【コラム】

中東とエネルギー

6 「OPEC」と欧米の石油メジャーの関係はどうなっている?

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連載『中東とエネルギー』では、日本エネルギー経済研究所 中東研究センターの研究員の方々が、日本がエネルギーの多くを依存している中東イスラム地域について、読者の方々にぜひ知っていただきたい同地域の基礎知識について解説します。


世界の石油市場を席巻した石油メジャー

最近は「石油メジャー」という言葉を耳にする機会は減った。しかし、時代を遡れば、彼らが世界の石油市場を支配していた時代が確かに存在した。

石油メジャーとは、国際石油会社のことで、強大な資本力や技術力を以て石油の上流部門(探鉱・開発等)から下流部門(精製・販売等)までの全てのプロセスを担う巨大企業を指す。1882年、米国でジョン・D・ロックフェラーがスタンダードオイルトラスト(後のエクソン・モービルなど)を設立したのがその始まりだ。

20世紀初めから1960年頃までの長きにわたって、石油の生産をほぼ独占状態に置いた石油メジャー7社は「セブン・シスターズ(Seven Sisters)」と呼ばれた。後に資源ナショナリズムを背景に石油輸出国機構(OPEC)が主導権を握るまで、石油メジャーが世界の石油ビジネスのほぼ全てを支配していた。当時、彼らは世界の石油市場に君臨する特別な存在であり、その影響力の大きさゆえに恐れられていた。

1950年代以降、産油国の間に資源ナショナリズムが高揚し、資源に対する権利意識が強まった。1960年代には、産油国は自らの権益を擁護すべく、OPECの創設に至った。1970年代に入ると、反欧米の風潮がいっそう産油国に広まり、メジャー支配からの脱却を狙っていた産油国は、次々と石油開発への経営参加と国有化を推進し、石油利権を奪還していった。こうして石油メジャーによる石油支配は終わりを告げた。

影響力が弱まっていた石油メジャーにさらなる打撃となったのが1997年のアジア金融危機であった。世界経済の景気後退を受けて石油需要が低迷した結果、供給過剰となった原油は大幅に下落し、ブレント原油は翌年には1バレル平均12ドル台へと低下した。油価下落に直面し、石油メジャーは合併で事業再編を進めた。その結果、米国のエクソン・モービルとシェブロン、英国のBP、英国とオランダ資本のRD Shell、フランスのTotalの5社に集約され、今日の「スーパーメジャーズ」が形成された。

資源埋蔵量で圧倒するOPEC、シェール革命の影響

OPECとスーパーメジャーズの現在の実力を比較してみよう。原油生産量ではOPECが世界の生産シェアの42%、石油メジャー5社が同10%とOPECが優位に立つ。また、原油埋蔵量ではOPECのシェア71%に対して、石油メジャーはわずか3%弱にとどまる。このようにOPECと石油メジャーの資源量の差は非常に大きく、新しく開発される鉱区は「フロンティア」と呼ばれる開発困難な地域が中心となるため、将来逆転する可能性はほとんどない。また、以前には大きな差があった技術力の面でも、今ではOPECが力を蓄えてきており、かつてのように石油メジャーに依存するかたちとはなっていない。

石油輸出国機構(OPEC)ホームページ画面

原油生産量や原油埋蔵量では圧倒的な力をもつOPECであるが、2008年頃から始まったシェール革命の影響を受けて、国際原油市場への影響力は大きく削がれることとなった。米国でのシェールオイルの増産により、原油市場は大幅な供給余剰となったが、OPECは昨年11月の総会で減産を見送り、油価が急落するのを放置した。OPECは、需給の調整役を放棄することで高コストのシェールを狙い撃ちしたとの見解が多く聞かれたが、シェールオイルという新たな供給源の出現で市場支配力が低下したのは明白だ。

こうして国際原油市場で一躍注目されることになったシェールオイルであるが、生産業者はそのほとんどが米国の中小・独立系企業であり、石油メジャーの参加は限られている。従って、OPECと石油メジャーが市場支配を巡って対立するという構図はここでは成立しない。

原油安で石油メジャーは投資を削減、資源埋蔵量の差が将来拡大

原油価格は一時期よりは回復したものの、依然として低水準で推移しており、原油安はOPECのみならず石油メジャーにも大きな影響を及ぼしている。OPEC諸国の財政収支の悪化が懸念される一方で、石油メジャーは今年度予算で軒並み資本支出を削減しており、将来の原油生産量ならびに埋蔵量の積み増しに陰りが出ることが懸念される。

OPECは豊富な石油埋蔵量を保有しており、将来にわたって安定した供給を継続できるであろう。それに対して、石油メジャーの保有量は原油安が続けば、投資の抑制により、OPECとの差が一段と拡大する恐れがある。しかしながら、シェール革命が石油埋蔵量を大幅に拡大したように、技術的進歩は資源開発上の制約を大きく変容させる力をもつ。石油メジャーは、大水深での海底資源の開発技術など、現在優位性を保っている分野を始め、一段と技術力に磨きをかけ、競争力を維持していく見込みである。

<著者プロフィール>

永田 安彦(ながた やすひこ)

日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長兼研究主幹。石油会社勤務等を経て現職。専門はGCC諸国のエネルギーと経済の調査研究。特に、サウジアラビアとUAEに焦点を当てている。また、国際原油市場についても、長年調査研究に従事しており、OPECやサウジアラビアの石油政策の動向等と合せて、テレビ等のメディアで解説の機会を得ている。著書に、『米国投資銀行の事業概要と石油先物市場での戦略』(共著、日本エネルギー経済研究所)等がある。

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インデックス

連載目次
第12回 「カタール」って日本にとってどんな存在?
第11回 石油の出ない『ドバイ』がお金持ちなワケは?
第10回 「クルド人」ってどんな民族?
第9回 「イラン革命」って何だったの?
第8回 「湾岸協力会議(GCC)」って何のための組織?
第7回 湾岸戦争後の「クウェート」は今、どうなっている?
第6回 「OPEC」と欧米の石油メジャーの関係はどうなっている?
第5回 「ホルムズ海峡」ってどんなところ?
第4回 "産油国"でない「エジプト」が中東で重要視される理由とは?
第3回 石油ショックをもたらした「OPEC」の今の影響力は?
第2回 サウジアラビアはなぜ"中東の盟主"なのか?
第1回 日本にとっての「中東」の重要性とは?

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