「大学全入時代」―。大学入学者は毎年約60万人、進学率は50%に上っています。一方で問題となっているのが中退者の増加。大学入学者の10人に1人が退学しているとも言われ、「大学を辞める」はもはや珍しい話ではありません。そこで気になるのが中退者の「その後」。彼らはどこに“居場所”を見つけ、どう人生をリスタートしているのでしょうか。

今回はこの問題に詳しい日本大学通信教育部の栁川浩昭氏に中退者を取り巻く現状についてインタビュー。実際の中退経験者にも登場していただき、退学の理由や現在の生活についてお聞きしました。

退学者が増えている背景は?

日本大学通信教育部 入学課長 栁川浩昭氏

――昨年9月に文科省が発表した2012年度の大学、短大、高等専門学校の中退者は7万9,311人で、前回調査(2007年度)よりも約1万6千人増えています。大学入学者に限って見ればその10%が中退しているとも言われていますね。

栁川氏「基本的な背景に『誰でも(大学に)入れる』ということがあるのではないかと思います。偏差値教育だから、やりたいことよりも入れる大学を優先してしまう。安易な選択と言ったらいいでしょうか。その結果、入学しても『想像とは違う』ということになってしまう」

――そうした中退者はそれからどうしているのでしょうか。

栁川氏「中退者の『その後』を具体的に調査したデータはありませんが、おそらく多くは就職するか、他大学に移り学歴を繋げていくか。専門学校や資格取得の学校に行く人もいます。もちろんニートになってしまうということもあるとは思いますが。ただ、大学との『不一致』が理由で辞めた場合はやはり学歴を繋いでいく方向を考えるケースが多いようですね」

通信教育課程に「通う」という選択

――日本大学通信教育部には他大学からの入学・編入学は多いのでしょうか?

栁川氏「はい。2014年度の本学への入学生は約1,800人いましたが、そのうち他大学の中退者は約180人でした。本学の場合、入学生の中には教職などの資格取得を目的にした学生も多いので、卒業を目指す入学者の中での他大学中退者の割合は2割近くになり、毎年増えている状況です」

――どんな理由で貴校を選ばれる方が多いのですか。

栁川氏「日大通信教育部では通信学習、スクーリング、メディア授業といった学習方法を提供しているのですが、他大学中退者の多くが『昼間スクーリング』を選んでいます。通信教育課程の校舎を持つ本学ならではのもので、キャンパス生活を楽しむことができる。そこに魅力を感じて入学する学生は多いようです」

自分で決めた道だから頑張れる

大学中退を経験した内藤さん

――中退経験者の内藤さんにもお話を聞きたいと思います。内藤さんは現在日大経済学部経済学科通信教育課程の3年だそうですが、以前は?

内藤さん「はい。大学の国際関係学部に3年まで在籍していました。実際に通っていたのは2年の8月までです。入学したばかりのころからずっと『大学を辞めたい』とは言ってはいたんですが……」

――どうして辞めたいと?

内藤さん「付属高校から推薦で入ったこともあって、特に勉強したいこともなく流れで入っちゃったという感じでした。その大学でもいろいろあって人間関係でつまずいたり。『あぁうまくいかないなあ』と。親には反対されましたが、何度も話し合って退学を許してもらいました」

――退学後の進路は自分で?

内藤さん「はい。自分自身がどうしたいのか、じっくり考えました。ふつうの大学に入りなおすよう親には言われましたが、同じような環境はもう嫌だったんです。そこで母が今の大学のことを調べてきてくれて。ここで止まったらいけないと思い、入学を決めました」

――入ってみてどうでしたか。

内藤さん「普通の大学と一番違うなぁと思うのは、集まっている学生の年齢や経歴がいろいろなところ。ただみんな勉強がしたくて学校に来ている感じでとても意欲的でまじめです。社会人経験者も多いので、就職のこととか、会社のこととかそういったことも相談できる相手がいるのもいいですね。そんな勉強仲間に囲まれているせいか、以前に比べ積極的になったし、昔からの友人には『明るくなった』とも言われます」

――大学3年といえばいよいよ就職活動ですが。卒業後は?

内藤さん「手に職を持ちたいという気持ちもあり、資格を取得したいと思っています。興味があるのは社会福祉士です。自分自身つまずいて悩んだ時期があるので、同じように悩んでいる人を助けられるような仕事をしたいと思っています」

――最後に中退したことについて今はどう考えていますか。

「良かったと思っています。無理して前の学校に通って卒業できたとしてもその先でつまずいたと思いますから。自分で考え直して、自分で決めた道なので、勉強にも意欲的になったし、いろんなことに積極的になれました。自分に自信が持てるようになりました。これから就職活動もありますが、就職支援もしっかりしてくれるので心強いですね」

大学入学者の1割が中途退学している今の状況、あなたはどう思いましたか?決して他人事ではないと思われたのではないでしょうか。

取材協力:日本大学通信教育部

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