前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

結婚披露宴の演出に音楽は不可欠だ。新郎新婦の入退場からケーキカット、歓談中に至るまで、実に様々なシーンで宴を盛り上げるための楽曲を使用する。

中でも、入退場時の音楽はことさら興味深い。僕も今まで様々な披露宴に出席させていただいたが、ここの選曲ほど新郎新婦の個性が際立つものはないだろう。往々にして、新郎新婦のどちらか、あるいは双方にとって思い入れのあるミュージシャン(アーティストという言葉はあまり好きじゃない)の楽曲を使用するからだ。

僕とチーの披露宴でも入退場曲にはこだわった。とりわけ、新郎新婦お色直し後の再入場曲には一番神経を使った。僕らの披露宴では、この再入場の際にそれぞれのゲストテーブルにキャンドルサービスを行う予定だったからだ。

キャンドルサービルは一般的に披露宴で一番盛り上がるシーンとされている。しかも、それぞれのテーブルを順番にゆっくり回るわけだから、所要時間も約10分と、それなりに長い。披露宴における音楽演出の、見せ場中の見せ場なのだ。

そこで僕らは人気ヴァイオリニスト・花井悠希さんのアルバムから、彼女が演奏するヴァイオリン楽曲を3曲選び、それをメドレー形式で流すことにした。

こういうとき、僕は歌詞のない曲を選んだほうがいいと思っている。下手に歌詞のメッセージ性が強すぎると、聴いている人の耳と意識が歌詞に捉われてしまい、結果的に余計な情報を与えてしまう危険性もある。それは男女の愛を綴った歌詞でも一緒だ。僕とチーだけの心情を、なぜに赤の他人に代弁されなければならないのか。

それと近い理屈で、僕らは花井悠希さんがヴァイオリンで演奏する曲の作曲者、すなわち原曲保持者の正体もわざわざ明かさなかった。

なぜなら、それが‘さだまさし’だったからだ。

ご存知の通り、さだまさしといえば日本を代表するシンガーソングライターだ。特にその歌詞の秀逸さは評価が高く、私見では文学的を通り越して、完全に文学の域に達していると思う。また、歌詞もさることながらメロディメーカーとしても素晴らしい才を持った方だ。ご本人が幼い頃からヴァイオリンに造詣が深かったからか、ヴァイオリンの音色と実に相性のいいメロディを数々生み出している。

しかし、なぜだろう。これはあくまで僕の勝手な感覚なので、誤解を恐れず堂々と書くが、どういうわけか僕と同世代、あるいはそれより下の20代の若者になってくると、「さだまさし=暗い、古い、オッサンくさい」などといったネガティブなイメージを抱いている人が多い気がする。だから僕は披露宴の司会者にお願いして、曲紹介をする際、あえて作曲者のさだまさしの名前を出さないようにしてもらったのだ。

一応断っておくが、僕はさだまさしさんの大ファンである。好きな曲を挙げればきりがないし、今でも家でよくCDを聴いている。カラオケでも頻繁に唄うし、一時期は車の中のBGMもずっとさだまさしにしていたぐらいだ。

それぐらい敬愛しているからこそ、世間の声が身に沁みてわかる。今まで僕はさだまさしの大ファンであるということを友人から散々笑われてきた。学生時代、カラオケでさだまさしの曲を唄えば、百発百中で大ブーイングが起こった。理由はおおかた前述のネガティブイメージだ。やれ暗いだの、やれ古いだの、やれオッサンくさいだのと、よく知りもしないくせに、勝手なイメージだけで一刀両断されてきた。

実際、披露宴の余興ネタとして、僕の実の妹で、現在は声楽家として活動する山田祥美(ツイッター:@sachimi_nya)がさだまさしの『天までとどけ』という曲を唄ったのだが、その曲紹介のときも彼の名前が出ただけで、披露宴会場の数箇所から少し吹き出すような笑いが起こった。僕の推測は、あながち間違っていなかったのだ。

うーん、一体どうしてだろう。長年に渡って数多くの名曲を世に送り出してきた稀代のヒットメーカーであり、偉大なミュージシャンであるにもかかわらず、なぜにこうも20代から30代のウケが悪いのだろう。本当に悔しくてしょうがない。

小田和正や井上陽水といった、さだまさしと同世代のフォーク系シンガーソングライターが今でも老若男女に幅広く支持されているところを見る限り、今年で59歳という彼の年齢やフォーク系の楽曲ジャンルはあまり関係ないだろう。だとしたら、外見から勝手に判断されるイメージが悪いということか。さだまさしは頭髪が薄い(失礼!)からオッサンくさいと判を押されるのだろうか。それも哀しいなあ。

とにかく何が言いたいかというと、ウェディングソングとしてのさだまさしはやっぱり素晴らしいということだ。彼の曲をよく知らないという若い世代にこそ、勝手なイメージに捉われず、是非一度じっくり聴いてほしいと思う。最近流行しているメッセージソングの類なんか、一気に霞んでしまうに違いない。たぶん。

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