歯の代表的な疾患・虫歯。誰もが、一度はその痛みに悩まされたことだろう。大人から子どもまで、年代を問わずに虫歯リスクはあるわけだが、なりやすい人や職業はあるのだろうか。
今回は、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師に、虫歯のメカニズム予防方法、なりやすい職業などについて伺った。
虫歯はこうしてできる
まずは虫歯ができるまでの過程をきちんと理解しておこう。
私たちが食事をする際、細かな食べかすなどが歯に付着していく。このかすを歯垢(プラーク)と呼ぶが、1mgの歯垢の中には10億個の細菌が住みついていると言われている。
これらの細菌が、食事のたびに糖などの栄養を取り込み、酸を産生。この歯垢から産生された酸によって、歯の表面からミネラル成分が溶け出すことを「脱灰(だっかい)」と呼ぶ。この状態が虫歯の始まりとなる。
だが、食後しばらくすると自浄作用がある唾液などによって、歯垢は酸性から中性方向へと向かう。すると、カルシウムなどのミネラル成分が歯に戻っていき、虫歯ができにくい状態へと戻る。この状態を「再石灰化」と呼ぶ。
「歯の表面で脱灰と再石灰化が行われますが、そのバランスが崩れて脱灰が進み、再石灰化が追いつかないと虫歯になります。摂取した糖度が高かったり、唾液量が少なかったりすると、再石灰化への時間が長くかかりそれだけ虫歯になりやすくなります」。
「歯と歯の間」「溝などのへこみのある場所」「歯の詰め物と歯の境界」などの歯垢がつきやすい場所が、虫歯になりやすいと言われている。
虫歯予防を一挙紹介
虫歯で痛い目に遭わないようにするには、予防が肝要。予防には自宅・オフィスでも簡単にできる方法と歯科医などのプロにやってもらう方法があるので、まとめて紹介しよう。
自宅・オフィス編
■就寝前の歯磨き
睡眠中は虫歯菌が活発になる一方で、歯を浄化する作用がある唾液の量も減るため虫歯になりやすい。理想は一日3回の歯磨きだが、忙しくてできない場合は就寝前に必ずしっかりと歯磨きをするようにしよう。
■デンタルフロス
歯ブラシでは60%、デンタルフロスでは20%の歯の汚れを落とすことができると言われている。「見えない場所や、ブラシが届かないところあるため、歯ブラシだけで歯の汚れを100%取りきることは難しいと覚えておいてください」。2つの併用でも80%ほどの計算となり、歯のすべての汚れは取り除けないが、この20%の差は大きい。歯並びの悪い人は特に除去することが難しくなるので、普段から意識しておこう。
■歯磨きできないときのガム
仕事が忙しかったり、会社のトイレで歯を磨くのが恥ずかしかったりして毎日3回の歯磨きをできないケースも多々あるだろう。そういう際は、歯磨き代わりに唾液を促すためのガムを1粒でもいいのでかむようにしよう。
歯科編
■3DS
デンタル・ドラッグ・デリバリー・システムの略称。歯科で型どりをしてマウスピースを作ってもらい、フッ素などの薬を歯の表面や歯周ポケットの隅々まで浸透させる。唾液に洗い流されずに長時間の薬の効果が期待でき、ホームホワイトニングを実践している人もそのマウスピースを活用できる。
■歯科用サプリメント
高濃度のビタミンCや、インプラント前後においてミネラルなどの微量栄養素を効率よく摂取できる製品など、歯科専用のサプリメントがクリニックで販売されている。「定期的に飲んでいただくことで、クリニックへの訪問間隔を徐々にあけていければと思っています」。
■唾液検査
国をあげて虫歯予防に努めているスウェーデンでは、虫歯リスクを患者に説明するための専用ソフトなども開発されている。各種唾液検査も、唾液量や細菌の数・種類などを知るため、歯科医院でできる簡易検査から培養発注する精密検査まで行われている。唾液量や虫歯菌の数、食事の頻度、虫歯の経験、汚れのつき具合などを分析することで、自分の虫歯のなりやすさがわかる。
「今は、虫歯もソフトを使って管理する時代です。3DSのマウスピース自体は歯科で作ってもらう必要がありますが、あとは自宅でのケアとなります。日本における虫歯予防は、この『この歯科医院での予防&管理』と『ホームケア』が主流となります」。
医師やSEは虫歯になりやすい?
虫歯の主たる原因は食事に伴う糖の摂取のため、食事を含めた生活習慣が大きく虫歯リスクへと影響を与えていると考えられる。
そこで、今村医師に「虫歯になりやすそうな職業」について伺ってみたところ、「デスクワークが多い人」「医師・看護師」「介護士」「長距離ドライバー」「SE」などが該当する可能性が高いと回答してくれた。
「一日中デスクワークの方は、手軽に飲み物やおやつを摂取できる環境がありますし、仕事のストレスから甘い糖分摂取が進む傾向にあります。医師、看護師や介護士などの勤務時間が不規則な職業の方や、不規則な時間に食事を摂(と)る長距離ドライバーの方などは、缶コーヒーなどの嗜好品(しこうひん)の頻度が高いです。結果として生活や食事のバランスも崩れやすいので、口腔(こうくう)内の環境が悪い方が多いようです」。
また、SEなどのように休みの取りにくい人も該当するようで、特にSEは極端に対照的な2グループに分類できるという。
「SEの方は、虫歯がすごく悪くなっても放置している『極端に無関心なグループ』と、やや神経質気味で問題意識が非常に高い『毎月定期的に来院するグループ』に分けることができます」。
そのほか、「ストレスを受けやすい」「喫煙して唾液量が減少している」「ドライマウスになりやすい」「末梢(まっしょう)血管が収縮している」などの特徴がある人も虫歯になりやすいため、注意が必要だ。
将来の「おいしい食事」に備え、きちんとしたケアを
日本歯科医師会は、平成元年から現在の厚生労働省と共に「8020運動」を提唱してきた。この運動には、「80歳になっても自分の歯を20本以上持とう」という意味がこめられている。抜歯のリスクもある虫歯は、この運動の"大敵"と言える。
20本という数字の基準は、「少なくとも自分の歯が20本以上あれば、 ほとんどの食物をかみ砕け、おいしく食べられる」という考えに由来している。将来、自分が年齢を重ねても好きな食べ物をおいしく食べられるよう、今からきちんと歯のケアをしておこう。
※写真と本文は関係ありません
記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)
M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態 及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。