今、函館のホテルの朝食がアツいことをご存じだろうか。旅のクチコミサイト「トリップアドバイザー」が4月に発表した「朝食のおいしいホテルランキング2015」のベスト10に、函館からなんと2つものホテルがランクインしているのだ。3年連続2位の「ラビスタ函館ベイ」(函館市電魚市場通電停から徒歩5分)と、前回ベストテン初登場し、今回も5位をキープした「函館国際ホテル」(JR函館駅から徒歩7分)だ。そこで全国の旅人を魅了する秘密を探るべく、両ホテルに足を運んでみた。

こだわりのイクラだっていくらでも! (写真は「ラビスタ函館ベイ」)

コックと寮母さん、どちらがお好み?

ホテルの朝食といえば、洗練された明るくて広いレストランでのビュッフェのイメージが広まっているが、函館国際ホテルはまさにそのイメージ通りの朝食会場。おしゃれな洋風の会場にたくさんの料理が所狭しと並んでいる。

「函館国際ホテル」の朝食会場では、コックが目の前で調理してくれる

名物は目の前でシェフが焼き上げてくれる「シェフズステーキ丼」だ。ジュージューという音をたてて焼かれた「オーストラリア産ビーフ」「知床チキン」「北海道産フルーツポーク」の3種類から肉を選び、熱々ご飯にのせていただく。

ソースは、スタミナがつきそうなオリジナルジンジャーソースとあっさりポン酢ソースの2種類がそろう。「お客さまのお好みでお肉をお選びいただけます。もちろん、全部乗せもできますよ! 」と総務部長の佐藤則幸さん。かめばかむほどにあふれ出す肉の旨みがたまらない!

「シェフズステーキ丼」は3種の肉と2種のソースを用意

一方、ラビスタ函館ベイの朝食会場は、一見すると居酒屋のような番屋風の造り。入るとすぐ目の前で、おばちゃんが山盛りの食材を網であぶり焼きにしている。北海道で一般的な根曲がり竹のタケノコやホクホクのジャガイモ、とれたてのアスパラなど、見るからにおいしそうだが、なぜシェフではなくおばちゃんが焼いているのだろう。

ラビスタ函館ベイの朝食会場にはおばちゃんが待っている!

その疑問に対して企画営業担当の小山裕代さんは、「当ホテルの運営会社である共立メンテナンスはもともと寮の運営にルーツを持つため、1日の始まりに朝ごはんをしっかり食べてもらって仕事や学校に送り出す"寮母さん"をイメージしています」と回答。確かに、ビシッと決まったシェフもいいのだが、寮母さんのようなおばちゃんがいてくれると、なんだか気持ち的にもリラックスできそうだ。

北海道ならではの魚介や野菜をあぶり焼き

イクラ対決は甲乙付け難し

両ホテルともに宿泊客の人気が高いのは、好きな食材をのせて作るオリジナル海鮮丼。函館名物の新鮮なイカ刺しや山盛りのイクラなど、新鮮な海の幸が並ぶ。函館国際ホテルでは宿泊客の要望に応え、普通のご飯のほかに酢飯を用意。生ものには酢飯という地域の人にはうれしいサービスだ。

函館国際ホテルで自分好みの海鮮丼を! 酢飯もチョイスできるのがうれしい

対するラビスタ函館ベイは大小2種類の丼を用意し、女性や子供への気遣いも忘れない。イクラについても、「イクラを食べるためにこのホテルに泊まりに来た」と話す宿泊客がいるほど期待値が高いため、皮が柔らかい若いイクラを厳選して使用しているそうだ。

ラビスタ函館ベイでもオリジナル海鮮丼が作れる。できればイクラはたっぷりと

両ホテルに並ぶ多種多彩な料理とそれに付されたPOPを一つひとつ見ていくと、函館近郊や北海道産の食材を使用したものが非常に多いことに気付かされる。味のおいしさはもちろんのことだが、「北海道に来たからには北海道のものが食べたい」という宿泊客の自然な願望をかなえてくれるところに、評価の高さの一端があるに違いない。

「これはマスト」は海鮮だけじゃない!

地場の食材を使った数々の料理の中から、あえて各ホテルひとつずつ特筆すべきメニューを選ぶとすれば、函館国際ホテルの「自家製朝造り豆腐」とラビスタ函館ベイの「函館牛乳プリン」を挙げたい。

「自家製朝造り豆腐」は、その名の通りホテル内で毎朝手作りしている風味豊かなお豆腐。これに合うのが、やさしい酸味と不思議な甘さをあわせ持つ中華風ソースに函館特産のガゴメ昆布を混ぜ込んだ専用のタレ。濃厚でしっかりとした食感の朝造り豆腐にさっぱりとしたタレとガゴメ昆布特有のネバネバがしっかりマッチして、ここでしか食べられない味となっている。

函館国際ホテル「自家製朝造り豆腐」にはネバとしたさっぱりタレを

「函館牛乳プリン」は、地元産「函館牛乳」由来の濃厚な味わいのプリンに、ほどよい甘味とほろ苦さが絶妙なカラメルソースがかかった瓶入りプリン。そのおいしさは、食後のデザートだと思って軽く見ていたらびっくりすること間違いなし! スイーツ店で食べたら1個で何百円するのだろう、と思わず考えてしまう。「おひとりで2個以上召し上がるお客さまも多いですよ」と聞き、さもありなんと納得。

ラビスタ函館ベイの「函館牛乳プリン」は何個でも食べれてしまうおいしさ

両ホテルの朝食は別途価格を設定せず、宿泊プランで「朝食付き」を選ぶというもの。ラビスタ函館ベイでは朝食は宿泊者のみだが、函館国際ホテルでは宿泊者以外でも2,000円(小学生1,000円)で 朝食を食べることができる。

函館全体の朝食レベルが上昇

このように魅力的な料理を取りそろえる両ホテルは、確かに「朝食のおいしいホテル」として全国に知られるのも納得の味だった。しかし、その評価を裏付けるポイントは料理だけではなさそうだ。

「お客さまが朝起きて、一番初めに顔を合わせるのが朝食会場のスタッフです。1日をいい気分で過ごしていただけるよう、日々全力を尽くしています」と函館国際ホテルの佐藤さんは言う。ラビスタ函館ベイでも、混雑を緩和する動線の形成や不便を感じさせない人的サービスに力を注ぐ。塩辛や松前漬などのおかずを山盛りにせず、一口分ずつ小鉢に入れて取りやすくしているのもその一環だ。

函館国際ホテルの朝食の一例

ランキングでの高評価にもあぐらをかくことなく、「常に新メニューを開発するとともに、お客さまの声を反映するよう努めています」(函館国際ホテル)、「常に同じクオリティーを保つとともに、お客さまを飽きさせないような創意工夫を図っています」(ラビスタ函館ベイ)と謙虚である。イクラをはじめとする海鮮の力もさることながら、宿泊客に喜んでもらえるように研究や努力を続けているからこそのベストテン入りなのだ。

ラビスタ函館ベイの朝食の一例

両ホテルのこうした取り組みは、函館のホテル業界全体に波及効果をもたらしているようだ。函館商工会議所新幹線函館開業対策室長の永澤大樹さんは、「両ホテルの評価の高まりによって市内のホテルが刺激され、朝食レベルが全般的に上がったと聞く。素泊まりだった客が朝食付きプランを選ぶようになり、食材仕入れも増え、地元経済効果の拡大にも波及しているようだ」と話す。北海道・函館が、"朝食のおいしいホテル"がある街から、"朝食のおいしい街"になる日も近いのかもしれない。

※記事中の情報・価格は2015年6月取材時のもの