35歳以上の結婚・出産が増えています。人生の持ち時間は長くなったけれど、生涯収入の手取りは減少傾向、社会の変化も激しい時代です。常識にとらわれ過ぎないお金との向き合い方を考えます。

住むための費用負担は大きい

アラフォー結婚において、お金の収支に大きな影響を与えるのが住むための費用です。最近はシングルで住宅を購入する人も増えています。結婚前の2人の状況としては、どのようなパターンがあるでしょうか?

  • パターン1 : いずれも賃貸

  • パターン2 : 夫婦ともにシングル時期に住宅を購入済み、住宅ローン残高あり

  • パターン3 : 一方が住宅購入済みで住宅ローン残高あり、一方は賃貸

  • パターン4 : いずれも実家で暮らしていた

……

順列組合せで行くと、もっとたくさんのパターンがありますが、話をわかりやすくするために、(1)賃貸、(2)住宅購入済みで住宅ローン残高あり、(3)実家、の3つのケースで考えてみましょう。

(1)賃貸の場合の支出は?

まずは支出の面です。(1)賃貸のケースでは、このまま住宅を買わないとすると毎月家賃の支払いが続きます。毎月の家賃を8万円と仮定すると(住んでいる地域により違いますので、ご自身の計算には自分の数字を当てはめてください)。

寿命が延びていますから、40歳から90歳まで生きるとして、

  • 8万円×12カ月×50年=4800万円

更新料や引越しなどの費用は入れずにこれだけかかります。

一方、今後の収入について。会社員の平均的な生涯賃金は約2億円といわれています。40歳前後ということは、すでにこのうち半分近くを受け取っています。20代30代よりも40代以降は収入が増えるとして、これからもらえる賃金が全体の7割なら1億4000万円、6割なら1億2000万円です。ここから住まいの費用4800万円を払うと残りは7200万円~9200万円。これで他の支出をまかないながら、セカンドライフに向けた貯蓄をすることになります。

現在の年収から今後の年収を推測して計算することもできます。これから60歳の定年までの平均年収を600万円と推測する人なら…。

  • 600万円×20年(40歳~60歳)=1億2000万円

  • 1億2000万円-4800万円(90歳までの家賃)=7200万円

ほぼ同じような数字がでてきましたが、これで残りの支出および貯蓄をまかなわねばなりません。

つまり、年収や家賃にもよりますが、大まかに言えば、そこそこの家賃を払って暮らしていくとすると、これから入ってくる収入の3割~4割を住むための費用(家賃)として支払うことになりそうということです。

2人とも正社員で同じくらいの収入があるなら残りのお金も2倍になりますから1人よりは心強いです。相対的に家賃の比率も下がることになります。それにしても、けっこうな金額ですね。

ちなみに家賃を払った残りを50年間で使うとすると1か月あたりは…

  • 7200万円~9200万円÷50年÷12カ月=12万~15万3000円

ガーンとショックを受けた人もいるのでは? この金額で家賃以外の支払いをして貯蓄もできる? 大丈夫です。65歳以降は公的年金がもらえますし、人によっては勤務先からの退職金や企業年金も加わります。また2人が正社員で同程度の年収なら、残りの金額は倍の24万円~30万6000円に増えます。ただし、これらの試算はインフレなどを考慮しない大まかなものだということを心に留めておいてください。

(2)すでに購入している場合の支出は?

(2)のすでに購入している場合は、住宅ローンの支払いが終われば月々の支出は減りますが、固定資産税などの支払いは続きますし、住宅のメンテナンス費用がかかります。

(1)賃貸や(3)実家に暮らしていた人がこれから買う場合も同様です。持ち家の場合、忘れてならないのがリフォームなどのメンテナンス費用。中古住宅ならメンテナンスのみならず建替えが必要になるケースもあるでしょう。メンテナンスや建替えの費用は数百万円~数千万円(上を見るとキリがありませんが)かかります。

またこれから買う場合は、住宅ローンを組める期間が短くなるので(40歳前後から35年ローンは、もし銀行が貸してくれたとしてもダメです。60歳か遅くとも65歳には返し終わること)、同じ金額を借入れたのであれば、月々の返済額は多くなります。

これからの2人の生活を予測して、シミュレーションする必要

このように住まいの費用負担はとても大きいのです。いくらくらいの家賃の家を借りるか、買うなら予算と住宅ローンの期間をどうするか、これからの2人の生活を予測して、いろいろなパターンをシミュレーションし、慎重に考えねばなりません。住まいのための費用を少しでも減らせれば、その分を他の費用に充てることができます。

例えば子どもを持つ場合、実家に同居できる、親の土地に二世帯住宅を建てて暮らせるなどの選択肢があり、住まいの費用負担を減らせるなら、その分を子どもの教育費に回せます。その際には、当然ですが、実家の状況や親の考えも確認する必要がありますね。

住み方の"試用期間"を持とう

アラフォー結婚は、ともに正社員のケースが多いと考えられます。そもそもどこに住むのが2人の仕事にとって便利か。どちらかがすでに住宅を購入している場合、広さや通勤の観点からそこに2人で住めるのか。

もっとも避けたいのは、あわてて買って無理な住宅ローンを組んでしまうことや、住宅の立地や構造を吟味しないまま買って後悔することです。

住む場所、暮らし方も含めて、1~2年はお試し期間を持ちたいもの。賃貸なら引っ越しは比較的簡単。まだ家を購入していない2人なら、まずは賃貸で希望の場所に暮らしてみましょう。買う場合も、暮らしている地域の情報は入りやすいですし、環境や自治体サービスなども実際に体験して決めることができます。暮らしてみたら予想と違っていたから別の地域に引っ越ししようということもあるでしょう。転職や親の介護などにより引っ越しを余儀なくされることもあるかもしれません。この時期にお互いの親との相性、同居や二世帯住宅での暮らし、二世帯近居ができそうかも確認しておきたいものです。

すでに住宅を持っている人も、これからの暮らし方に合わせてローンの返済計画を見直したり、買換えを検討したりする必要があるかもしれません。

現在のアラフォーが65歳前後になる25年後までには、物価や土地価格はかなり変動するでしょう。現在でも首都圏と地方都市の不動産価格の差は非常に大きいのですが、これがさらに開く可能性もあります。

余裕を持って、吟味した物件を購入できるのであれば、低金利の今、住宅は買い時とも言えますが、あくまで主役は住宅ではなく、2人の生活です。住まいのための費用に振り回されないよう、冷静に検討してください。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

<著者プロフィール>

ファイナンシャルプランナー 坂本綾子

20年を超える取材記者としての経験を生かして、生活者向けの金融・経済記事の執筆、家計相談、セミナー講師を行っている。著書『お金の教科書』全7巻(学研教育出版)、セミナー『子育て力のあるお金の貯め方、使い方』『小さな消費者へのお金の教育』など。