全妊娠の10~20%の確率で起こるとされている流産。そのほとんどは胎児側の原因により起こるもので、次回の妊娠では継続して出産に至ることが多いとされています。しかし中には、何らかの要因で流産を2~3回以上繰り返してしまう場合があります。
そのように、妊娠はするのに流産や死産を繰り返して赤ちゃんに恵まれない状態を「不育症」と呼びます。その定義や原因、治療法について、基本的なことを知っておきましょう。
数万人の女性が悩む、なっても珍しくない病気
厚生労働科学研究班では、「妊娠はするけれど、2回以上の流産・死産もしくは生後1週間以内に死亡する早期新生児死亡によって児(こ)が得られない場合」を不育症と定義しています。つまり、妊娠22週以前での流産を2回繰り返す「反復流産」、3回以上繰り返す「習慣流産」に加え、死産や早期新生児死亡を繰り返す場合も含まれます。
では、どのくらいの女性が不育症に悩んでいるのでしょうか。同研究班の調査によると、妊娠経験のある35~79歳の女性のうち、1回以上の流産を経験している人は約40%。さらに2回以上の流産の経験者は約4%、3回以上では0.9%を占めることがわかっています。
不育症の原因は人それぞれ
不育症の原因はさまざまです。検査をしても特にリスク因子が見当たらないことも多く、胎児(受精卵)の染色体異常が主な原因とされる早期流産を、たまたま何度も繰り返しただけというケースもあります。また、複数の要因が重なっていることもあり、単純に「これが原因」と断定できるわけではありません。
主なリスク因子としては、父親または母親の染色体異常、着床障害の原因とされる先天的な子宮形態異常、糖尿病や甲状腺機能障害などによる内分泌異常が挙げられます。また、血液凝固因子異常も考えられ、代表的なものには、免疫異常により血栓が生じやすくなる「抗リン脂質抗体症候群」があります。
不育症外来の受診で、約8割以上は出産可能というデータも
病院で不育症と診断された場合には、まずリスク因子があるかどうかを調べる検査が勧められます。検査でリスク因子が見つかると、症状の度合いや体の状態にあわせて、その因子に対する治療を行っていきます。例えば、リスク因子が判明しているなかで多いとされている、血液凝固因子異常。その治療では、血栓ができるのを防ぐために、低用量アスピリンの服用や、ヘパリンを注射する治療法が行われることがあります。一方、特にリスク因子が見当たらない場合は、経過観察をしながらカウンセリングを行います。
ちなみに、厚生労働省研究班の調査によると、治療した場合と経過観察のみの場合を含めて、不育症外来を受診した人の約8割以上は無事に妊娠・出産していると報告されています。不育症かもしれないと思った人も、決して諦めず、まずはかかりつけの婦人科や不育症外来を受診してみましょう。また、同調査では、原因不明の不育症の場合でも、カウンセリングのような精神面でのケアを受けることで、赤ちゃんを授かる率が上がったというデータもあります。悲しい気持ちを1人で抱え込まず、周囲の人や医師などに相談してみることも大切です。
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善方裕美 医師
日本産婦人科学会専門医、日本女性医学会専門医
1993年高知医科大学を卒業。神奈川県横浜市港北区小机にて「よしかた産婦人科・副院長」を務める。また、横浜市立大学産婦人科にて、女性健康外来、成人病予防外来も担当。自身も3人の子どもを持つ現役のワーキング・ママでもある。
主な著書・監修書籍
『マタニティ&ベビーピラティス―ママになってもエクササイズ!(小学館)』
『だって更年期なんだもーん―なんだ、そうだったの?この不調(主婦の友社)』
『0~6歳 はじめての女の子の育児(ナツメ社)』など