パナソニックは28日、頑丈タブレットPC「TOUGHPAD」に内蔵および搭載するための「高精度測位システム」を開発したと発表した。豪雪地帯での除排雪作業の支援や、スマート農業支援などに利用できるという。2015年12月から、北海道岩見沢市で、除排雪作業支援システムの実証実験を開始する予定だ。

北海道岩見沢市の実証実験で使用する「TOUGHPAD G1」の除排雪作業支援システムの様子

100万円超だった価格を半分以下に、高精度も実現

高精度測位システムは、1周波RTK-GNSS機能を拡張したパナソニック独自の衛星測位技術を活用。衛星電波受信モジュール、ワイヤレスWANを用いるとともに、外部アンテナと接続することで、8機以上の衛星が天空に均等配置されているオープンスカイな環境で、10cm程度までの高精度の測位が行える。さらに、TOUGHPADに搭載しているCPUを利用することで、3次元道路地図なども快適に表示できるのが特徴だ。

ちなみに、RTK(Real Time Kinematic)とは、一般的には「相対測位」と呼ばれ、測位を行う移動局が受信した衛星電波の搬送波と、既知点から携帯電話や無線を利用して送信されるGPS補正データ(搬送波)を利用。コード情報ではなく、搬送波の数や位相を用いることで、既知点からの相対位置を、リアルタイムに、正確に演算して測位する。1周波RTKとは、航法衛星から送信される複数の周波数の電波のうち、一般の測位に用いられる2つの周波数電波の1つのみを用いる方式だ。

パナソニック AVCネットワーク社ITプロダクツ事業部市場開発部ソリューション事業推進課の西谷裕之主幹は、「建設現場や土木現場では、2周波RTK技術を使った専用端末で2cmまでの精度を実現できるが、100万円を超える価格のため活用範囲が限定的だった。また、農業用途に利用する1周波RTK技術を活用したものでは、20~100cmの精度で測位できるものの、測位時間が平均10分もかかり、価格もそれほど安くはないという課題があった」という。

今回開発した高精度測位システムは、従来のシステムと比べても半分以下の価格で提供できるとする。精度も10~50cmと高い。「除排雪作業の支援やスマート農業支援に求められる精度レベルを、安価に実現できる」とする。

TOUGHPADを活用、複数の測位エンジンが利用可能に

測位システムは、タブレットを利用し、高価なGPS受信機および補正データを受信する無線装置とを組み合わせ、建設・土木分野やスマート農業、環境調査といった用途に利用され始めている。しかし複数の機器を接続する手間がかかることや、接続が不安定になるなどの課題があった。パナソニックでは、衛星測位技術をタブレット一体型することで可搬性を高めることに成功した。

パナソニックが開発した「高精度測位システム」の概念図

高精度測位には、GPS衛星以外の衛星も利用。ワイヤレスWAN内蔵のTOUGHPADで、パナソニックのMVNOサービスのM2M専用プランを使用し、補正データをインターネット経由でダイレクト受信。業務用車両の中でも、場所をとらない補正データ受信装置一体型システムを実現している。

高精度測位システムを内蔵するタブレットは「TOUGHPAD G1」で、CPUには、Intel Core i5 vProを搭載。従来の1周波RTK-GNSS機能には膨大な演算を伴う。このため組込系OSが搭載された端末上では、CPU処理性能の制約で1つの測位エンジンしか動作できないという課題があり、測位演算終了までに平均10分程度を要していた。「TOUGHPAD G1」ではCPUとメモリを使用することで、複数の測位エンジンにより時間をずらし、順次測位エンジンを追加しながら演算。最も確かと思われる測位結果を迅速に導き出す。

この独自開発のアルゴリズムにより、測位演算終了までの時間を平均90秒程度に短縮。1周波RTK-GNSS機能を実用的なものにした。また、屋外での視認性が高い10.1型WUXGAのIPSα液晶を採用しているほか、TOUGHPADならではの耐衝撃、耐振動設計により過酷な作業環境にも対応。IP65の防塵および防滴設計も実現している。

また、7型液晶ディスプレイを搭載したFZ-M1では、背面部に高精度測位システムを組み込みことができるキットを用意し、一体化することになる。価格は現時点では未定だが、パナソニックが配信する補正データを5年間提供するサービスモデルなどを用意する。

FZ-M1では背面にキットを取り付ける形で一体化するという

用途は除排雪やスマート農業、熟練オペレーター不足をカバー

高精度測位システムの用途は、いくつもある。代表的なのが除排雪への活用だ。

豪雪地帯における除排雪は、道が完全に雪で埋まってしまうことから、道の状況に熟知し、最適な場所を除排雪する技術が求められる。だが、こうした技術を持つ除排雪従事者の高齢化などの問題もあり、今後、熟練オペレーターが不足することが懸念されている。そこで、3次元の道路地図を利用して、道路構造物を可視化。道路知識がない作業者でも、安心、安全な作業を支援する。

今回開発したTOUGHPADによる高精度測位システムでは、除雪車に持ち込みながら、除雪する場所を表示。除雪車が除雪すべき場所から外れそうになると画面全体の色を黄色や赤に変えて警告。正しいルートへと導く。また、除雪した雪を流すためのマンホールの位置も場所を表示。雪に埋まっていてもクレーンなどを使って、誰でもが掘り当てられるようになる。

一方、農業の現場でも、高齢化が課題となり、労働力不足が懸念材料であるのは周知の通り。農作業における省力、軽労化にも、高精度測位システムが利用できるとする。

これまでにも北海道の超大規模農家では、トラクターの自動操舵用に、2周波RTK-GPSを利用する例があったが、高価格であるため、本州の大規模農家でも導入が難しいという問題があった。今回の高精度測位システムを利用することで、農機などにタブレットを搭載し、効率の高い作業を行えるようにするほか、農機車両間での付け替えも容易にしている。

そのほか、鉄道の鉄道保線管理などでは、草が生い茂って場所が特定できない場合や、自治体における水道制水弁位置管理、建設・土木の地質調査、貨物コンテナ管理、土壌および水質の環境調査にも用途を広げることができるとしている。  今回開発した衛星測位技術は、パナソニックが特許を出願中。高精度測位システムを活用したソリューションは、最終的には兵庫県神戸市のパナソニックITプロダクツ事業部神戸工場で組み込まれることなる。

パナソニックでは、豪雪地域の自治体や、スマート農業を推進する農機メーカー、各種ソリューションベンダーへも提案活動を行っていく。北海道岩見沢市で実施する除排雪作業支援の実証実験では、高精度測位技術を活用して、除排雪作業支援システムとして提供。タブレット上に、道路構造部を可視化することで、道路知識がない作業者でも、除排雪作業が行えるという。

「除排雪作業に、雪に埋もれて目視確認できない消火栓、マンホール、ゴミ箱、家の塀などの道路構造物を破壊するリスクを回避できる」(パナソニック AVCネットワーク社ITプロダクツ事業部市場開発部ソリューション事業推進課の西谷裕之主幹)。岩見沢市による実証実験は2015年12月から開始し、積雪が予想される翌年3月まで行われる予定だ。