前回は予算の立て方(費用計画や売上計画の作成方法)について説明いたしました。今回は、融資以外のデットファイナンスの選択肢について解説します。

デットファイナンスとは何かと考えた場合、貸借対照表の負債の部の増加を伴う資金調達だと言えます。代表例として社債が挙げられますが、公募債の発行は大企業のみ可能です。中小企業が現実的に取り得る選択肢は、銀行引受私募債となります。また、現預金の入金はないものの、未払金勘定が増加して支払日と支払金額が決まる法人クレジットカードも、広義のデットファイナンスと見なしてよいと考えます。銀行引受私募債と法人クレジットカードについて、整理していきます。

(1) 銀行引受私募債

銀行引受私募債には、銀行保証付私募債と信用保証協会保証付私募債があります。融資と同様に、誰が信用リスクを負うのかによってプランが分かれます。公募債を含め、社債全般についてコンパクトにわかりやすくまとめられた資料は、経済産業省のWebサイトに掲載されている「社債の活用」です。融資と社債の相違点についても上記資料内で比較されているので、本稿では説明を割愛いたします。

実務上、融資と銀行保証付私募債とで最も異なる点は、株式会社証券保管振替機構が関与することです。ある経営者にヒアリングした内容をまとめると、「銀行保証付私募債を発行する際、機関投資家が証券保管振替機構で決算書(計算書類)を確認できるよう制度設計されている。証券保管振替機構に決算書が掲載されれば、発行代理人となっている金融機関以外も、発行企業の財務内容を知ることができる。財務内容が高評価であれば将来的にシンジケートローンを組める可能性が出てくるので、私募債は会社がステップアップしていく上で有効な資金調達手段だ。」とのことでした。

また、ある銀行の担当者に伺った話をまとめると、「銀行保証付私募債を発行するための条件は、純資産が1億円以上。発行金額は最低でも5,000万円。返済(償還)は一括か、半年に1回のペースに分割するケースが多い。」とのことです。

発行時に手数料が必要となるため、金利と併せたトータルコストと将来得られるメリットを勘案して、社債で調達するか否か判断することになります。

(2) 法人クレジットカード

新しく起業する際に顕著ですが、クラウドサービスが普及して事業を立ち上げるコストが劇的に低下した半面、クレジットカード払いが求められる場面が多く、信用力が足りないスタートアップ企業にとっては死活問題となっています。特にサーバを借りる場合は、利用料の支払いが事業継続と密接に関係するため、利用可能枠の残高管理が必要となります。

毎月締めて翌月に支払いするサイクルを、利用可能枠に抵触しないよう安定的に回すためには、月々の支払いを利用可能枠の半分に抑えなければなりません。支払い実績を重ねて信用を積み上げ、増枠申請することを繰り返していくことになります。

クレジットカード会社によって条件は様々ですが、法人クレジットカード1枚に対する利用可能枠と、会社全体に対する利用可能枠があります。最初に作ったクレジットカードの利用可能枠が頭打ちになっている場合でも、追加カードの申し込みが可能なケースがあるので、発行会社へ問い合わせてみるとよいでしょう。

中小企業にとって、法人クレジットカードの利用可能枠を広げていくことは、クレジットカードの枚数を増やすこととほぼ同義です。先々の事業拡大が見込める場合、早い段階から枠を広げることを試みた方が良いです。ひとつの方法として、取引金融機関のグループ会社が発行しているクレジットカードを申し込むことが考えられます。

クレジットカードの発行から最初の増枠申請が可能となるまで、半年以上待つことが通例です。リードタイムを短縮することはできないので、スケジュールを立てて計画的に利用実績を積んでいくことが求められます。

正攻法で獲得した信用は、いざというときに役立ちます。信用を得ていくプロセスは、急がば回れという言葉がぴったり当てはまると思います。

融資以外のデットファイナンスの選択肢についての説明は以上です。次回は金融機関と長期的に取引することで得られるメリットについて解説していきます。

※写真と本文は関係ありません

執筆者プロフィール:千保 理(せんぼ ただし)

株式会社情報基盤開発 CFO(最高財務責任者)

ロンドン日本人学校中学部、東京学芸大学教育学部附属高等学校、東京大学運動会バドミントン部を経て、東京大学大学院経済学研究科修士課程企業・市場専攻修了。専門は企業金融(コーポレート・ファイナンス)。生命保険会社のシステム子会社にて勤務した後、東京大学発IT系ベンチャー企業である株式会社情報基盤開発にCFOとして参画。Microsoft Innovation Award 2015にて勤務先が優秀賞を受賞した際のプレゼンター。融資による資金調達を得意としている。