田中:そういう意味では、今回のクラスメイトの関わり合い方って理想形だよね。

長井:そう。本当にイヤなヤツはいない。

岡田:私はけっこうマゾなので、痛い現実の方に惹かれがちなんですが(笑)。今回そこはグッとこらえて理想を追ってみました。

――彼らを見ているとストレートすぎてちょっと気恥ずかしくもあるけど、うらやましい! と感じました。

長井:うらやましいというのは、作っている僕の気持ちでもあります。

田中:観てくれた人にそう感じてもらえたらいいなと思います。リアルで説得力があってもいいのかもしれませんけど、理想形というか、こういうのに憧れる、みたいなものが映像作品としてある方が健全だなと思うので。

岡田:それ、すごい思います。私は、アニメでくらい夢を見させてくれとたまに言われるのですが、今回はそれが見られるのではないかと。

田中:ただ、それを嫌味にならないよう見せ方には注意しなくてはいけないんですけど、そこはうまくいっている気がするので。

日常シーンの積み上げと、歌に踊りのミュージカルと

――ミュージカルという大きな見せ場がありますが、今作の音楽は最近アニメ関係でよくご活躍のミトさんが担当されていらっしゃいます。

長井:脚本でミュージカルを入れてみようという話になった時、僕たちは全然その知識がなかったので、岡田さんが以前お仕事をされた関係で交流のあったミトさんを紹介してもらいました。本当に今回ミトさんに参加していただいて、すごく助かりました。ミュージカルはざっくりとしたイメージしか持っていなくて、実際にどうすればいいか分からなかったところを具体的に形にして、いろいろな提案もしてくれて。そこで初めて、僕たちミュージカルを作るんだなという気持ちになれました。

岡田:脚本の時点では歌詞はざっくりしか書いていなくて、曲が決まってからちゃんとした歌詞を書いてコンテの前に出す、という感じでした。

――歌やダンスが入ると絵の作業も大変だと思いますが、先に歌を録って合わせていく形でしょうか?

田中:基本的にはそうです。

長井:プレスコとは若干違う感じなんですけど。でも、なるべく雰囲気や聞いた感じが絵に出るよう、田中さんたちにがんばってもらっている最中です。

田中:ダンスの部分はダンサーの方に振付けして頂いたものをロトスコープの形で使うなど、ケースバイケースで絵に起こしています。

――現実に即した世界であるだけに、アクションを見せつけるような派手さはないと思いますが、逆にその方が難しいのでは?

長井:そうですね、じっくりとしたシーンだけを積み重ねていくのは、それはそれで神経をすり減らすものなので。若干積みすぎたかなという部分はありますけど……(笑)。地味な作品ですが、心をこめてキャラクターが丁寧に見えるよう作品作りをしているつもりですので、楽しんでいただけたら幸いです。

また一緒に仕事をしたいと思う人に出会えることは幸運だ。ただやりやすいとか、楽ができるということでは決してない。より新しい挑戦や、もっと高いレベルを求めて共闘するために、相手を信頼でき、自分を信頼してもらえるかだ。本当の"ツーカー"は、馴れ合いの水溜りの中ではなくピンと張ったピアノ線の上に成り立つようなものなのだろう。

『あの花』ファンに寄り添った方向のPRを見て逆に敬遠する気持ちを抱いてしまった人がいるなら、安心してほしい。過去の作品とは違った色合いの感動が今回の新作には用意されている。劇中劇のミュージカルという新しい表現要素も含め、長井監督らが土台から新たに作り上げた物語に、素直な心で期待したい。

■プロフィール
監督:長井龍雪
1976年 新潟県生まれ。木村真一郎のもとで演出を学び、2006年放送の『ハチミツとクローバーII』で監督デビュー。以降、『とらドラ!』『とある科学の超電磁砲』などで監督を務める。2011年に放送されたオリジナルアニメーション『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』が高く評価され、第62回芸術選奨新人賞メディア芸術部門を受賞。同作は後に劇場版も公開され、興行収入10億4,000万円を記録した。その後も『あの夏で待ってる』などコンスタントに作品を発表し、『心が叫びたがってるんだ。』は2本目の劇場版監督作となる。
■プロフィール
脚本:岡田麿里
1976年 埼玉県生まれ。Vシネマ、ゲームシナリオ、ラジオドラマなどの脚本に携わる。1998年に放送された『DTエイトロン』の第9話よりアニメ脚本を手がけ始め、以降、『とらドラ!』『花咲くいろは』『凪のあすから』などで脚本やシリーズ構成を担当。その後も精力的に活動を続け、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』では、企画原作からノベライズまでを手がけた。2013年には、これまでの功績が認められ第16回アニメーション神戸賞を受賞している。
■プロフィール
キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
1976年 広島県生まれ。代々木アニメーション学院を卒業し、1998年放送の『プリンセスナイン 如月女子高野球部』でアニメーターデビュー。以降、『ちょびっツ』『僕等がいた』などに作画監督として参加。2006年から放送された『家庭教師ヒットマンREBORN!』で初めてキャラクターデザインを務める。『とらドラ!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『あの夏で待ってる』など複数の作品でキャラクターデザインを担当して長井龍雪とタッグを組んでおり、『心が叫びたがってるんだ。』ではキャラクターデザインのほか、総作画監督を担当する。

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