大阪のオバちゃんを見ていると、時々不思議に思うことがある。一般的によく言われるのが飴玉をアメちゃんと呼ぶ、鞄になぜか必ずミカンが入っている、コンビニでも値切るなどといった奇妙な習性の数々だが、中でも僕は「弁当を分析・解説しながら食べる」という光景に目を奪われてしまうのだ。

「(椎茸を箸で掴んで)これは……椎茸さんを甘辛く煮たんちゃうか。(食べて)ほうほう、なかなか。ほんで、これは……里芋さんと蓮根さんと人参さんを筑前煮風に味付けて……(食べて)ほう、ええあんばい。ほんで、こっちはインゲンさんをゴマであえて、こっちは小松菜さんをお浸しにして……」

新幹線などでこういう光景を見るたびに僕は笑いそうになってしまう。グルメリポーターじゃないんだから一体何のためにいちいち作り方を解説しているんだ。隣で寝ている僕にしてみたら、目を瞑っていても勝手に弁当の全貌がイメージできちゃうじゃないか。しかも、食材を全部‘さん付け’で呼ぶ理由はどこにあるんだろう。

さて、そんな「分析・解説」といえば僕がかつて見事にふられてしまったA型女子のリエ(仮名)である。彼女もまた「分析・解説」を得意とする女の子だったが、その対象が弁当ではなく、恋愛時におけるB型男子の行動パターンだったのだ。

「あたし、B型の男と付き合ったことないから怖いんだよね。例えば三日間だけ試しに付き合ってみて色々見させてもらってもいい?」

僕が交際を申し込むとリエはそんな試用期間を願い出た。とりあえず三日間限定で仮想の恋人同士を演じ、その間に僕と付き合うかどうか結論を下すという。

僕はこれを勝手に『恋の三日間条約』と呼んだ。考えてみれば失礼な話だが、「三日後の深夜12時に三日間条約を無期限に延長するかしないか発表する」というリエのアイデアがシンデレラみたいで面白かったため、ついOKしてしまったのだ。

しかし、それからの三日間は心の休まる暇がないぐらいストレスの連続だった。

「ふーん、あんたっていつもそういうの食べてるんだ。結構、粗食派なのね」

「ふーん、あんたってハンカチ持ち歩かないんだ。まあ、男だもんね」

「ふーん、あんたってカバンを地面に平気で置けるんだ。汚れとか気にしないのね」

リエは僕のなにげない行動をつぶさにチェックし、そのたびに何か含みを持たせる表情をした。僕が「何か気に障った?」と聞いても「すべては三日後」と言葉を濁すだけ。他にも「ふーん、洋服のたたみ方は適当なんだ」「洗い物はまとめてするタイプね」「メールは簡潔に済ませる人なんだ」など、とにかくリエのチェック項目は広範囲に及び、僕の予想をはるかに超えていくのだ。

いやはや、相当辛いっすよ、これ。ずっと気を抜く暇ないもん。普通に食事しているだけで「ふーん」が何回も飛び出すんだから食欲もなくなるっつうのっ。

おまけに僕の部屋でちょっといい雰囲気になったとき、「これも三日間条約のチェック項目の一つ」と思って僕がリエに迫ろうとすると、

「ふーん、そんな感じで迫ってくるんだ。わりと強引系なのね」

お、おい、そんなこと言われたら恥ずかしいじゃないか!

「へえ、電気は消さないほうなんだ」

いや、そういうわけじゃないけど、じゃ、じゃあ消す?

「あ、女に言われたら素直に消すタイプなんだ」

うるしゃーいっ!!

結局、こんな調子でリエにあらゆるチェック(100以上言われた)をされまくった僕は三日後の深夜12時きっかりに「恋の三日間条約……(ここで5秒ためて)これにて終了!」とあっけなくふられてしまい、逆シンデレラへの夢は脆くも砕け散った。

しかも、分析結果については「心の中にしまっておく」という寝つきの悪い台詞を残して、最後まで教えてくれなかった。うーん、一体なにが理由でふられたんだろうか。いまだに気になる『恋の三日間条約』である。

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