【コラム】

経済ニュースの"ここがツボ"

22 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ

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連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


3月の日銀短観、企業の景況感は横ばいにとどまる意外な結果

日銀が先週発表した3月の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)で、企業の景況感は横ばいにとどまるという意外な結果となりました。最近は景気回復の動きが強まっているにもかかわらず、企業は昨年12月の前回調査時点から「景気は変わらない」と感じていることになります。日経平均株価も3月下旬に2万円目前で失速してしまいました。果たして景気は大丈夫なのでしょうか。

今回の日銀短観では、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業・製造業でプラス12となり、前回の2014年12月調査と同じ水準でした。DIは、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた値で、この数字が大きいほど全体的な景況感が良いことを表します。

調査は全国の企業1万1000社余りを対象に、さまざまな項目でアンケート調査してまとめているもので、サンプル数が多いこと、調査から発表までの期間が短いこと、調査項目が多岐にわたっていることなどから、景気の動きを敏感に反映する信頼性の高いデータとして注目度のきわめて高い指標です。実際、過去の日銀短観のDIの推移と景気変動を重ねるとぴったり一致します。

今回のDIについて市場では「上昇する」との予測が大半でした。それが「横ばい」だったため、市場には失望感が広がりました。日経平均株価はすでに3月下旬に1万9200円台まで下落していましたが、発表日の4月1日には一時1万9000円を割る場面があったほどです。

今回の結果はDIが悪化したわけではありませんし、水準も一定の高さを保っていますので、決して悲観するほどの内容ではないのですが、「横ばい」という点が問題だったわけです。特に意外だったのは、業種別で自動車のDIがプラス15と横ばいにとどまったことです。自動車は明らかに業績が回復していますが、企業の判断はかなり慎重なことが浮き彫りになりました。同じく電気機械もプラス11で横ばい、生産用機械は1ポイント低下するなど、輸出産業の中心的な業種が軒並み慎重な判断でした。

同調査では3カ月先の見通しも聞いていますが、こちらは現状の判断よりさらに慎重です。大企業・製造業の先行きDIはプラス10と、2ポイント悪化する見通しで、中でも自動車は9ポイントも悪化と、これまた意外な見通しでした。

企業はなぜ慎重なのか!? - 3つの要因

企業はなぜこんなに慎重なのでしょうか。その理由として主に3つの要因が考えられます。

第1に、円安の進行が止まっていることです。やはり日本の製造業は輸出の動向が業績に大きく影響しますので、「いつ何時、円高に戻ってしまうか」との不安を捨てきれないのです。現実に、対ユーロではすでに一時期に比べて円高に振れています。その一方で、これまでの円安によって原材料コストが上昇して収益を圧迫している業種もあります。全体として為替の動向に神経質になっているのが現実です。

第2は海外経済への不安です。国内はこのところ景気回復の動きが強まっているとはいえ、海外に目を向ければ中国の景気減速や欧州の景気低迷、そのうえ中東情勢やテロなど地政学リスクが絶えません。好調な米国も早ければ今年半ばごろの利上げが予想されており、それが景気を冷やすとの懸念がつきまといます。

第3は、国内の消費回復が遅れていることです。最近は急増する訪日外国人による消費が話題になっていますが、それを除くと消費の回復はまだ十分ではありません。今回の短観では非製造業の小売りや対個人サービスなどの景況感は大幅に上昇しましたが、それが製造業にまではあまり及んでいないのが現実です。

景気の改善に"マインド"が追いついていっていない

このように企業の慎重姿勢が目立つわけですが、しかし実際には輸出は持ち直していますし、原油価格の下落で恩恵があるはずです。賃上げも相次いでおり、消費も緩やかとはいえ回復の動きが出てきています。さまざまなデータで見れば景気は着実に改善しているはずなのですが、マインドがそれに追いついていっていないのです。

これには、もっと根の深いものがあるのかもしれません。日本企業は長年のデフレと円高、経済低迷の中で苦しんできました。そのため景気が少し良くなった程度では確信が持てないのでしょう。設備投資がなかなか増えないものも、そうしたマインドの反映です。物事を過度に悲観的に見てしまう、あるいは悲観的な材料に過度に敏感になるクセとでも言いましょうか、そのような思考回路が身についてしまっているような気がします。逆に言えば、楽観的な材料になかなか確信が持てないのです。

実はこれは企業だけでなく、個人も同じです。消費増税後に消費低迷が長引いているのはその表れでしょう。株式市場でも3月下旬、それほど目立ったマイナス材料が飛び出したわけでもないのに急落しました。その相場展開を見ていると、多くの投資家も先行きの株価上昇にまだ確信を持てないでいることがうかがえます。

こうしたことこそが、「デフレ・マインド」からまだ抜け出していないことを表していると言えます。そのため、ちょっとしたきっかけでデフレ・マインドに逆戻りしてしまう可能性があり、その場合はせっかく好転しつつある実体経済もまた逆戻りしてしまいかねません。そうなる可能性は少ないとは思っていますが、それでも日本経済が本当に立ち直るにはマインドの転換がカギとなることは確かでしょう。そのためには、さらなる政策の後押しも必要となりそうです。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。

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インデックス

連載目次
第91回 28日衆院解散 - 消費増税などが争点、一転して「自民vs小池新党」の構図に
第90回 米債務上限引き上げ・デフォルト回避で安心感 - しかしトランプ大統領と身内・共和党の溝広がる
第89回 トランプ政権は崩壊寸前!? 米政治不安で株安・円高か - バノン氏解任で政策修正の期待も
第88回 日本橋の高速道路を地下化が具体化 - 都市景観を改善、周辺の再開発と連携
第87回 選挙で明暗分かれたイギリスとフランス - イギリスのEU離脱の行方は混迷
第86回 G7で亀裂を呼んだトランプ大統領 - ロシアゲートで前途に暗雲
第85回 フランス大統領にマクロン氏、ポピュリズム拡大にひとまず歯止め - 新政権のカギは経済立て直し
第84回 フランス大統領選"3度目のまさか"は避けられた - 安堵感広がるが、なおリスクも
第83回 英国がEU離脱を通知 - 交渉は難航か、スコットランドなど国内にも火種
第82回 オランダ総選挙の次はフランス大統領選 - 欧州の政治リスクは続く
第81回 トランプ大統領に批判集中だが、NY株価は11日連続で史上最高値
第80回 “日本批判”を封印した日米首脳会談に安堵感
第79回 トランプ大統領の日本批判は事実誤認--だが日本経済は逆風に耐える力あり
第78回 トランプ次期大統領の矛先がトヨタへ - 2017年は保護主義、ポピュリズムの「懸念」が「現実」に?
第77回 トランプ新大統領を迎える米国を現地取材 - やはり根強い批判、しかし景気は予想以上に好調
第76回 Brexit、トランプの次はイタリア・ショック!?--欧州経済危機再燃の恐れも
第75回 "トランプ大統領"で株高・円安いつまで?--景気には期待、保護主義には警戒
第74回 トランプ大統領の衝撃--保護主義が最大の懸念だが国内経済政策には期待も
第73回 米大統領選の世論調査、トランプ氏が上回る - 株価下落・円高が現実に!?
第72回 米大統領選はどうなる!? 大詰めで波乱 - 市場は「トランプ大統領」を警戒
第71回 米大統領選が終盤戦 - 苦しくなったトランプ氏、浮かび上がった3つの問題点
第70回 現地で見た”Brexitショック”のその後(下) - スコットランド独立? 北アイルランドも!?
第69回 現地で見た"Brexitショック"のその後(上) - 予想外に活気があった英国
第68回 リオ五輪のメダル最多で、景気は本格回復!? 五輪と景気の意外な関係
第67回 28兆円の経済対策と内閣改造 - アベノミクス再強化でデフレ完全脱却めざす
第66回 トルコのクーデター未遂事件の影響は? 中東安定、難民問題、欧州経済の鍵
第65回 参院選の与党勝利はアベノミクスへの信任--脱デフレへ10兆規模の経済政策
第64回 英国EU離脱ショックはリーマン・ショック級--欧州統合は空中分解のおそれ
第63回 英国がEU離脱なら株安・円高進行のおそれ
第62回 消費増税を延期した本当の理由 - 経済成長なしに財政再建はあり得ない
第61回 伊勢志摩サミット、注目は"財政出動"--終了後に消費増税延期を正式決定か
第60回 急激な円高・株安はなぜ起きたか - 米大統領選も円高要因に?
第59回 セブン&アイ鈴木会長、突然の退任に波紋 - セブンは強さを維持できるか
第58回 公示地価は全国平均で8年ぶり上昇、地方圏も底上げ--資産デフレ脱却へ前進
第57回 自動車・電機など賃上げ低水準、景気浮揚には力不足 - 消費増税延期の後押し材料に?
第56回 "トランプ旋風"いつまで続くか - 世界経済にマイナスの影響のおそれ
第55回 シャープが台湾・鴻海の傘下入りで再建の行方は? - 創業者・早川徳次の不屈の精神を取り戻せるか
第54回 株安・円高が加速 - 主な原因は海外だが……
第53回 マイナス金利の影響早くも広がる - 預金金利引き下げなど続々
第52回 マイナス金利を導入したのはなぜ? - 景気回復が期待できる4つの経路
第51回 原油安で"イランつぶし"を狙ったサウジの戦略は変化するか?--減産の兆しも
第50回 原油安はいつまで続くのか!?--サウジVSイランで減産どころかシェア争いも
第49回 2016年、日本経済はどうなる?--"景気回復続く"4つの理由、消費増税再延期も!?
第48回 2015年の世界経済、救ったのは"米国"--2016年はギリシャ、原油安など要注意
第47回 パリの同時テロ、低迷する欧州経済に追い討ちか--"移動の自由"はどうなる!?
第46回 幕末の「薩長土肥」に学ぶ地方創生のヒントとは!?--日本は今"第2の明治維新"
第45回 中国やブラジルなど新興国はなぜ変調?--今や"世界経済最大のリスク"に
第44回 消費税の軽減税率、安倍首相は財務省に不信感--再増税自体の先送りも?
第43回 ノーベル賞日本人2人受賞の快挙が示す日本の底力
第42回 VWは不祥事の"典型"パターンの一つ--トップの指示? 黙認?
第41回 VWの排ガス不正、"史上最悪"の企業不祥事 - 自動車業界全体に影響広がる
第40回 欧州への難民流入、EU統合の理念揺るがす--受け入れめぐり"東西対立"
第39回 日経平均下落の原因は"中国"だけではない--"安倍景気"息切れ、追加緩和も
第38回 中国はなぜ人民元を切り下げた? - 「経済安定」こそ習近平政権の生命線
第37回 優等生・東芝はなぜ「利益水増し」を行ったのか!?--日立への対抗意識も動機
第36回 ギリシャ・チプラス首相はなぜ"豹変"したのか!?--EU支援決定の舞台裏
第35回 中国株はなぜ急落したのか!?--EUと深い関係、ギリシャ危機の影響に注意
第34回 ギリシャ「緊縮反対」が"勝利"、デフォルト・ユーロ離脱に突き進むのか!?
第33回 ギリシャ、ついにデフォルトか!?--7・1デフォルトの場合、国民投票はどうなる?
第32回 ギリシャ危機はひとまず回避、しかし険しい道続く--ロシア・中国の影も…
第31回 米国の利上げはいつ? - イエレン議長のバックグラウンドを考慮すると…
第30回 円安はどこまで進むのか?--米国はいつまで円安を"容認"する!?
第29回 日本の対外純資産が24年連続で世界一、もはや"貿易"で稼ぐ国ではない!?
第28回 "どん底"からの復活 - シャープは創業者・早川徳次氏の精神を取り戻せ
第27回 トヨタが3期連続最高益へ、好決算の陰で"死角"はないのか!?
第26回 安倍首相訪米の隠れた"もう一つの成果"--なぜ米国は「円安」を容認するのか?
第25回 「TPP交渉」加速の陰に「AIIB」の存在あり--日本を巡り米国と中国が綱引き
第24回 セブンが独走し明暗分かれるコンビニ業界--セブン好調はマック低迷と関係!?
第23回 「株価回復は2万円で終わりではない」 - 長期的な上昇相場の"通過点"
第22回 日銀短観、「景況感は横ばい」の"謎"--デフレの"トラウマ"いまだ
第21回 サウジはなぜイエメン内戦に介入!?--原油価格や世界経済に新たな波乱要因か?
第20回 貿易赤字が縮小傾向、何が起きているのか? - その原因と影響を探る
第19回 3月中にも「日経平均2万円」達成か--"賃上げ・原油安"が強烈な追い風に
第18回 賃上げ機運高まる - "実質賃金"はプラスに転換できるか?
第17回 なぜ日経平均が15年ぶりの高値をつけたのか!?--日本経済の"歴史的転換"背景
第16回 「日経平均」が15年ぶりの高値、過去3回の上昇局面と何が違うのか!?
第15回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(3)--ドイツへの"敵意"の背景とは!?
第14回 ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?(2)--ユーロ発足時から危機の"タネ"
第13回 EUはけしからん!? - ギリシャの「ユーロ離脱」はありうるのか?
第12回 ECBがついに「量的金融緩和」、原油価格の下落で"最終決断"
第11回 フランスのテロ事件、経済への影響は? - 世界を揺るがす「地政学リスク」
第10回 なぜ原油価格が下落している?(2) - ヘッジファンドなどの資金が一斉に"逃げ"
第9回 2015年の米国経済、注目点は!? - 3つの構造変化で景気持続の可能性
第8回 2015年の日本経済はこうなる - 「日経平均2万円」へ"4つの追い風"
第7回 原油安でルーブル暴落、ロシアは一体どうなるのか?--欧米による"経済制裁"!?
第6回 総選挙で自民・公明の与党が勝利、でも株価が下落したのはなぜ?
第5回 なぜ原油価格が下落している? - OPECと米国が"我慢比べ"、日本への影響は?
第4回 "訪日外国人数"が過去最高 - 「観光」は"経済成長"の柱になりうるのか?
第3回 "GDPショック"走る - 消費再増税延期・衆院解散でアベノミクスの行方は?
第2回 「米中間選挙」でオバマ民主党が"歴史的大敗"、日本経済への影響は?
第1回 "電撃的"だった日銀の「追加緩和」~その背景と効果は?

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