京都観光に慣れ親しんだ人でも、「天橋立」を訪れたことがある人は意外に少ないかもしれない。天橋立は日本海に面した京都府宮津市にあり、松島、安芸の宮島と並んで「日本三景」のひとつに数えられている。京都・大阪からの日帰り旅行圏内なので、関西方面へ旅行に出掛けるなら、一日を天橋立観光に当ててみてはいかがだろうか。今回は、新緑の季節の天橋立に出掛けてみる。

日本三景のひとつ、天橋立は、ぜひ「天橋立ビューランド」からの眺めを楽しみたい

股のぞきで絶景&ご当地のカツを味わう

京都駅から天橋立までは、特急で2時間の旅。京都駅を9時25分発の「はしだて1号」に乗れば、11時25分に天橋立駅に到着する。帰りは最終の京都行き「はしだて10号」が天橋立駅18時47分発だから、現地に最長で7時間滞在可能と余裕ある日帰り旅行が可能だ。

天橋立の絶景を楽しめる展望台は、宮津湾の南側の「天橋立ビューランド」と北側の「傘松公園」の2カ所ある。今回は、南北両方の展望台に登るプランを案内しよう。

天橋立駅に到着したら、駅構内に観光案内所があるので、まずは散策マップなどを手に入れておきたい。最初に目指すのは、天橋立駅から徒歩5分の場所にある「天橋立ビューランド」のリフト・モノレール乗り場だ。展望台を含む「天橋立ビューランド」は山の頂上にあり、リフトまたはモノレールで向かうことになる。頂上まではリフトで所要時間6分、モノレールは所要時間7分。頂上に着いたら何はともあれ、まずは天橋立の絶景を楽しもう。

天橋立ビューランドは展望台の他、観覧車やメリーゴーランドなどもある、ちょっとした遊園地だ

展望台から見下ろすと、「これが天橋立か! 」と思わず声を上げそうな景色が広がって見える。天橋立は宮津湾の入口を塞ぐように南北に続く全長3.6km、幅20~170mの砂嘴(さし)だ。取材に訪れた日は前日に大雨が降ったこともあり、濁った湾内と澄んだ外海の水の色が対照的なのが印象的だった。

天橋立の名前の由来は、日本神話に登場するイザナギノミコトが、天上と地上を行き来するためにハシゴを架けたところ、寝ている間に倒れ伏してしまったという故事に由来するという。つまり、天橋立とは"天に架けた橋"なのだ。

ビューランドの展望台は「股のぞき台」という名前が付けられており、この場所に立って股の間からのぞいてみると、目の錯覚で海と空が逆に見え、あたかも神話のように"天へと続く橋"のように見える。ちなみに天橋立を龍の姿に例える場合、この場所(宮津湾の南側)からの眺めは、天に昇った龍が再び地上に降臨する様(降龍)に似ていることから「飛龍観」と呼ばれる。言われてみれば、手前が龍の頭で、砂浜が龍の背びれに見える。

股の間からのぞいてみると、"天に架けた橋"であることをよく分かる

さて、ちょうどお昼になったので、園内の展望レストランで絶景を眺めながらランチをいただこう。こちらの店の名物「宮津風ソースカツ丼」(750円)は、豚カツではなく宮津湾産の"アサリの串揚げ"が使われている。筆者は「宮津風カツカレーライス」(900円)を食べてみたが、これも、もちろん"アサリの串揚げ"のカツカレー。ここでしか味わえないご当地グルメは旅の醍醐味だろう。

展望レストランでご当地ならではの「宮津風カツカレーライス」(900円)を

●information
天橋立ビューランド
入園料(リフト・モノレール代含む): 850円
※モノレールは1時間3本の運行

天橋立を歩いて渡る

天橋立は徒歩のほか、レンタサイクルで渡ることもできるが、今回は景色を楽しみながらのんびり歩いてみたい。道の両側にはその数およそ8,000本という松林が続き、松林を抜けると夏には海水浴場にもなるという白い砂浜が広がっている。

美しい松林、白い砂浜、明るい海が印象的

日本海というと、やはり暗いイメージがあるので、この陽光降り注ぐ明るい浜辺はちょっと意外な感じがした。宮津市の北に位置する京丹後市には「天女の羽衣伝説」が伝わるが、この松林と浜辺はまさに天女が舞い降りてきそうな雰囲気だ。

道を行くと、所々に与謝蕪村や松尾芭蕉、与謝野寛・晶子夫妻らの句碑が立っており、歴史に名を残す俳人たちが天橋立の絶景をどのように詠んだのかを確かめながら歩くのも面白い。

与謝野寛・晶子夫妻の句碑

傘松公園からの眺望「昇龍観」と観光船

宮津湾の北岸に到着したら、まずは「籠(この)神社」の境内へと進もう。籠神社は、伊勢神宮が現在の三重県伊勢市に鎮座する前におまつりされた「元伊勢」の伝承地のひとつに数えられている、大変古い歴史を持つ神社だ。

「元伊勢」籠神社の鳥居

神社の社殿に向かって左の道に進むと、間もなく「傘松公園」へのリフト・ケーブルカー乗り場がある。ケーブルカーに乗ったなら、標高が上がるにつれて次第に天橋立が目の前に現れてくるのを楽しもう。同じ天橋立を見ても、傘松公園からの景色は、先ほどの「天橋立ビューランド」からの景色とはずいぶんと違って見える。ちなみに、傘松公園からの眺めは天に昇る龍に例えて「昇龍観」という。

傘松公園からの眺望は、天に昇る龍に例え「昇龍観」と呼ばれる

さて、最後は観光船に乗って天橋立駅のある南岸に戻ることにしよう。左側の船窓から天橋立がよく見えるので、できれば通路の左側の席を確保するのがいいだろう。船内ではカモメのエサが売られていて、航行中、船尾に群がるカモメにエサをやることができる。わずか12分の船旅はあっという間に終わり、南岸に到着する。

観光船は宮津湾の南北をおよそ12分で結ぶ

●information
傘松公園ケーブルカー・リフト往復660円
観光船(一の宮桟橋~天橋立桟橋)片道530円
ケーブルカー・リフト(往復)+観光船(片道)通常料金1,190円→割引料金1,100円になるセット券あり

「日本三文殊」と"気"に満ちた古来から続く神社

宮津湾の南岸の天橋立への入口近くには、「日本三文殊」のひとつに数えられる智恩寺がある。時間が許せばぜひ立ち寄りたいところだ。また、北岸の籠神社の奥宮である真名井神社も歴史ある神社で、本殿の裏手には、古代からの祭祀場である磐座(いわくら 神の降臨場所・鎮座場所)が3カ所ある。境内に入ると"気"が満ちており、「癒やしのパワー」があると言われる。

「日本三文殊」のひとつに数えられる智恩寺

日本三景のひとつ天橋立は、四季折々、いつ訪れても絶景であることには変わりないが、松林や周囲の山々が降り注ぐ陽光に青々と輝く新緑の季節は格別だ。梅雨入り前の訪問をオススメしたい。

※記事中の情報は2016年5月時点のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 森川 孝郎(もりかわ たかお)

旅行コラムニスト。京都・奈良・鎌倉など歴史ある街を中心に撮影・取材を行い、「楽しいだけではなく上質な旅の情報」をメディアにて発信。観光庁が中心となって行っている外国人旅行者の訪日促進活動「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の公式サイトにも寄稿している。鎌倉の観光情報は、自身で運営する「鎌倉紀行」で更新。