楽天株式会社 代表取締役 副社長執行役員 平井康文氏(右から2番目)ら。楽天モバイルの銀座直営店舗オープンにて

2015年10月29日、楽天モバイルがサービスイン1周年を期に、東京・銀座の商業施設「銀座ファイブ」に直営のリアル店舗をオープンした。同社の専門施設としては5店舗目になるという。インバウンドでにぎわうこの界隈だが、このあとも、再開発が進み、建築中の新施設の完成や、面する晴海通りの歩道改装などによって、これまで以上の集客が見込めるという。

同時に、冬春に向けたスマートフォンやタブレットの新機種も発表された。場所こそ、コンパクトな新店舗でのお披露目イベント開催だったが、内容的には数年前の大手キャリアの発表会を彷彿とさせるものだった。

冬春モデルとして多彩な端末を投入する

楽天モバイルのようなモバイル通信事業者はMVNOと呼ばれる。モバイル通信事業者ではあるが、自らはモバイル通信施設をもたず、大手キャリアからそれを調達するため、バーチャルのVが添えられる。つまり、モバイル・バーチャル・ネットワーク・オペレータだ。

全国津々浦々のショップ展開とそこでワンストップで完結するサポートの提供、端末ベンダーと協業しての独自端末の開発、そして莫大な投資が必要なネットワーク整備といった高コスト体質に陥る大手キャリアに比べ、スピーディでコストパフォーマンスの高いビジネスが可能だ。そして、そのことが、「格安スマホ」の異名で呼ばれる理由にもなっている。

実際、MVNOの料金設定は、大手キャリアのそれに比べれば大幅に安い。彼らは安かろう悪かろうをイメージされることを憂い、「格安スマホ」と呼ばれることを好まないようなので、「新モバイルキャリア」「新キャリア」とでも呼ぶことにしようか。君臨する旧来の大手モバイルキャリア、日本ではドコモ、au、ソフトバンクの三大キャリアに比べ、そのサービス料金設定は大幅に安い。

だが、楽天モバイルに限らず、新モバイルキャリアは次第にリアル店舗の展開に熱心になり、ベンダーから供給を受けた端末を自社ブランド製品としてラインアップしはじめた。特に楽天モバイルは、すでにある楽天経済圏の拡がりをうまく活用し、それを組み入れたコンテンツ供給や物販にまでビジネスの範囲を広げようとしているそうだ。

オリジナルモデルの投入にも積極的

端末を各ベンダーから調達し、サービスと組み合わせて提供することに異存はない。それによってワンストップサービスが可能になり、端末そのものからも利益を得ることができれば、リーズナブルな料金でサービスを維持できるかもしれないからだ。実際、新キャリアがラインアップする端末は、一部、独占販売のものがあるとはいえ、どの事業者も似たりよったりだ。キャリアに依存しないビジネスができる点で端末ベンダーにもメリットをもたらしている。

その一方で、安倍総理の「携帯電話料金が高くて庶民の家計を圧迫している」という意味の発言に端を発して、今、日本のモバイルキャリアの現場がちょっとした騒ぎになっている。これに対応するために、大手キャリアが価格を下げてきたら、新キャリアの価格の魅力が薄らいでしまう懸念もある。

ただ、新キャリアのビジネスを成立させているのは大手キャリアが莫大な投資を続けてきた結果としての品質の高いネットワークであることを忘れてはならない。そのおかげで、日本のモバイルユーザーは、過剰品質ともいえそうな世界でも類をみない快適なネットワーク環境を享受できている。もし、大手キャリアがサービス料金を下げることで、ネットワークへの新たな投資や整備にかかる費用が圧迫されるようなことが起こってしまうと元も子もない。そしてそれは、新キャリアのネットワーク品質にも影響を与えてしまうのだ。さらには、大手キャリアの値下げに伴い、新キャリアはコストギリギリの戦いを強いられる可能性もある。それは安かろう悪かろうの世界への実質的な突入を意味することを忘れてはならない。

リーズナブルな料金で宿泊できる駅前ホテルも、その何倍もの宿泊料金がかかる高級ホテルも、ベッドの上でぐっすりと眠れるという点では同じだ。モバイルキャリア選びはそれに似ている。いたれりつくせりのサービスを求めれば高くなるし、それを自己解決できるなら安くて済む。寝るだけだったらどこでも同じという判断はそれはそれで正しい。

高級ホテルに泊まってよかったと思うのは、日常的なサービス品質のみならず、もし、何かアクシデントがあった場合の的確な判断に基づく手際の頼もしさだ。何事もなければ駅前ホテルとたいして居心地は変わらないかもしれない。

大事なことは選択肢が豊富にあるということだ。通信の品質というのは実にわかりにくいが、大手キャリア、新キャリアの数ある事業者をひとつひとつ比較すれば、決して品質が横並びではないことがわかる。

消費者としてできることは、提供されるサービスの内容とその料金のリーズナブルさを知ることだ。携帯電話料金が高いと嘆く前にできることはたくさんある。料金明細をきちんと確認して、自分が何にどれだけ料金を支払っているのかをじっくりと検討してみることも必要だろう。毎月、どのくらいの音声通話をしているのか、パケット消費量はどのくらいなのかを把握しているだろうか。料金体系がわかりにくいと文句をいうのは簡単だが、本当にその体系を調べてみようとしただろうか。

自分にはいったい何が必要なのかを吟味して、必要なものだけにカネを払うことを考えよう。選択肢のひとつとして、ようやく認知し始められた新モバイルキャリアの芽をつぶしてはならないし、そのビジネスを成立させているネットワーク供給元としての大手キャリアにも、しっかりとしたビジネスを続けてほしいのだ。

(山田祥平 http://twitter.com/syohei/ @syohei)