド・レイダースでチアリーダー(Raiderettesというらしい)を務めていた「Lacy T.」(仮名)という女性。このLacy T.が昨シーズンに球団から受け取ったギャラがわずか1250ドルで、これではあまりにひどすぎると球団を訴えた、というのが話の発端。

昨シーズンのレイダースのスケジュールをみると、本拠地開催の試合は全部で8試合。ギャラの総額をこの本番稼働日数で割ると、1日あたり156ドルちょっととなるが、この本番以外にも毎週練習があったり、球団主催のいろんな行事に顔を出す義務があったりと、季節限定ながらフルタイム並みに忙しいらしい。Lacy T.の告訴から少し後に、シンシナティ・ベンガルズという別のチームのチアリーダーが球団を訴えた例では、受け取ったギャラを時給換算すると、たったの2ドル85セントにしかならない、といった記述もある。

低賃金に輪をかけてタチが悪いと思えるのが、球団側が押しつけてくる厳しいルールやペナルティ、それにさまざまな手を使ったピンハネだ。

たとえば、ヘアスタイルやメイクについてのかなり厳しいルールがあり、それを守ろうとして球団指定の美容室に行くと「髪を染めるだけで1回150ドルもかかる」(その分は持ち出し)とか、「ヘア&メイク関連の出費が1シーズンで1000ドルを超える」という話が出ている。また練習にポンポンを持参し忘れると10ドルの罰金、遅刻すると125ドルの罰金といったように、何かミスをするたびにいちいち罰金をとられたり、あるいは最低10回は参加を義務づけられているチャリティイベントへの出席回数が足りないと、その分の埋め合わせとして球団の雑事を手伝わされたり、といった話もある。

さらに、ボルチモア・レイブンズという別のチームの例では、チアリーダーが「650ドルもするユニフォームを買わされた」(無料支給ではなく!)というのもある。

そのほか、一部のチームでは「選ばれたチアリーダーが守るべきエチケット」として、パスタの食べ方を事細かに指示したり、あるいは生理用品の正しい選び方と使い方まで書いたマニュアルを作成していた例などもあったらしい。

Jiggle Tests, Dunk Tanks, and Unpaid Labor: How NFL Teams Degrade Their Cheerleaders - MotherJones

いっぽうチームのピンハネについては、たとえばカレンダー販売の話がある。レイダースでは一部10ドルのカレンダーをチアリーダーが売ると、半分の5ドルがピンハネされる。またレイブンズの例はもっとひどく、1人あたりのノルマ(男性職員のノルマが20部なのに、女性は100部)がある上に、15ドルの売値に対して12ドルもピンハネされるので、全部売りさばいても手取りは300ドルにしかならないという。

さらにひどいのは、外部企業が主催するイベントへの派遣。レイブンズは派遣先企業にチャージする料金を1時間あたり300ドルにしているが、それに対してチアリーダーの手取りは時給50ドルにすぎないとか。これはもう横暴の域だ。

NFL Cheerleading Is A Scam: A Former Ravens Cheerleader Tells All - Deadspin

以上のようなひどい話がこれまでなかなか表に出てこなかったのは、チアリーダーがある種の名誉職と認識され、待遇などに不満があっても我慢すべきだという見方が当人たちの間にも根強く残っていたから、あるいはそういう捉え方をつながりの強固なOG連中などからすり込まれるためらしい。だが、レイダースを訴えたLacy T.は28歳で既婚、しかもすでに赤ちゃんまでいて、いくら名誉職とはいってもタダ働きでは到底やっていけない。また、レイダースと同じオークランドを本拠地とするNBAのチーム、ゴールデンステート・ウォリアーズでチアリーダーをしていた時には、試合当日だけでなく練習日でも時給12ドルのギャラをもらっていたので、それと比べるとレイダースの待遇はあまりにもおかしい……そう感じて、思い切って法的な手段に訴えることにしたらしい。

こうしたお金の絡む話だけでも、一部のNFLチームでチアリーダーの冷遇ぶりが十分に伝わってくる。だが、それにも増してひどいのは、バッファロー・ビルズであったとされるセクハラの話。ESPN Wの記事によると、ビルズではチアリーダーに対して、ちょっと変わったジグル・テスト(jiggle test)なるものを課していたという。ちなみにこのビルズは,かつてはO・J・シンプソンも在籍・活躍した強豪チームだ。

このジグル・テストというのは、チアリーダーの“身体の揺れ具合”をチェックするものらしい。「jiggle」を辞書で引くと、「小刻みに揺り動かす」といった訳語が出てくるだろう。何百万、時には何千万というテレビ視聴者の前で応援したりダンスしたりしないといけないチアリーダーの仕事上、露出しているお腹やその他の部分があまりにプルプルしていては具合が悪い。そこらへんまではなんとか理解の範疇とも思える。しかし、ビルズのテストは明らかに別の目的で行われていたという感じがする。ESPN Wの記事には、「ゴルフ場などで開いたイベントで、ビキニ着用のチアリーダーを“競売”にかけ…(中略)…その後、チアリーダーを落札者に同伴させて、コースを回らせた…(中略)…ゴルフカートが満席でチアリーダーが誰か(編註:もちろん男性だろう)の膝の上に座る、といった場合もままあった」云々という記述がある。

まったく呆れた話があったものだ。

NFLという世界では、関係者の体質あるいは認識が時代遅れだ──。セクシャルマイノリティの選手への対応などを目にすると、そんな印象を受けることがままあった。このチアリーダーに対するひどい待遇やセクハラまがいの話にも、そういう体質や認識の古さ──単に古いだけでなく、明らかに“間違い”“偏見”などとされるものが表れていると感じられる。また、冒頭のESPNの記事に付された「黙って応援してろよ、お嬢ちゃん」("Just Cheer, Baby")という見出しは、そういう古い(おそらく男性優位の)認識をうまく言い表したものとも思える。

ゲイをめぐっての問題では、先ごろの新人ドラフトで、マイケル・サムというカミングアウト済みの大学生が史上初めてドラフトされ、この話題がさまざまなメディアで大きく扱われていた。その際にマイアミ・ドルフィンズのドン・ジョーンズという選手が、サムと恋人が感極まって(?)キスしているところを映したテレビ番組を目にして、つい「OMG(Oh My God)」「horrible」などとTwitterで口を滑らせてしまい,チームから処分を受けるということがあった。NBAで昨年春にジェイソン・コリンズがカミングアウトした際、新旧のスター選手がいっせいにコリンズの勇気を称えるつぶやきをしていたのとは雲泥の差がある。


[Michael Sam Reacts to Being Drafted by the Rams]


チアリーダーの問題に話を戻そう。

上掲のMotherJonesの記事によると、レイダース、ビルズ、ベンガルズ、ニューヨーク・ジェッツ、タンパベイ・バッカニアーズの5チームで、それぞれチアリーダーによる球団を相手取った訴訟が起こされているという。

1兆円ビジネスとなったNFL。年俸1000万ドルのトップクラスの選手が20人もおり、一番の高給取りとされるジェイ・カトラーは年俸1750万ドルだから、1試合で100万ドル以上稼ぐような選手がいる世界。この件でなんとも救いがないのは、そんな世界で彼らと同じフィールドに立ち、一生懸命応援している選ばれた女性たちがタダ働きも同然、というところ。

もちろん、文字通り身体を張って命がけでプレイしている選手が、一生暮らせるほどの大金を受け取っても、それでとやかくいう人はあまりいないだろう。子供の頃からプレイし続けた末、やっとうまくプロ入りできたとしても、いつケガをするかもわからない。さらになんとか無事に引退できた後でも、脳へのダメージがいつ表に出てくるかもわからないといった不安を抱えて生き続けるなど、NFLの選手がさまざまな代償を支払っていることはよく知られている。

だが、そうした選手のケガや補償の問題を長い間放置し(これはこれで大変な裁判沙汰になっている)、またチアリーダーのひどい待遇にも目をつむってきたかに思われるNFLのコミッショナー、ロジャー・グッデルが、1年になんと4420万ドルという破格の報酬を手にしているというのは、いくら勝者総取りの風潮が蔓延し、貧富の差が拡大し続けている米国社会とはいっても、あまりにひどい残酷物語と思えてしまう

追記:グッデルを上回る高給取りはわずか4人

New York Timesの記事によると、2012年にロジャー・グッデルより高額な報酬を受け取った米国企業の経営者は、オラクルのラリー・エリソンをはじめとしてたった4人しかいない。いっぽう、他リーグのコミッショナーについては、MLB(大リーグ)のバド・ゼリグが推定3500万ドル、NBAで今年1月末に退任したデビッド・スターンが2300万ドル(勤続29年目!)、そしてNHL(プロホッケー)のゲイリー・ベットマンが830万ドルなどとなっている。

参照情報

Cheerleaders Paid Under Minimum Wage, Vinick Says - Businessweek

Goodell’s Pay of $44.2 Million in 2012 Puts Him in the Big Leagues - NYTimes

NFL Top Salary Rankings - Spotrac

Playing football is even worse for players' brains than we thought - Vox.com

Executive Pay by the Numbers - NYTimes

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