名古屋といえば喫茶店。そして、名古屋の喫茶店と言えばモーニングだ。コーヒーにトーストやゆで卵などがついてくるモーニングは、名古屋の食文化の代名詞と言っても過言ではないほど、今や全国に知られている。

モーニングは"お値打ち"が大好きな名古屋人の経済感覚にもマッチし、広く浸透したといわれる。そんな名古屋で今、人気を集めているのが1,512円のモーニングだ。一般的な喫茶店のモーニングと比べて3~4倍。価格だけ見れば、名古屋の喫茶やカフェのモーニングの中で屈指の高さになる。それがなぜウケているのか?

「キハチ カフェモーニングプレート」(1,512円)は10~12時限定。名鉄百貨店60周年にちなんで6種のメニューの盛り合わせになっている

あまりの人気で急きょレギュラー化

このモーニングを食べられるのは「キハチ カフェ 名鉄百貨店本店」。2014年9月に1カ月限定の予定で売り出したところ、予想のおよそ2倍もの売れ行きのヒットメニューとなり、急きょレギュラー化された。

内容はドリンクに、パンケーキやスクランブルエッグ、ソーセージ、ベーコンなど6種類が華やかに盛り付けられたプレートが付くというもの。モーニングと言いながらも盛りだくさんで、昼12時まで注文できることからランチ替わりに注文する客もいるそう。また、ほかのセットメニューでは選べないカフェラテを選べるのもポイントが高い。

店は名古屋駅の一画にある名鉄百貨店本店内なので、遠方からのアクセスもよい。店内は落ち着いた雰囲気が漂っている

マスカルポーネチーズがのった「小倉あんトースト」も

「名古屋らしく、キハチ カフェでしか食べられないモーニングを、と考えてメニュー化しました」と野坂聡恵店長

「名古屋のモーニングはコーヒーに無料でトーストなどが付いてくるお店が多いので、セット料金のモーニングが受け入れられるか当初は不安もありました」とは野坂聡恵店長。しかし、いざ売り出してみると「"モーニング"というキーワードだけで"おトク"だとイメージしていただける。その安心感は絶大だと実感しました」と言う。

1,512円という価格は喫茶店のモーニングサービスと考えれば高いが、レストランやカフェとして絶大なるブランド力を誇る「キハチ」のセットメニューだと考えれば、むしろ割安感がある。ちなみにキハチ カフェのコーヒーの値段は648円、ランチは1,728円。日ごろからキハチのレストランやカフェを利用して雰囲気やサービス、味のクオリティの高さを知っているファンほど、モーニングも実はなかなかお値打ちだと実感できるワケだ。

また、名古屋限定メニューであることも人気につながっている。モーニングを目当てに遠方から訪れる客も少なくないそうだ。もともと同店にはオープン当初からの限定メニュー、「小倉あんトースト」(972円)があり、こちらも人気が高い。

「小倉あんトースト」の厚切りトーストには、マスカルポーネチーズやたっぷりの自家製あんこのほか、抹茶もトッピング。名古屋らしい、名古屋だけでしか食べられないメニューがあることが独自の魅力となり、キハチファンの心をつかんでいるようだ。

こちらも名古屋オリジナルの「小倉あんトースト」(972円)。見た目はかわいらしいが意外やボリューム感もある

そして、人気の背景にあるのはやはり名古屋人の"お値打ち"嗜好。これはしばしば誤解されがちだが、決して安ければいいという考え方ではない。価格に見合った価値をシビアに求める嗜好であり、だからこそ名古屋人は高価でも安心感のあるブランド物を好むと言われる。キハチ カフェのモーニングもそんな名古屋人のお眼鏡にかなったからこそ、値段は高くとも売れているのである。

※記事中の情報・価格は2015年1月取材時のもの。価格は税込

筆者プロフィール: 大竹敏之(おおたけとしゆき)

名古屋在住のフリーライター。雑誌、新聞、Webなど幅広い媒体で名古屋情報を発信。Webガイドサイト「オールアバウト」では名古屋ガイドを務める。名古屋メシ関連の著作を数多く出版。『名古屋の喫茶店』『名古屋の居酒屋』『名古屋メン』『続・名古屋の喫茶店』(リベラル社)は自腹リサーチをコンセプトにしてご当地ロングセラーに。10月上旬にはご当地グルメコミックエッセイ『まんぷく名古屋』(KADOKAWA、森下えみこ著)に案内人として登場。