書店員をはじめとする漫画好きの有志が、その1年のイチ推し作品を決める「マンガ大賞2017」が発表された。ノミネート作品13作品の中から今年の大賞に選ばれたのは、柳本光晴氏の『響~小説家になる方法~』(小学館)。授賞式には柳本氏も参加し、受賞の喜びを語った。

漫画雑誌『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で連載中の本作は、天才的な文芸の才能をもつ女子高生・響の高校生活を中心に、響も認識できていないその圧倒的な才能が人の生き方すらも変えていく様を描く。小説を書くハウツー本のようなタイトルだが、そう思って読むと、「小説を書いて生きることが果たして幸せなのか!?」「才能をもつというのはどういうことなのか!?」という厳しい問いを投げかけられているようで、見事に予想を裏切られる作品。また、周囲からは理解されがたい行動や言動をとる響の強烈なキャラクターも、作品の魅力になっている。

壇上に登場した柳本氏(本人の希望により写真撮影には担当編集者が参加)は、自身も漫画好きであることから、「(過去の受賞作には)読んでない人がいないようなタイトルが並ぶ中、まさか自分の作品がそこに加わるなんて、ウソじゃなかったんだなとやっとわかりました」と第一声。電話で連絡を受けた際には、担当編集者も「あんなにドッキリだと言い張る人は人生で初めてでした」と評するほど、「ウソ?」「本当です!」とのやりとりを繰り返したという。

一緒に作品作りを行うアシスタント陣とは、受賞が決まった瞬間ハイタッチをしたと歓喜の場面を振り返りながらも、柳本氏は「その時に『先生、漫画は絵じゃないってことが証明されましたね』と、アシスタントの名言が生まれたんです」と自虐気味なエピソードを披露。

またテーマを「小説家」にした理由については、「自分が何を描けるのかと考えたときに、得意なことも好きなこともないし、部活もしたことがない僕は、手持ちでできるような題材をもっていなかったんですね。それで、じゃあ逆になんでもありなんじゃないかと思ったことが始めです。漫画の中でもメジャーな題材になっている野球やサッカーなどは素人が手を出せるものではないですし、とにかく好きじゃないとできない。かといって、誰も手を出していないマイナーなものにして偏ったものにはしたくないとも思っていました。なので、世間一般ではメジャーだけど、漫画ではあまり手を出していない題材はなにかと探していって、ちょうどあったのが『小説・文芸』だったんです」と明かす。

一方で、「なぜ手が付けられていないかといえば、文章は絵に起こせないからなんだろうな」と不安はありつつも、「キャラクターさえ生かせれば、このキャラクターだったらすごいものを書いているという説得力さえもたせられれば成立するのではないか」という確信をもって製作をスタート。作品全体を通して、「圧倒的な天才を描きたかった」との思いがあったことも語った。

キャラクターについては、「インタビューを受けたときに、『柳本さんって響に似てますね』とよく言われるんです。やっぱり自分の中にあるものなのかもしれません」とコメント。響が変わっていると言われることに対しては、「自分の中では変な人を描いているつもりはなくて、カワイイ子を描いているつもりなんですけどね……」と納得いっていない様子だった。

文芸をテーマとするだけに、作中では「芥川賞」や「直木賞」といったメジャーな文学賞が登場するため、実際に授賞式へ取材に行ったのか問われた柳本氏は、「取材したいとずっと思っていて、当日に会場である帝国ホテルに行ったんです。でも当たり前なんですけど案内などはいただいていないので、来たはいいけどどうしたらいいかわからず……。そのまま帰ってきてしまいました」と、響顔負けのエピソードを明かした。

授賞式後には記者からの質問が受け付けられ、「実写化した際に演じてほしい女優は?」との質問に、「実は受賞が決まってから、スタッフとのあいだでもよくその話をするんですけど、正直なところ本当に誰でもいいです。響が動くのを見てみたい」とうれしそうに語った柳本氏。担当編集者によると、「細かいことは言えませんが……」としつつも、実写化・アニメ化のオファーも届き始めているとのことで、連載と同様に今後の展開にも注目だ。

1年のうちに単行本が出版された作品で、最大巻数が8巻までの漫画の中から、漫画好きの有志が集まり、ノーギャラ・ボランティアで選考を行う「マンガ大賞」。漫画のエンターテインメント性を評価する賞として支持されている同賞も、今回で10回目となった。賞について柳本氏は、「『マンガ大賞』は、僕のイメージではすごく大きな賞です。大相撲だと優勝するとパレードがあるから、『マンガ大賞』でも大賞をとったらパレードとかしたいよねということを話していて、どうやったらパレードができるのかと考えたんですけど、それはやっぱり"年月"なんですよね。だから、『マンガ大賞』もあと200年くらい続けてパレードをやってほしい。そうしたら僕も10回目受賞者として名前が残りますから」と激励した。