ラブホテルの休憩はなぜ2時間が多いのだろう。大昔にラブホテル業界の偉いさんが「セックスの所要時間なんて大体そんなもんでしょ」という主観で決定し、それが何の疑問も改革もないまま、現在まで受け継がれているということか。

そんなことを考えていると大学時代の友人であるTのことを思い出した。彼は九州の片田舎から一浪を経て、東京の大学に進学してきたため、1年生の4月に知り合った時点で19歳。誕生日が6月のため、あと2カ月足らずで記念すべき20歳を向かえる純朴な青年だった。 ゴールデンウィークが過ぎた頃、Tにはかわいい彼女ができた。出会ったきっかけはテニスサークルの新歓コンパ。厳しかった受験戦争の反動からか、Tはそういった死ぬほどベタベタなキャンパスラブに憧れていたわけだ。

しかし、Tには同時に焦りもあった。6月の誕生日まで、つまり、あと1カ月弱で彼女と初Hを済ませなければならない。Tはまだ童貞だったのだ。

「20歳までには絶対、童貞を卒業したいっちゃ!」

Tは興奮すると九州なまりが炸裂する牧歌的な男だった。詳しく聞くと、今まで彼女がいたことは一度もなかったらしく、セックスどころかキスをしたこともないという。中学高校時代はいつも勉強の傍ら、エロ本やエロビデオで女体の神秘に羨望を募らせ、性に関する知識だけは人一倍膨らませていったT。だからこそ、「童貞のまま成人するのだけは嫌っちゃ!」と妙なプライドも人一倍だったのだ。

かくしてTは彼女との初H、つまり童貞喪失のためにあれこれと思案に暮れていたのだが、その甲斐あって5月の末ごろ、ようやく彼女をラブホテルに連れ込むことに成功。見事、19歳ぎりぎりで初体験をクリアしたかに思えた。

しかし、その翌日。Tは沈んだ表情で、昨夜の顛末をこんな一言で述懐した。

「時間が足りんっちゃ……」

は――? どういうこと? 時間ってなんのことだ。

「なんでラブホテルの休憩って2時間しかないんっちゃ!」

なんでもTは彼女をラブホテルに連れ込み、初Hに突入したのはいいものの、本格的なプレイボールの前に泣く泣くタイムオーバー。延長する金も持っていなかったため、その日は未遂のまま終わったらしいのだ。

しかも、Tの彼女は実家暮らしで、親から外泊許可がなかなか下りないため、Tの家やラブホテルに泊まったりすることができない。つまり、Tと彼女の逢瀬には常に制限時間や門限との戦いがあるわけだ。

そこで次に、Tはラブホテルのフリータイムを利用した。昼間のフリータイムなら午前11時から夕方5時まで最大6時間はある。さすがの童貞ボーイでも今度こそは余裕だろう。初体験特有のぎこちない時間の使い方があったとしても、6時間もあれば充分にプレイボールからゲームセットまで完遂できるはずだ。

しかし、その翌日。Tはまたもこう悔しがった。

「あと一歩でタイムオーバーっちゃ!」

おまえ、一体どんなセックスしてんだよ! 僕は思わず声を荒らげた。

6時間もあって、なんでセックスの一つぐらいできないんだ。いくらなんでも所要時間が長すぎる。もしかして、Tは尋常じゃないほどの遅漏なんだろうか。

しかし、実際は前戯が終了した段階でタイムオーバーになったという。Tは照れくさそうに「いやあ、ホテルに入ってすぐにスタートしたんだけど、なんか夢中になって色々してたら、どんどん時間が経っちゃって……」と首をひねっていた。

僕は少し怖くなった。「夢中になって色々してたら」って一体なんなんだろう。どこをどうしたら6時間もかかるんだ。中高時代の自主的な性教育の結果、Tの性行為プログラムはものすごいマニアックなラインナップになっているのかもしれない。

その後、Tは6月の誕生日直前の日曜日に、自分が独り暮らしをするアパートに彼女を朝8時に呼び寄せ、正午前から夜の9時ぐらいまで、延々と長すぎる性行為に励んだ結果、なんとか初体験を完遂した。なんでも途中でトイレ休憩を数回挟んだらしい。所要時間およそ10時間。その間、どんな行程を踏んだのか詳細なレポートを提出して欲しいと思ったが、彼女の名誉のため、それはもちろん断念した。

ちなみにTは30歳をすぎた今でも「2時間じゃ足りんっ」と一人でラブホテル業界に憤慨している。ますます興味が尽きないTの性行為プログラムである。

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