『愛は技術 何度失敗しても女は幸せになれる。』(川崎貴子 著/KKベストセラーズ/税別1,380円)

実にトリッキーなタイトルの本である。『愛は技術』なんて言われると、一見よくある"モテテク"のようなハウツーを指南する本にも見えてしまうが、おそらくこれは狙いだろう。

なぜならこの本には、いわゆる愛され、ゆるふわ、自分磨きといった"男に選ばれる"ための小手先のテクニックとは、真逆のことが書かれているからだ。いわく、愛されたい、選ばれたいといった「受動の愛」を捨て、「女性は男性に選ばれてこそ価値がある」といった「旧態依然とした恋愛観、結婚観からのシフトチェンジ」を図ろう、とはっきり呼びかけているのだ。

つまりこれは、モテテク本や恋愛自己啓発本にすがってしまいがちな女性にこそ、手に取って欲しい本。愛されないからといって、自己反省や自己責任で自分を責めるのではなく、"自分が愛するに値する男を自分から選ぼう"と説く本書は、そのための"男の見きわめ方"をスキルやライフハック(=技術)として授けてくれるのである。

女子力アップより、キャリアアップを!

著者の川崎貴子氏は、女性のための人材コンサルティング会社の社長として辣腕を振るってきたゴリゴリのバリキャリ女性。加えて、バツイチ・子持ちの末に、8歳年下のダンサーと再婚したという波瀾万丈な経歴の持ち主だ。

そんな人生経験から彼女が導き出した結論は、とにかく「自分の人生を他人マターにしない」こと。男性の年収はもはや時価にすぎず、専業主婦は特権階級の貴族である現実を突きつけ、男性に人生をゆだねるのがいかに危険かを指摘する。

「女子力アップよりキャリアアップ」を推奨し、男性は年収ではなく「家事や育児の資質やコミュニケーション能力」を重視して選べ、と説くその心は、「夫が倒れても収入が止まらず、妻が倒れても家のことが回る」マルチタスクな夫婦こそ、これからの主流になると予見しているからだ。

また、「条件の良い完璧な相手に見初められる」「信念も価値観も相性もすべて合う運命の相手」と出会える、といったロマンチシズムもばっさりお捨てなさい、と川崎氏は喝破している。

相容れないのは当たり前。大事なのは、お互いの欠損を埋め合わせ、価値観の違いをすり合わせようと努力できる男性かどうか。相手がそれに値しないとわかったら、執着や依存をせずに鮮やかにリリースするのも肝要だと言うのだ。

そのための男の選び方として、第1章では「『結婚向きの男』5つの条件」というものを掲げている。いわく、

(1) 「ありがとう」「ごめんなさい」が言える
(2) 「会話力」「傾聴力」に長けている
(3) 相談力がある
(4) 心に何かの傷を持っている
(5) 情緒が安定していること

だそうで、これらは一見、従来の"頼もしくリードしてくれる男性像"からはほど遠い性質に思えるが、裏を返せばこうした古めかしい"男らしさ"が、これまでにいかに男女間の対等なパートナーシップを阻害してきたか、ということでもあるのだろう。

キャリア女性が超年下男性に走る理由

また、第2章では、著者自身の経験と周囲の風評をもとに、キャリア女性に対して5歳差、10歳差の「超年下男性」との結婚をおすすめしているのもおもしろい。

そのメリットは、同世代の男性のように支配してこない、マウンティングしてこない、自分のこだわりに合わせてくれる、古い結婚制度や性役割分業にこだわらず柔軟に対応してくれる、などいいことだらけだ。

しかし、これって言い換えれば、同世代の男性にはもう幻滅しているから、いっそ超年下男性のほうがかわいげもあるし、のびしろもあるし、自分がママになって育て直したほうがマシだと割り切っている、ようにも思える。本書にはそんなことはっきりとは書いていないけれど、もしそうだとしたら、男性にとってそれはずいぶん情けない事態だと思わなければいけないんじゃないか。

実際、この章には超年下夫をうまくマネジメントし、ハンドリングするコツも書かれてあって、一歩間違うとそれは"夫のことは犬と思え"的な、妻にばかり辛抱強い度量の大きさと底無しの母性を要求することになりかねないわけで。

もっとも、その点について第3章では、支配したがる男や、遊び人、DV男などの見分け方を挙げ、彼らのような危険で毒になる男とは即刻別れて手を切るように、とはっきり忠告している。"育てるのは、育つ見込みと価値のある男だけに限りなさい"というエクスキューズがきちんとなされているのは、本書の良心であり救いと言えるだろう。

本書は、女性読者に向けて書かれているので、もっぱら女性の啓蒙と激励に力点が置かれているのは当然だが、それでも第4章で"アラサー女性はとっとと「大人の女」になってしまったほうが、精神年齢の低い男たちを寄せ付けずに済みますよ"とまで著者に言わせてしまう現在の状況は、むしろ男性にこそ意識改革が必要だと思わされるのだった。

女性の自意識に横たわる"自己肯定感"と"母の呪い"

ちなみに、最終章となる第5章では、なぜ女性は「愛されたい」を「支配されたい」と混同し、恋愛で依存したり自分を責めたりしてしまうのか、という問題にも触れている。

その原因として語られるのは、最近の恋愛論・女性論の界隈ではすでにおなじみとなったホットなキーワード"自己肯定感"と"母の呪い"である。

自己肯定感の低い女性には、母親との確執が背景にあり、結局のところそれは、母親ばかりを家庭に押し込めてきた戦後社会のひずみの表れである、という指摘は、このクラスタの間ではもはや自明の共通認識といってもいい。

しかし、そこで川崎氏は、母親もまた「私たちと同じ『幸せ探し』に迷走した女の一人」であるとして、そろそろ私たちは「母親の面影を優しく手放して」「彼女を一人の女性として」許してあげていいのではないかと進言する。

「それが『自己肯定』の初めの一歩であり、『自分自身の人生』を生きるファーストステップではないか」と語りかける下りは、この本の白眉かもしれない。私たちはどうあがいても、自分を許し、愛するようにしか、他人を許し、愛することができないのだから。

本書は、女性だけでなく男性にとっても、また、恋愛だけでなく仕事や生き方全般についても、コーチングやコミュニケーションのヒントとなる視点をたくさん授けてくれるだろう。

<著者プロフィール>
福田フクスケ
編集者・フリーライター。『GetNavi』(学研)でテレビ評論の連載を持つかたわら、『週刊SPA!』(扶桑社)の記事ライター、松尾スズキ著『現代、野蛮人入門』(角川SSC新書)の編集など、地に足の着かない活動をあたふたと展開。福田フクスケのnoteにて、ドラマレビューや、恋愛・ジェンダーについてのコラムを更新中です。