5位 視聴者ニーズを完璧にとらえ、全力で駆け抜けた『下町ロケット』(TBS系)

阿部寛

「視聴者からの支持を集めた」という意味では、『下町ロケット』が今年のナンバーワン。「勧善懲悪」「ハイテンポ」という現在の視聴者ニーズを的確にとらえ、『半沢直樹』(TBS系)で受け入れられた「男たちのビジネス社会」「前後編の2部制」を踏襲し、後編の『ガウディ計画編』は新聞や小説を絡めたメディア展開をするなど、随所に抜け目のなさが見られた。

阿部寛の存在感を軸に、落語家からアーティスト、MCタレント、アナウンサー、そして『酒場放浪記』(BS-TBS)の吉田類まで、キャスティングはかつてないほど意欲的。翌日の仕事へのモチベーションにつながるようなクライマックスの長ゼリフ、感情移入しやすいタイトなカメラワーク、スケールの大きいロケやエキストラなど、視聴者に「見たい!」「凄い!」と思わせる複合的な仕掛けは、ドラマの内容同様に熱さがあった。

それでも1位に挙げなかったのは、あまりにテンポが速く、人物造形が「正義か悪か」に二分されていたから。正直なところ、「なぜ頑張れるのか?」「なぜ悪いことをするのか?」「どのように立ち直るか?」などの人間心理や感情の動きをもう少し描いてこそ連ドラと言えるのではないか、という思いがある。

プロデュース・伊與田英徳、脚本・八津弘幸、演出・福澤克雄のトリオは、『半沢直樹』『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)で、同テイストの作品を成功させている。今年は『流星ワゴン』(TBS系)も手がけたが、そろそろ異なるテイストでのオリジナル作も手がけてほしい。

4位 入れ替わりモノの最高傑作! エンケン&菅田が躍動した『民王』(テレビ朝日系)

遠藤憲一(左)と菅田将暉

今年も池井戸潤原作のドラマが大ヒット。『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ系)、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)、『下町ロケット』が放送され、いずれも人気を集めたが、エンタメ度や完成度の高さなら『民王』を推したい。ビジネスの世界を描くことが多い池井戸作品では異例であり、ここ数年間低視聴率を連発していた"入れ替わりモノ"だけに不安視されたが、フタを開けてみたら爆笑の連続だった。

脚本・演出ともに、総理大臣とバカ大学生、政治と就活のコントラストを最大限に活用。遠藤憲一に裸をさらけ出させたり、漢字の読み間違いをさせたり、「ワニ顔」とイジらせたり、菅田将暉に傲慢な振る舞いをさせたり、長尺の大演説をさせたり、面接官を罵倒させたり……主演コンビの突出した表現力を引き出した。

入れ替わりシーンのCGと効果音など、全編でバカバカしい笑いをベースにしつつ、「政治の問題点」や「就活に対する疑問」を問いかける風刺もきっちり。中盤はマンネリを避けてか、遊びすぎて逆に笑いにくくなったところもあったが、最終回の着地はピタッと決めた。

当作は「入れ替わらせたら最も面白い2人は?」「遠藤と菅田のスキルを生かすには?」というシンプルな観点だけで十分面白い作品ができることを証明。視聴率を気にするほど、視聴者に媚びた作品になりがちだが、当作を見て「連ドラの普遍的な楽しさを追求すればいいんだ」と安心したスタッフも多かったのではないか。

3位 果敢な挑戦と透き通るような歌声で魅了した『表参道高校合唱部!』(TBS系)

芳根京子(左)と吉本実憂

視聴率は全話1ケタ。ドラマの存在すら知らない人も多いかもしれないが、一度でも見た人は深く印象に残っているのではないか。

かつて夏は学園ドラマが定番だったが、今ではほぼ絶滅……。放送されたとしても、いじめや妊娠などのディープな問題を扱った作品だけになってしまった。そんな中、『表参道高校合唱部!』は、学園という舞台だけでなく、テーマに「多くの練習が必要でクオリティが低ければ容赦なく叩かれる」合唱を選び、主演に無名の芳根京子を抜てきする、という果敢なチャレンジを実行した。

さながらイメージは、2000年代に一世を風靡した『ウォーターボーイズ』(フジテレビ系)の合唱版。メンバーを集めるところからはじめ、それぞれの悩みを克服しながら合唱の練習に励む姿は、ノンフィクションとしての醍醐味もあり、若手俳優たちの成長を見守る楽しさがあった。

何と言っても見どころは、終盤の合唱シーン。ストーリーの展開に合わせて毎週さまざまなジャンルの曲を合唱するシーンは、さわやかなミュージカルを思わせるものがあり、魅了された人は多かっただろう。

芳根を筆頭に、志尊淳、吉本実憂、森川葵、堀井新太、高杉真宙など、次代の主演俳優たちは、今しか醸し出せないピュアさで熱演。「最高の舞台を用意してくれたスタッフの気持ちに応えよう」と全力で撮影に挑む姿勢は、胸を打つものがあった。

当作は脚本や演出の完成度であれこれ言うのが恥ずかしくなってしまうほど、連ドラの持つ魅力がたっぷり。まさに、身も心も浄化してくれるような清々しい作品だった。

2位 "性善説"に基づく、人の良心であふれた『天皇の料理番』(TBS系)

佐藤健

TBSの60周年特別企画だけに力の入れようは凄まじく、原作は直木賞作家・杉森久英の名作『天皇の料理番』、スタッフは『JIN-仁-』『とんび』らを手がけた最強チーム、明治・大正の街並みを再現した圧巻のオープンセット、徹底した料理監修など、盤石の布陣で制作された。

物語では、「熱く突き進む主人公と、愛情深く支える人々」という図式が機能し、涙腺崩壊シーンが目白押し。きっちり泣かせながらも、全体のテーマを進める脚本家・森下佳子の名人芸が冴え、1980年放送の堺正章版に負けない力作となった。同じ日曜劇場の『下町ロケット』が勧善懲悪を貫いたのに対して、『天皇の料理番』は性善説。「人の良心で人は救われ、成長する」という温かみのあるコンセプトは、昨今のドラマではなかなかお目にかかれない。

キャストも、撮影開始の4カ月前から料理人修業に打ち込んだ佐藤健、半年間で20キロの減量を行った鈴木亮平、さらに、小林薫、黒木華、郷ひろみらがことごとく好演。当時の風景や料理も含め、目でも楽しませてもらえる作品となっていた。

当作は全9~10話が主流になった連ドラでは久々となる全12回の放送であり、「人間ドラマをしっかり見せよう」という姿には好感が持てる。しかし、問題は前作『流星ワゴン』最終回から5週間後の4月26日にスタートし、7月12日に最終回を迎えるという超変則放送。放送時期をずらして視聴者を混乱させたことは事実であり、名作リメイクであること、明治~昭和時代を描く作品は朝ドラの定番かつ鉄板であることから、1位には挙げにくかった。

来年はこのチームが本気で作るオリジナル作が見てみたい。

1位 超テクニカルなオリジナル作『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジテレビ系)

杏(左)と長谷川博己

「誰でも無料で見られる大衆娯楽」のドラマは、「技術的なことよりも、多くの人々から支持されることのほうが重要」というのが、ごく自然な見方。しかし、『デート』はそんな見方さえ吹き飛ばしてしまうほど、圧倒的にテクニカルな作品だった。

"ラブストーリーの聖地"月9にラインナップされたものの、恋愛ドラマとしては異色も異色。まず主演カップルを「誰も共感できない」"超リケジョ"と"高等遊民"にすることでコミカルなムードを漂わせつつ、その陰で、現代の恋愛観、婚活、少子化などに対する矛盾やアンチテーゼをぶつけるような脚本の妙が光った。

「予定調和をよしとしない」古沢良太の脚本だけに、最終回も単なるハッピーエンドではなく、電車の切符や、『アダムとイヴ』のリンゴとヘビ、BGMにモーツァルトの『恋とはどんなものかしら』を選ぶなど、オシャレで奥深い仕掛けを「これでもか!」というほど用意。これまで月9が築いてきた恋愛・結婚至上主義をぶっ壊したと思ったら、ラストは何ともロマンチックな筋書きで締めるという離れ業を見せた。

また、恋愛不適合者の2人を際立たせるため、周囲に普通の人々をそろえたほか、アヒル口の決め顔やフラッシュモブなどのバカバカしい演出も終始効果的。「笑わせたあとに、ほっこりさせる」というコメディの王道もしっかり押さえていた。

ザ・ピーナッツとchayの曲が流れるオープニングとエンディングもポップかつビビットな映像で楽しく、さまざまな要素が高次元で融合し、しかもオリジナル作。秋に放送されたスペシャルドラマでも質の低下は見られず、さらなる続編が期待される、「文句なしの2015年ナンバーワンドラマ」と言える。


終わってみれば2015年のドラマ界も力作が多く、「ここで挙げた10本の順位は好みの問題」程度で受け止めてもらえたらと思う。未視聴のものは年末年始の休みを利用して、オンデマンドやDVDで視聴してみてはいかがだろうか。

最後に、ドラマ制作のみなさん、俳優のみなさん、1年間おつかれさまでした。2016年も「多くの人々を楽しませる」「心から感動できる」ドラマをよろしくお願いします。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超える重度のウォッチャーであり、雑誌やウェブに月間20本超のコラムを執筆するほか、業界通として各メディアに出演&情報提供。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。