Microsoftは2014年12月に、モバイルデバイス向けメールアプリケーションをリリースするAcompliを買収したことを発表した。その概要は以前のレポート記事でも述べたとおりである。だが、「Outlook for iOS」に改称し、再リリースするとは正直想定外だった。
上図は買収決定直後のAcompliと、Outlook for iOSを並べたものだが、一見しただけでは違いを確認できない。何らかのコード変更を加えたと思われるが、日本語表示にしても日付の形式は英語版のままなど、ツメの甘さも各所から見受け取れる。現時点ではリブランドにとどまったというのが正しい表現だろう。 Acompli時代から試用を続け、安定性が高まれば他のメールクライアントやカレンダークライアントから移行しようと思っていた筆者を驚かせたのが新たな買収情報だ。執筆時点でMicrosoftは公式に認めていないが、The Verge、TechCrunchによれば、iOSやAndroid向けカレンダーアプリケーションをリリースする「Sunrise Calendar」を1億ドル以上で買収するという。
Sunrise Calendarは、GoogleやMicrosoft Exchange、Facebookのカレンダー機能と連携してスケジュール管理を行うアプリケーションで、使い勝手は決して悪くはない。
Sunrise Calendarのサインイン画面。今後はここにMicrosoftアカウントが並ぶと思われる |
今回はGoogleのほか、iCloud/Exchange/Facebookのアカウント(カレンダー)を追加できる |
実際にiPhoneアプリで、筆者のGoogleアカウントで利用しているカレンダー情報にアクセスすると、当日や翌日のタスクが列挙された。画面上部で月単位をタップするとタスクリストも該当する日時に移動する仕組みだ。iPad上で起動すると月全体を視認できる表示モードが既定となり、ボタンで月/週単位を切り替えられる。
軽く触った範囲では必要にして十分な機能を備えるアプリケーションだが、MicrosoftはなぜSunrise Calendarを買収するのだろうか。冒頭で述べたOutlook for iOSもカレンダー機能を備えているため、アプリケーションの役割が衝突するのではと考えてしまう。
だが、Outlook for iOSをiPad上で実行しても、月全体のタスクを確認する機能は備わっておらず、Outlook for iOSとSunrise Calendarと融合させる価値が各所に見い出せるだろう。このように各アプリケーションを買収したポイントはマルチプラットフォーム化にある。
Outlook for iOS(旧Acompli)はAndroid版をリリースしているが、こちらは「Microsoft Outlookのプレビュー」という名称だ。この点について日本マイクロソフトは、「Android版は機能面およびパフォーマンス面でiOS版に劣る。今後の開発で各OS版の差が解消されれば、名称から"プレビュー"を外す」と説明している。そこで、Acompliだけでは満たせなかったマルチプラットフォーム環境を補うため、MicrosoftはSunrise Calendarを手中に収めようとしているのではないだろうか。
さらに今後の開発を進めるうえで予測できるのが、Officeアプリケーションとの連動だ。MicrosoftがOSやソフトウェアを中心とした過去のビジネスモデルから脱却しつつあるのは明白だが、メールやカレンダーなど我々が常日頃使うツールとOfficeアプリケーションの連携がさらに強めるのは、クラウドサービスを重視するMicrosoftの戦略と合致するのである。
既存サービスとの融合も重要なポイントだろう。MicrosoftはWeb版Outlook.comやカレンダーとともに、Excel Onlineなど各種アプリケーションをWeb化してきたが、現在はユーザーの使用スタイルの変化も相まって、あまり活用されていないように見える。
ユーザーが身につけるスタンダードデバイスがPCからスマートフォン/タブレットになりつつある今、Microsoftは迅速なクラウドサービスの拡充を迫られているのだ。
阿久津良和(Cactus)