全国各地の城の来城者はここ数年右肩上がりに伸びており、3月27日にせまった"白すぎ城"と噂の姫路城のグランドオープンも注目を集めている。しかし、日本には何百、何千と城があり、なかなか全国の城をまわるのは難しいもの。そこで、「旅や出張のついでに城が見たい! 」というわがままな旅行者のために、東海道新幹線に乗りながら楽しめる城を紹介しよう。

車窓から眺める名城めぐりなんてなかなかツウな旅路! とは言え、一瞬で通り過ぎる城も少なくないので、相応の集中力をもって挑んでいただきたい。なお、城によっては見える方向が違うので、往路はA席・復路はE席などと方向を変えて楽しむといいだろう。まずは東京駅~浜松駅までの間に楽しめる城から。

鍛冶橋通りの先に見える「江戸城」の伏見櫓。数秒しか見ることができないので要注意

発車数秒後に現われる「江戸城」

旅の醍醐味である駅弁やビールを買って、東京駅から東海道新幹線に乗車。席について、「さあ駅弁を食べよう! 」なんて余裕は車窓からの城旅にはない。発車してわずか数十秒で、「江戸城」が見えるからだ。江戸時代の徳川将軍家の居城であり、現在は天皇家が住まう皇居なので、知らない人はいないだろう。

見える側は東京駅→新大阪駅の進行方向に向かって右側(E席側)。城跡の前には片側3車線の大通りが現れ、その通りの先に白い櫓がそびえている。これは伏見櫓と呼ばれる皇居宮殿の入り口に建つ建物で、分かりにくいがその手前には、江戸城一の撮影スポットである二重橋も見える。発車して間もなくなのでそれほどスピードも出ておらず、注意していれば見逃すことはないだろう。

「小田原城」は3回チャンスあり!

品川駅を過ぎ、新横浜駅を過ぎ、ちょうど駅弁も食べ終わる頃(東京駅から30分程度)に出現するのが「小田原城」。天下統一を目前にした豊臣秀吉による小田原城攻めは、歴史の時間に習ったはず。江戸時代、徳川家康の家臣によって小田原城は大改修され、石垣や天守のある城に生まれ変わった。現在建つ天守閣は、この江戸時代の天守を模したである。

城は大阪駅への進行方向に向かって左側(A席側)、先ほどの江戸城とは反対側だ。小田原駅は新幹線「こだま」しか止まらないが、この小田原駅を通過する前後に城が見える。小田原駅に入る前にはビルの谷間から天守閣が見え、小田原駅通過直後にはトンネルに入る数秒の間に大きく全体像が出現する。さらに、トンネル通過後には左後方に確認することができるので、前述2カ所で見逃した人は窓ガラスにかぶりつこう。

小田原駅通過直後に見える「小田原城」。日本有数の駅近の城で、東海道線が天守の眼下を走っている

立派な"ウソ城"「熱海城」

小田原駅の次の熱海駅を過ぎた直後には、左側(A席側)の丘陵上に立派な天守閣が現れる。こちらは「熱海城」なのだが、実はこの城は真っ赤なウソ城。「北条氏が水軍の本拠地として築城を計画したものの、ついに完成しなかった」という都市伝説のような伝承をもとに戦後築かれたそう。どっしりと構えるその姿はなかなか凛々(りり)しいものがあるのだが……。

ちょっと分かりにくいが、山の中ほどにあるのが「熱海城」。山の麓にある「熱海秘宝館」(緑の建物)も見える

東京駅を出発してここまで3城紹介したが、集中して車窓からの景色を眺めていると、わずか3城だけでも結構疲労が出てくるはず。疲れた人はしばしブレイク。進行方向の右側(E席側)には静岡名物の茶畑、そして日本人の心の故郷・富士山が登場し、旅路にはやる想いを慰撫(いぶ)してくれる。

一面に広がる静岡の茶畑

富士山は雲に隠れてしまうことも多い

仲間由紀恵ゆかりの「掛川城」

静岡駅を過ぎたら、次の城に備えよう。静岡駅を過ぎて約15分程度で掛川駅を通過するが、その掛川駅の前後、右側(E席側)に見えるのが「掛川城」だ。

掛川城は織田信長や秀吉の家臣であった山内一豊が関ヶ原の戦い前に居城とした城。そう言われてピンとこない人も、NHK大河ドラマ『功名が辻』で仲間由紀恵さんが演じた千代の夫と言えば、思い出す方もいるのではないだろうか(ちなみに山内一豊役は上川隆也氏)。千代は一武将にすぎなかった一豊を献身的に支え、内助の功で夫を大名へと出世させる。そんな一豊の居城だったことから、掛川城は"出世城"の異名を持っている。

小高い丘の上に建つ掛川城の天守は、新幹線からでもはっきり見える。周りに遮るような高い建物は多くないので、意識していれば見逃すことはないだろう。この天守は1994年に再建された、日本初の木造復元天守である。

掛川駅到着直前に見える「掛川城」。「こだま」であれば、掛川駅に停車しながらゆっくり鑑賞できる

一瞬見える"出世城"「浜松城」

「こだま」では掛川駅の次の停車駅は浜松駅である。この浜松駅を通過した直後に見えるのが「浜松城」だ。浜松城は江戸城に移る前に長く家康の居城だった城。さらに江戸時代に入ると、天保の改革を実行した老中・水野忠邦など、浜松城主から幕府の重役に出世した例が数多くあり、掛川城と同じく"出世城"として当時から貴ばれてきた。

サラリーマンであればぜひとも拝んでおきたい城だが、この浜松城の復元天守が見えるのはほんの一瞬、わずかに現れるだけなのだ。見えるのは掛川城と同じく右側(E席側)。浜松駅を過ぎたら凝視して、マンションの狭間に見える緑の丘陵を探そう。天守が見えている間に3回願いごとを言えたら、その願いがかなうとかかなわないとか……。

ビルの影に隠れる「浜松城」。撮影するのは至難の業だ

浜松駅を過ぎてしばらくすると浜松湖畔を通る

続いては名古屋駅~新大阪駅。この区間では、名古屋城や彦根城などが拝める。引き続き、城をお見逃しなく!

(文・かみゆ歴史編集部 滝沢弘康)

筆者プロフィール: かみゆ歴史編集部

歴史関連の書籍や雑誌、デジタル媒体の編集制作を行う。ジャンルは日本史全般、世界史、美術・アート、日本文化、宗教・神話、観光ガイドなど。おもな編集制作物に『日本の山城100名城』(洋泉社)、『これが皇居です』(宝島社)、『一度は行きたい日本の美城』(学研パブリッシング)、『日本史1000城』(世界文化社)、『廃城をゆく』シリーズ、『国分寺を歩く』(ともにイカロス出版)、『日本の銅像完全名鑑』(廣済堂出版)、『新版 大江戸今昔マップ』(KADOKAWA)など多数。また、トークショーや城ツアーを行うお城プロジェクト「城フェス」を共催。
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