前回までのあらすじ

超マイペース且つ大雑把なB型男子である僕の彼女は、あろうことか超几帳面なA型女子だった――。このエッセイは独身B型作家・山田隆道が気ままに綴る、A型彼女・チーとの愛と喧嘩のウェディングロードです。

チーの鞄はすごい。仕事はもちろん、休日の外出時であっても、いつも驚くほど鞄がパンパンに膨れ上がっている。毎日が旅行鞄みたいな持ち物の量なのだ。

「いつも鞄が重いけど、いったい何が入ってるの?」僕は思い切って訊ねてみた。

「えっ、別に普通だよ。たいしたものは入ってないし……」チーは興味津々の僕を逆に不思議がるような顔をして、淡々と鞄の中身を見せてくれた。「ハンカチでしょ、タオルでしょ、化粧ポーチでしょ、あと財布に携帯……。いつ喉が渇いてもいいようにペットボトル、いつ噛みたくなってもいいようにガム、いつ舐めたくなってもいいように飴、小腹がすいたときのためにちょっとしたお菓子、あとパン……」

僕は早くも唖然とした。なんだ、その災害対策みたいな考え方は。飲み物や軽食類はそれを欲するたびに購入すればいいじゃないか。安いんだし。

その後もチーはまるでドラえもんのように、鞄から次々と持ち物を取り出していった。中でも気になったのは、似たようなシート類がたくさん出てきたことだ。

「ちょっと待った。なんでシート類がこんなにたくさんあるの?」と僕。

「だって用途に応じて使い分けるじゃん」チーは平然と言った。「まずティッシュでしょ、それからウェットティッシュでしょ、あと汗拭きシート、ビオレのメイクしたまますっきりシート、もしものときのための足拭きシート……」

「もしものときのための足拭きシートってなに?」

「例えば居酒屋とかで靴を脱がなくちゃならないとき、足が臭ったら嫌だから」

なるほど。なんて用意周到な女なんだ。一見無駄かのように思えるが、一応チーの中ではすべてが必需品のようだ。もちろん、夏場は制汗スプレーや虫除けスプレーも常備している。ちなみに、なぜかお手拭シートもあった。チーの中ではウェットティッシュとお手拭シートはまったくの別物らしい。

さらにチラシやフリーペーパーの類もたくさん出てきた。なんでも、チーは外出先で気になった店のチラシやフリーペーパーを発見したら、基本持ち帰るようにしているとか。また、音楽を聴くためのiPodとそれに付随するイヤホンと充電器、文庫本三冊(これがかさばる!)など、いわゆる暇つぶし用の各種グッズも常に持ち歩いているため、鞄はますます膨れ上がってしまう。

「あと、ピアスとシュシュも常に数種類持ち歩いているよ」とチー。鞄からそれらのファッショングッズが次々に顔を出してくる。「昔は帽子も二種類ぐらい鞄に入れてたんだけどねえ。外出先で気分が変わったときにいつでも交換できるでしょ」

「へえ……」僕は驚きを通り越して、すっかり感心していた。

「あとは目薬、リップ、歯ブラシ、ハサミ、カッター、ストロー、お箸、中身のない小銭入れ、クリアケース数種類、ビニール袋が数枚、絆創膏……」

「ハサミとカッターってどんなときに使うの?」

「自分が必要とするときもそうだけど、普段、友達といるときなんかに『誰かハサミかカッター持ってる?』みたいな話になったりするじゃん?」

「なんねーよ!」

「確かに滅多にあるもんじゃないけど、たまにそういうことがあったときに、わたしが『ハサミ持ってるよ。カッターもあるし』って言うと、友達の間でヒーローになれるじゃん。あれが気持ちいいんだよね。絆創膏とかも同じ要素を含んでいるよね。実際、こないだ会社で靴擦れした同僚に絆創膏あげたら超感謝されたもん」

「じゃあ、中身のない小銭入れはどういうときに使うの?」

「例えば会社で鞄を持たずにランチ行くときとか、自販機にジュース買いに行くときとか、必要なお金だけを持っていきたいじゃん」

「そんなの手で握っていくか、ポケットに入れりゃいいだろ」

「女の洋服はポケットが少ないのよ。あと、手で握ると落とすかもしれないし」

言葉を失った。その他、クリアケースやビニール袋もチー特有の「もしも対策」らしい。もしも折り曲げちゃいけない書類やチラシを入手したときにクリアケースがあったら便利、もしもゴミが出たりタオルを濡らしたりしたときにビニール袋があったら便利、チーはそういう危機回避機能が必要以上に充実している女なのだ。

「あと手帳でしょ、自分日記でしょ、三年日記でしょ、メモ帳でしょ……」

まだあんのかよ――っ。チーの持ち物チェックはいつまで続くのか。まさか二週にわたるとはまったく計算できなかった。おそるべし、鞄パンパンガールだ。

というわけで、次週も続きます。

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