旺文社、カシオ計算機、毎日新聞社の3社は2016年8月25日、3社が共同で立ち上げる新しい「英語応対能力検定」事業に関する共同記者会見を開いた。英語応対能力検定は、訪日外国人の増加傾向にある日本において、訪日外国人と接する機会が多いサービス業の現場スタッフなどに向けた検定プログラムだ。3社は2016年11月をめどに共同出資会社を設立し、2017年3月に第1回試験を実施する予定。

左から、カシオ計算機 代表取締役社長 樫尾和宏氏、旺文社 代表取締役社長 生駒大壱氏、毎日新聞社 代表取締役会長 朝比奈豊氏

2015年には1973万人を記録した訪日外国人。3年連続で過去の記録を更新しており、日本政府は従来の「2,000万人」という目標を「2020年に4,000万人」「2030年に6,000万人」と、大幅に引き上げた。

また、訪日外国人が2015年に飲食代や宿泊代として使った金額が3兆4,771億円に上るという結果をもとに、政府は「2020年に8兆円」「2030年に15兆円」という目標を掲げている。訪日外国人のインバウンド効果が高まるなか、さまざまな企業が訪日外国人向けビジネスソリューションの立ち上げを模索しているが、今回の旺文社、カシオ、毎日新聞社の3社による検定事業もその1つといえるだろう。

3社は、実際の現場でよく使う英会話に絞った「英語応対能力検定」を創出し、実施運営する企業を3社共同で設立することに基本合意。主な受験者としては、販売、宿泊、飲食、鉄道、タクシーといった訪日外国人と接する機会が多い業種のスタッフや、ボランティアを含む一般の方々を対象とする。

旺文社 デジタル事業部 執行役員 那須文隆氏

旺文社 デジタル事業部 執行役員の那須文隆氏は、検定名に含まれる「応対」は「コミュニケーションとして受け応えする。客をもてなす」という意味を盛り込んでいると説明。「訪日外国人に気後れせず向き合おう」というコンセプトから名付けたと述べた。なお、ロゴにある赤丸は日の丸を表し、青色の部分は相手をもてなす際の手、および富士山を表現したものだ。

那須氏は、総務省・観光庁が発表した「訪日外国人旅行者の国内における受け入れ環境整備にに関する現状調査」をもとに、「施設などのスタッフとコミュニケーションが取れない(英語が通じない)と応えた訪日外国人が35.7%もいる」と背景を紹介。アンケート調査の結果を交えて、訪日外国人の接客頻度が週1回以上あるとの回答が28.8%、訪日外国人に話しかける言語として英語がトップの59.3%と、英語によるオーラルコミュニケーションがもっとも多いと強調した。

調査企業によるヒアリング結果。サービス系事業の現場スタッフが訪日外国人と接する機会は増加している

さらに英話のスキルで不足しているのは、1位が話す力で83.5%、2位が聞く力で68.8%と、多くの人がスピーキングとヒアリングを苦手としている。一方、英会話の学習意欲がある人は59%で、会社が学習費用を支援するという場合は44.6%の人が学習したいと回答し、いずれも高い割合である。こうした潜在的な需要を踏まえて、3社は「英語応対能力検定」の立ち上げにいたった。

英語能力と学習意欲は、約半数のスタッフが必要であると感じている

英語応対能力検定は、今まで英語を使う必要がなかった方々や、英語に強いスタッフを増員する必要性を感じている企業を対象にする。既存の英語検定とは異なり、実践的かつ基本的な、「おもてなし英語力」を総合的に評価するため、「聞く」「話す」の2技能にフォーカス。同時に、相手が話す内容に対して適切に対応するための「読む」を含めた。ただし、難しい単語や長い文章、正確な発音などは必要以上には問わず、あくまでも「現場で使える」オーラルコミュニケーションの向上が主目的となる。

「英語応対能力検定」の基本コンセプト。英語に強い、ではなく、訪日外国人をおもてなしできる英語力を重視している

そのため英語学習で重要とされてきた「読む」は重要視していない

前述した5種類の業種を対象にした「業種別試験」と、街中で訪日外国人に英語で話しかけられたときの応対能力向上を目的とする「一般試験」を実施。試験結果も単純な合否ではなく、A/B/C/Dの4段階による総合評価方式を採用した。「自身の到達度を把握すると同時に、学習意欲の維持につなげる」(那須氏)とする。

最初のステップでは最低限の対応という意味で、「How can I get to Yoyogi Park?(代々木公園へはどのように行きますか?)」という質問に対して、「Go Straight.(真っ直ぐ行ってください)」と回答すれば合格。さらにステップが進むと、「Go Straight down this street.(この道を真っ直ぐ行ってください)」「Go Straight down this street and you'll find it in front of you.(この道を真っ直ぐ行けば見えてくるでしょう)」と、応対の丁寧さが向上していく。

検定試験をイメージとして示したもの。ステップ1をクリアできれば「Bに合格するかギリギリのライン」と那須氏は説明する

さらにステップが進むと、より丁寧な応対が求められる

いずれの試験もiBT(Internet Based Testing)を採用し、リスニングとリーディング、スピーキングを行う。スピーキングの試験では試験官対面形式や、PCなどのデバイスで録音した発音をサーバー上に保存し、担当者が聞き取って採点する方式を採用した。対応するデバイスはWindows PCやiOS/Androidタブレットに限られるが、今後はスマートフォンへの対応も計画している。受講料は6,500円程度で、2017年3月に第1回の試験実施を予定しているが、受講者は約1カ月の間に都合のよいタイミングで受講可能だ。現時点では、年2回の試験実施を予定している

「従来の試験のように体系的・網羅的ではなく、現場で実際に使える単語やフレーズを覚えて、気後れすることなく応対できる日本人を増やしたい。目標は3年間で10万人。5年間で累計100万人を目指す」(那須氏)。将来的には中国語への対応や、対応業種の増加を目指す。

英語応対能力検定の概要

受講者に示される結果内容。得点や観点別習熟度、総合判定が示される

学習支援ツールとして旺文社は公認書籍教材を10月に発売し、カシオ計算機は公認学習デバイスを11月に発売する

3社の役割だが、旺文社は試験問題の作成や公認教材の開発・販売を担当する。旺文社 代表取締役社長 生駒大壱氏は「2020年に向けて日本が観光立国となるには、おもてなし語学力が必要だが、語学力を身に付けるために必要なのは、勉強と動機付けの維持が非常に重要。(弊社は)教材やEラーニングを提供し、学習環境をバックアップしたい」と、取り組み語った。なお、試験問題の書籍などは旺文社が独占するものではなく、他の出版社からも発刊される可能性もある。

カシオ計算機は、公認学習デバイスの開発・販売を担当。カシオ計算機 代表取締役社長 樫尾和宏氏は、カシオの社是「創造 貢献」を紹介しつつ、「社長就任後、特に教育事業に注力してきた。海外では授業や試験で関数電卓を使う仕組みを関係者と協力して作り出し、年間2,500万台の出荷を実現している。市場に特化したデバイスを絶え間なく作り続けて、新たな市場創造で社会に貢献したい」とした。具体的には、2016年4月にリリースした英会話学習機「EX-word RISE」をベースに、旺文社が作成した教材を入れたデバイスを開発するという。

毎日新聞社は、発行媒体と連動した、英語応対能力検定の普及と広報を担当する。毎日新聞社 代表取締役会長 朝比奈豊氏は「日本人は完全な英語ができないと応対は無理と思い込み、引っ込み思案になってしまう。気後れせず向き合える日本人を増やす方法として検討を重ねて、今回の協業にいたった。2007年から行っている『ニュース時事能力検定』で蓄積したノウハウを活かして、活動を進めていきたい」と抱負を述べた。

阿久津良和(Cactus)