まとめと考察

14nm++プロセスは、消費電力を増やさずに性能を引き上げるという話だったはずだった。しかし、実際には消費電力を大幅に引き上げて、Ryzen 7 1800Xに十分比肩しうるところまで性能を引き上げたのがCore i7-8700Kというプロセッサであるということが、今回のテストで明確に分かった。

実のところ、例えばCore i7-7700Kはフル稼働といっても実際にはThermalの関係もあるし、長時間Turbo Boostで動作したりはしないが、Core i7-8700Kは可能な限り長時間、全コアがフルにTurboで動いているとしか考えられない。

そうでもなければ性能の高さと、高い消費電力が説明できないことになる。消費電力の項での表2で言うなら、Core i7-7700Kは50Wで141GFlopsを出せる性能を持っている。この性能を倍増させるために3倍の電力を費やすという、とんでもない選択に打って出た。これは「何としてでもRyzen 7 1800Xを抜くんだ」という、Intel自身の執念を示している。

確かに性能は上がった。そしてこれが359ドル(日本での価格は現時点では不明)というボーナスプライスで提供される。そこまではいい。ただ、正直なところ「Intelの言うTDPとは一体何なのだ?」というのが筆者の率直な疑問である。

そしてこの消費電力の多さから、2つのことを連想することが出来る。1つはプラットフォームの刷新である。前も触れた通り、パッケージこそLGA 1151なものの、Intel 200シリーズまでのチップセットを搭載したマザーボードでは動作しない。

そりゃそうで、従来のVRMのままでこのCPUを装着したら、CPUへの電力供給が足りなくて正常に動作しないのはラッキーな方で、運が悪いとVRMが焼き切れかねない。Intel 300シリーズという形で新しいプラットフォームに強制刷新するのは、Coffee Lakeを利用するためには絶対に必要だったのだろうと想像できる。

もう1つはヒートスプレッダとの接合である。従来は消費電力が比較的低かったから、ヒートスプレッダとグリスで接続していても十分間に合った。ところがCoffee Lakeの場合、消費電力が桁違いに多いから、グリスのままだとすぐにThermal Throttlingを起しかねない。解決策は、放熱効率をずっと引き上げること。要するにグリスの代わりにSoldering(ハンダ接続)を利用することだ。

さすがにES品の殻割りをするわけにはいかないので確認はできないのだが、少なくとも今回試用したES品がSolderingを使っていることにHDD 1台賭けてもいい(*1)。量産品がどうなるかはまだ分からないが、普通に考えるとSolderingでないと持たないと思う。この選択を喜ぶユーザーは少なからずいるだろう。

まぁこれからの寒い時期には、発熱の多いPCも悪くないかもしれない。実は消費電力を測定する前から、明らかに消費電力が多い予感はしていた。というのは、Core i7-7700KやCore i5-8700Kでベンチを回している時とCore i7-8700Kで回している時で、明らかに室温が違ったからだ。この消費電力増をよしとして、さらに性能アップを望むユーザーは、Coffee Lakeへの移行を考えても悪くないだろう。

個人的には、Core i5でも十分な気がするのだが。表2~7で分かるように、消費電力効率はCore i5-8400の方がずっと良好である。性能もおおむねCore i7-7700K相当は確保できる。このあたりは個人の好みではあると思うが、選択肢の一つとして考慮しても良いと思う。

(*1) いや、WD Green 2TBが山ほどあまってて……