愛知県蒲郡市と愛知学院大学、明治は5月19日、産学官共同でチョコレート摂取による生活習慣病の予防・改善効果を調査した実証研究の最終報告を行なった。日本で初めてとなる大規模な同実証研究により、チョコレートの血圧低下効果や、善玉コレステロール値の増加効果などについて発表した。

研究の最終報告をする愛知学院大学心身科学部 健康栄養学科の大澤俊彦教授

産学官共同取り組んだチョコレート摂取の実証研究

今回の「チョコレート摂取による健康効果に関する実証研究」は、愛知県 蒲郡市が策定してる「蒲郡市ヘルスケア計画」に基づく取り組みとして、愛知学院大学、明治と共同で行なったもの。平成26年3月からスタートしたこの実証研究は、昨年11月24日に中間報告が行なわれ、この日「最終報告書」が発表された。

左から、愛知学院大学と共同で実験を行なった蒲郡市の企画部次長 兼 企画政策課長・尾崎弘章さんと、ヘルスケアシステムズの代表取締役・瀧本陽介さん、明治の取締役専務執行委員・大谷純一さん

研究は蒲郡市内外の45~69歳までの男女347人が、4週間カカオポリフェノールを多く含むチョコレートを毎日一定量摂取し、摂取前後の血圧や血液成分などの体の状態の変化を検証するというもの。チョコレートを用いた実証研究としては、日本初の大規模なものとなる。

中間報告ではチョコレートの摂取前後で「血圧の低下」「HDLコレステロール(善玉)の上昇」などの結果が報告された。血圧については、高血圧の人の方が、正常な血圧の人よりも血圧が低下するという。これらの報告により、カカオポリフェノールが血圧を低下させ、善玉コレステロール値の上昇により動脈硬化の予防にもつながる可能性が示唆された。

そして今回、これらの中間報告の結果に加え、さらにふたつの研究結果が新たに発表された。

うつ病、アルツハイマー型認知症などへの関連性

今回新たに報告されたのは、学習や記憶など認知機能を促進させる脳にとって重要な栄養成分「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が、チョコレートの摂取後に上昇していること。血清中のBDNF濃度が摂取前は6.07ng/mlであったのに対し、摂取後は7.39ng/mlと有意に上昇が認められた(p値=0.005)。

抗酸化物質がBDNFを上昇させ、脳の血流が上昇することで認知機能の問題を予防できる可能性がある

BDNFは脳の中で記憶形成を司る海馬に多く存在することが確認されている。このBDNFは加齢とともに減少し、これまでは運動によって上昇するとされていたが、今回の研究報告により、抗酸化物質(本研究ではカカオポリフェノール)を含むチョコレートを摂取することでBDNFを上昇させる可能性が報告された。

これまで、うつ病やアルツハイマー型認知症においては、脳内BDNFの減少が報告されている。大澤教授は、「BDNFを摂取することで、認知機能が改善されるとする研究報告は多数なされている。チョコレートを摂取することでBDNFを上昇させ、認知機能の問題を予防できる可能性がある」と話し、チョコレートを摂取することにより、これらの疾患を予防できる可能性が示された。

新たな動脈硬化の予防効果も

中間報告では HDLコレステロール(善玉)の上昇により動脈硬化を予防できる可能性が見出されたが、さらに動脈硬化の検査に使われる炎症指標(hs-CRP)と酸化ストレス指標(8-OHdG)の値が低下することも確認され最終報告で明らかにされた。これは、被験者のうちこれらの数値が高かった上位1/4の人を対象にチョコレート摂取の前後を比較したものだ。

チョコレートの摂取で血管内皮機能改善も期待できる

「世の中にはさまざまな抗酸化物質があるが、カカオポリフェノールは抗酸化性に加え、血流の増加効果も期待できる」(大澤教授)と、カカオポリフェノールがHDLコレステロール(善玉)の上昇による「血流改善」に加え、炎症を起こりにくくする「血管内皮機能改善」により、動脈硬化を予防できるのではないかとみられている。

今回の大規模な実証研究で、チョコレートの機能性について知られざる部分が数多く明らかにされた。今後さらに研究が進められるが、大澤教授は「健康においてはチョコレートにはネガティブなイメージがあるが、決してそんなことはない」と話し、1日に約25g程度、カカオポリフェノールが70%以上のダークチョコレートを食べることを勧めた。