カボチャ、キャベツ、ニンジン、ニラとあんかけ野菜がたっぷりに、レバーもどっしり。これは何かと問われれば、茨城・水戸のご当地ラーメン「スタミナラーメン」である。中でも総本家「スタミナラーメン松五郎」と言えば、「食べるなら10玉入りも作るよ! 」という超ど級のデカ盛り店なのだ。
1970年代に開発された2大ご当地ラーメン
スタミナラーメンは1970年代に開発されたもので、当時レバーは捨てる部位だったという。最初のきっかけは学生向けの料理で、安くておなかいっぱいになり栄養にもなるメニューとして考案されたという。
元祖スタミナラーメンの店といえばこの松五郎で、初代の店長が引退するのを契機に平成9年(1997)、池田睦親方が店を受け継ぎ、商標登録なども済ませて"スタミナラーメン総本家"となった。水戸のラーメンというと、このスタミナラーメンと水戸黄門が食べたというラーメンが2大巨頭となっている。
3玉入りでも1,000円を切る
松五郎へはJR水戸駅から上水戸入口停留所までバスで15分、さらにそこから徒歩5分と公共交通ではアクセスがやや面倒なので、訪れるのであれば車が便利だろう。店先には「スタミナラーメン」と分かりやすく書かれているのでまず見落とすことはない。
早速、看板料理の「スタミナラーメン」を大盛サイズ(800円)で注文。カウンターのみの細長い店内では、対面型に設置した調理台で池田睦親方が一心に具に火を通し、ラーメンのできを見つめている。座っているカウンターからは手元はよく見えない。見えないだけに期待感が高まる。
スタミナラーメン(750円)は大盛(800円)のほか、2玉(850円)、2.5玉(900円)、3玉(950円)とあり、4玉以上はメニューにはないが、注文すれば出してくれる。最高では10玉用の器があるという。話のついでに見せていただいたその器の直径は約37cm。本当にびっくりするほどデカい。
とはいえ、「うちは大盛りを売りにはしてない。いくらお金を払ってもらっても、食べられないのに注文して残されちゃうのは作り手としては寂しい」と池田親方は言う。正論である。
その日によって替わる味付け
あんかけ野菜がたっぷりのった大盛のスタミナラーメンは見るからにほくほくで、やや肌寒い秋の日にはぴったり。野菜から食べ始めるとほっこりカボチャは甘く、ニンジンはしっとり、キャベツは汁気たっぷりでジューシー。そこに加わるのがどっしりとしたレバーだ。全体的に甘口かと思ったら、その奥から次第に辛みが現れる。そしてどんどん辛みが強くなっていき、唇がヒリヒリし始めた。
そこで手を伸ばした麺は特注の中太麺。完全に野菜に隠れていて引っ張り出すようにして食べたら、もちもちで熱々だ。「スープはカツオですかね? 」と尋ねると、「10種類以上のダシを組み合わせてます」とのこと。スープは3年かけて開発したそうで、もともと単純だった味をより複雑にすることでコクを出したという。その配合に関しては"企業秘密"となっている。
さらに、「素材は全部こだわっています。ただ、その日の仕入れによって全然違ってくるので、素材の味が一定でないのを把握した上で、さじ加減をどう変えていくかが一番のポイントです」と池田親方。スタミナラーメンに決まったレシピがあるというよりは、その日その日に最適な味つけを決めていくのが松五郎スタイルなのだ。
老舗を引き継ぎながら変えていく
「熱いものは熱い冷たいものは冷たいを心がけて、あたりめーのことをあたりめーにやってるだけ」と池田親方は言う。ラーメンの器がほんのり温かいのも、池田親方が「あたりめー」という心配りによるところだ。「お客さまに喜んでもらえることが目標で、いくらもうかったということだけを目標にするのとは違うと思うんですよね」と池田親方は笑う。松五郎はリピーターが9割というのにも納得できる気がした。
このスタミナラーメン、池田親方によると初代が作った味をそのまま引き継いでいるのではないという。当初作っていたスタミナラーメンは冷やしが中心で、冬でも冷やしラーメンが主流だったそうだ。現在の総本家である池田親方は、温かいスタミナラーメンのスープを作り直した。そのため、特に冬場には温かいスタミナラーメンの方が人気だという。
老舗の味を守りつつ、「お客さまに喜んでもらえる」ために変えるところは変えていく。そして、食べたいのであればできる限りのデカ盛りで答える。ねじり鉢巻きの池田親方の"男気"が、このスタミナラーメンに詰まっていることを実感した。
●information
スタミナラーメン松五郎
茨城県水戸市上水戸3-3-25
※記事中の情報・価格は2015年9月取材時のもの。価格は税込
筆者プロフィール: ベル・エキップ
取材、執筆、撮影、翻訳(仏語、英語)、プログラム企画開発を行うライティング・チーム。ニュースリリースやグルメ記事を中心に、月約300本以上の記事を手がける。拠点は東京、大阪、神戸、横浜、茨城、大分にあり拡大中。メンバーによる書籍、ムック、雑誌記事も多数。