ミャンマー文化を語るのに欠かせないのが「ラペイエサン」。煮出した紅茶にミルクを加えた「ラペイエ」と呼ばれるチャイを出す喫茶店です。昔から男性の社交場となっていて、客のほとんどが男性。背の低いテーブルセットに腰かけ、甘いチャイ片手に長時間おしゃべりに興じたり、テレビでのサッカー観戦に熱中したり。飲み物を注文すると様々なスナック類がテーブルに置かれ、食べた分だけ払うシステムです。肉まん、ちまきなどの中華料理と、ナン、サモサといったインド料理が同時に並ぶ様は、ミャンマーはインドと中国の狭間にあるということを、改めて感じる光景です。

ナーンルインさん/ミャンマー・ヤンゴン在住/26歳/ラペイエサン店員

■これまでのキャリアの経緯は?

ヤンゴンから車で2時間ほど行った、バゴーという町の出身です。高校卒業後にこちらへ出てきてからずっと、この店で働いています。最初はホールのウェイターから始め、その後、洗い場を経験し、5年前からラペイエ作りを任されるようになりました。

ナーンルインさんが勤めるラペイエサン「マハヤンゴン」

■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?

ずっとこの仕事をやっているので給料を比べようもないのですが、たぶん同年代の男性に比べて少ない方だろうと思います。でも食事や寮などの費用がすべて含まれているので、特に不満はありません。ヤンゴンには親戚もいないので、暮らし周りのことをすべてやってもらえるのはありがたいです。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

仕事内容というより、職場環境が気に入ってます。地方から出てきたので、三食と寮がついているのがありがたいですね。従業員全員が寝食を共にするからか、お客さんが少ない時間帯は従業員同士で冗談を言い合ったりと、とっても仲が良いんですよ。私は家族にあまり恵まれなかったので、ここにいるとたくさんの兄弟ができたみたいで毎日楽しいです。常連さんにもいい人が多く、おしゃべりを楽しめるのもいいですね。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

注文を間違えないようにすることですね。チャイのことをビルマ語で「ラペイエ」といいますが、ラペイエには甘さの違いで5種類あるんです。甘くない方から、「チャーセイッ」「ポーセイッ」「ポンフマー」「マコッ」「チョーセイッ」で、紅茶にプラスするコンデンスミルクとエバーミルクの量で作り分けます。当店ではさらに使う乳製品のランクにより、「普通」と「スペシャル」に分かれます。つまり、合計10種類になるんです。忙しい時間帯だと次々と注文が入ってくるので、注文順に従い、様々な種類をどんどん作らないといけません。慣れるまではよく間違えて、お客さんに怒られたものです。

また、衛生面にも気をつける必要があります。ラペイエを作るステンレス台は一隅に向けて傾いており、そこから水が落ちるようになっています。何分かおきに、台の上に積んだカップの上から熱湯をかけて消毒してるんですよ。

2つのカップを使い、紅茶とミルクをよく混ぜる

無料で飲める中国茶(右)と「ラペイエ」(左)

■休みのとりかたは?

ミャンマーの正月にあたる水かけ祭り時期の長期休暇以外は、決まった休みはありません。遊びに行きたい時や用事のある時、体調の悪い日などにオーナーに申請して休むんですが、休まず出勤するとボーナスが出るので、私はなるべく休まないようにしています。早朝から夜10時までお店がある時間はずっとここにいますが、けっこう仲間とおしゃべりしてる時間もあるので、ずっと働きづめというわけではありません。

■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?

日本は、アジアの中ではサッカーが強いし、ヨーロッパのチームで活躍している選手もいてすごいと思います。アジア人でもヨーロッパと戦えるんだと思うと嬉しいです。それと、日本製品は本当に品質がいいですよね。日本製の調理器具を買った親戚が、「電化製品は日本製に限る」と言っていました。

■最近TVやラジオ、新聞などで見た・聞いた日本のニュースは何ですか?

店内のテレビではスポーツ番組しか流さないのでニュースを見ることもないし、自分は新聞も読みません。日本のニュースといってもピンときませんが、こっちのサッカーリーグで、日本人選手が活躍するチームが優勝したのは見ました。ミャンマーには、日本人選手が主要メンバーというチームがけっこうあるんですよ。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

食事は、仕事が一段落した人から順にお店で食べます。朝はドリンクひとつとフードひとつ。昼と夜はスープ、ごはん、おかずを1品、それぞれ店のメニューから選べます。今日はミャンマー風チキンカレーと野菜スープにしました。

今日のランチ。ミャンマー風チキンカレーと野菜スープ

中華料理とインド料理の両方が同じテーブルに並ぶ

■将来の仕事や生活の展望は?

店はもう自分の家のようなものなので、ずっとここでラペイエを作っていられたらいいとさえ思っていますが、そういうわけにもいかないですね(笑)。こういった店の仕事は、ホールとラペイエ作り、調理場に分かれているので、いずれ調理場にも入って料理を覚えたいですね。オーナーが新しい支店を出す時に、「その店を任せる」と言ってもらえるようになれれば嬉しいかな。