「アニメーションというのは、人生を理解し、そこから何かを学ぶことに尽きる」。ディズニー/ピクサー最新作『アーロと少年』(3月12日公開)のピーター・ソーン監督は言い切る。また、ピクサーの監督たちはいつも「自分の人生から引き出すんだ」と話しているという。だからこそ、ピクサー映画はどれも根底に人生にとって大切なメッセージがあり、心に響くのだろう。ソーン監督に映画の道に進んだきっかけや本作の制作秘話を聞く中で、そう感じた。

ピーター・ソーン監督

ニューヨークに移民した韓国人の両親のもとに生まれたソーン監督は、子供の頃に映画好きの母親に連れられよく映画館に。母親は英語がよく理解できなかったため、ソーン監督が通訳してあげていたが、中には通訳する必要のない映画があった。それが「ディズニー映画」だったという。

「『ダンボ』の中に、『私の赤ちゃん、泣かないで』と歌うシーンがあるんだ。そのシーンで母は感動していたんだ。彼女は何が起きているか、すべて理解できた。ビジュアルのおかげでね」。この出来事によって言葉がなくても人を感動させられるアニメーションの素晴らしさを知り、ソーン監督がアニメーションの道に進むきっかけになった。

2000年にピクサーに入社してからは、『ファインディング・ニモ』や『Mr.インクレディブル』などに関わり、『アーロと少年』で長編アニメーション監督デビュー。本作では、弱虫な恐竜アーロと勇敢な少年スポットの友情と冒険が描かれているが、監督にとっても初の長編監督は大きな冒険だったという。「最初はとても怖くて自信がほとんどなかった。でも、この映画をやることで出会った(プロデューサーの)デニス・リームや多くの人々のおかげで、この映画を通して強く成長した。それを誇りに思っている」と語る。

また、本作で描かれている"さまざまな困難を乗り越え成長する"というテーマについても、監督自身の経験が生きているそうだ。「アーティストとして、両親として、息子として、僕の人生にはたくさんの恐れがあり、僕を押しとどめてきた。例えば、僕が何かの絵を描いて、だれかが『見せて』と言ってきたとすると、僕は『見せたくない。怖いから』と。また、妻が子供を産むこともとても怖かった。でも、妻や産まれてくる子供のことを愛しているから、その恐怖を乗り越えることができた。そういうことが、この映画のテーマの一つになっている。アーロはいろんなことが怖くて仕方がないけど、スポットや家族に対する愛が、恐怖を乗り越えさせてくれるんだ」と明かした。

映画作りにおいても困難はつきもの。本作でもさまざまな失敗があり、それを一つ一つ乗り越えていったという。「最初、アーロはもっと年上の25歳くらいの男の子の設定だった。僕らはそのキャラクターを共感できるものにしようと努力したけど、そうしようとすればするほどストーリーがうまくいかなくなり、結局、設定を変更することになった。うまくいっていないキャラクターに固執し続けていたことが、最初の頃の大きな失敗だった。そこから、アーロが"大人になっていく物語"に変えたんです。Tレックスたちの設定も最初は一家じゃなくただの陳腐なカウボーイだったが、うまくいかなかった。そういうことはたくさんありました」と、紆余曲折を経てよりよいストーリーに仕上げていった。

実際にやってみて、うまくいくものもあれば、うまくいかないものもある。だからこそ、そういうことをできるだけ早く経験することが大切なのだという。こうして初の長編映画監督という大きな仕事を終えた今、ソーン監督が次に挑戦してみたいことも聞いた。

「この映画を作るのに5年以上かかった。その間に2人の子供が生まれ、娘は5歳、息子は3歳になったが、この3年間は子供と一緒にいる時間がほとんどなく、成長を見逃した感じがしているんだ。だから今は、子供たちの面倒を見てくれていた僕の妻に寄り添い、僕の人生を歩まないといけない。人生は僕にいつも教えてくれる。僕にとってアニメーションというのは、人生を理解し、そこから何かを学ぶことに尽きる。ここの監督たちはいつも『ほかの映画やアニメーションをコピーするな。自分の人生からできるだけ引き出すんだ』と言ってるんだ。だからこれから数カ月は、そういうこと(家族や人生)に集中して、それからほかのプロジェクトに手を付け始めようと思っているよ」

ソーン監督が、妻や子供たちと向き合って過ごしていく中で、どんなインスピレーションが生まれるのか。次の作品も楽しみだが、まずは『アーロと少年』に込めた思いを劇場で感じ取ってほしい。

■プロフィール
ピーター・ソーン
アメリカ・ニューヨーク出身。カルアーツ(カリフォルニア芸術大学)でキャラクター・アニメーションを学び、在学中に『アイアン・ジャイアント』(99)の製作に携わる。2000年、ピクサー・アニメーション・スタジオに入社。『ファインディング・ニモ』(03)や『Mr.インクレディブル』(04)などでアートやストーリーを担当し、短編『晴れ ときどき くもり』(09)で監督デビュー。本作『アーロと少年』で初の長編映画の監督に抜てきされた。

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