【レポート】

定跡とは何か「将棋電王戦FINAL」第4局 - 村山七段の研究不発、ponanzaが示した可能性

1 見慣れた不思議な初手

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4月4日、プロ将棋棋士とコンピュータによる5対5の団体戦「将棋電王戦FINAL」の第4局が奈良県・薬師寺で行われ、将棋プログラム・ponanza(ポナンザ)が村山慈明七段に勝利した。コンピュータ側が開幕の連敗から巻き返し、これで両陣営譲らず2勝2敗。団体戦決着の行方は第5局に委ねられた。プロ棋士側にとっては第3局に続く勝ち越しのチャンスだったが、今回の敗戦で逆に後のない状況に追い込まれた。

対局室の様子。奥にponanza開発者の山本一成氏と下山晃氏、盤側には立会人の脇謙二八段、記録係の宮本広志四段、読み上げの長谷川優貴女流二段が座っている

村山七段は電王戦出場に意欲を示していた棋士のひとり。プロ間でも序盤研究に定評があり、事前研究ができる電王戦のルールとは特に相性のいい棋士と見られていたことは間違いない。ドキュメンタリーでも対コンピュータ戦に自信を持っていた様子がうかがえた。だが、その村山七段が「誤算」と言っていた存在がponanzaである。村山七段は「強さの次元が違う」など、ほとんど賞賛に近い評価をponanzaに向けていた。そして本局はponanzaの完勝といえる内容だった。村山七段の立てた対策は跳ね返されてしまったのだろうか。

見慣れた不思議な初手

対局場は世界遺産や国宝といった貴重な文化財を擁する薬師寺。境内には桜が咲き、春らしいのどかな空気に満ちている。日差しは暖かく、東京を出るときに着ていたコートは厄介な荷物になった。行き交う観光客の表情も柔らかい。そんな中、真剣勝負が行われる対局室は別世界のように緊張に包まれていた。

ponanza開発者の山本一成氏(左)、下山晃氏

ponanzaはトップレベルの実力を持つプログラム。第2回電王トーナメントでは優勝、「第2回将棋電王戦」で佐藤慎一四段(現五段)に勝利、「第2回将棋電王戦」で屋敷伸之九段に勝利といった実績がその強さを示している。開発者の山本一成氏は東京大学将棋部のOBで、自身の将棋の腕も相当なもの。プロ棋士の強さに畏敬の念を抱いているからこそ、ponanzaはある方向性のもとで改良が進められた。その方向性とは「既存の定跡に頼らない」という点だ。

コンピュータ将棋の序盤は、プロ棋士が指した前例を一定手数までなぞることが多い。しかし定跡は確立された手順そのものはもちろんだが、その礎となった失敗例にも価値があるもの。定跡手順のみを記憶しているコンピュータと、定跡を試行錯誤の総体として認識しているプロ棋士とでは、局面に対する理解度に差が出てくる。棋譜に現れない暗黙知を有するプロ棋士に比べ、序盤の精密さではまだ及ばないのが現状だ。

図1:1手目▲7八金まで

ponanzaはもともと早い段階で前例をなぞることをやめていたが、今回は独自の定跡を搭載して対局に臨んだ。ponanzaが指した初手(図1)もその影響だ。人間の目では作戦を限定して損だが、ponanzaはそう思っていない点が不思議なところ。作戦的に損というのは、たとえば飛車を横に移して戦う「振り飛車」を相手にする時に、守りの形が限定されてしまうことが挙げられる。それゆえ人間はこの手をあまり選ばないのだが、村山七段にとっては練習で見慣れた景色で、特に驚く様子もなく淡々と対局は進んでいった。ちなみに村山七段は局後、「振り飛車も試したが、それだけで勝てるほど甘くなかった」と話している。

今回、村山七段は主流戦型のひとつである横歩取りへ誘導した。練習では別の戦型である角換わりも指していたが、「同時並行して対策を進めるうちに一本に絞った」。その作戦が波乱を呼ぶことになる。

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インデックス

目次
(1) 見慣れた不思議な初手
(2) 用意の決戦策、そして村山七段の不運
(3) 相横歩取り対策のサンプルとして提示しても申し分のない序盤
(4) 長い間「序盤に穴がある」と言われてきたコンピュータ将棋の進歩

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