あの独特な甲高いトーンで視聴者に訴えかけるテレビ通販番組の顔ともいえるジャパネットたかたの高田明社長。名物社長からバトンを受け継いだのは、長男の高田旭人氏である。これまではあまり表舞台に登場することがなかったため、その素顔はベールに包まれていたが、小誌では同氏に直接インタビューを行う機会を得た。本稿では、新社長 高田旭人氏、新生「ジャパネットたかた」の姿や同氏の人物像に迫ってみた。

名物社長からの事業継承……背景には何があったのか?

株式会社ジャパネットたかた 代表取締役社長 高田旭人氏

他の通販番組では類を見ない圧倒的な "熱量" を感じさせるスタイルで商品を紹介・販売するジャパネットたかた。確実に印象に残る独特の声色に、軽妙なトークで視聴者を魅了する名物社長、高田明氏。同氏が会社の創立記念日でもある2015年1月16日をもって社長を退任するという衝撃的な発表を行ったのが、昨年7月31日に開催された「テレビショッピング20周年記念 感謝の会」のことである。この場において、新社長には、当時ジャパネットたかた副社長を務めていた長男の高田旭人氏が昇格することが伝えられた。

高田旭人新社長(以下、旭人社長)が目指す "ジャパネットたかたとしてあるべき姿" とは何なのか。それらを伺っていくと、そこには親子の絆を超えた "ジャパネットマインド" がしっかりと継承されていると強く感じさせられた。

社長交代は「2013年最高益を達成できなければ社長を辞める」というひと言から

今回の社長交代人事だが、前任の高田明氏はまだ66歳と若い。にもかかわらず、「すべての職を辞する」と発言し、後任である旭人社長へバトンタッチすることとなっている。その背景には何があったのか? また、なぜこのタイミングなのかを伺ってみた。

正直なところ、旭人社長も、「なぜこのタイミングなのか!」と、驚きを隠せなかったという。

「もともとは、2012年の年末に『2013年最高益を達成できなければ社長を辞する』という高田明社長の発言を新聞報道で初めて知りました。そして2013年、社員一丸となって社長を辞めさせないように頑張り、最高益を達成した年末の "大望年会" で、今度は『2年以内に辞する』と。すると、半年もせずに『2年以内と言っていたが今年で辞める』と、どんどんスケジュールが前倒しになっていきました」

ジャパネットたかたという企業には、一般の企業で策定している中長期の経営計画が存在しないのだという。自身の理念である "今を一生懸命" という意識を社内に根付かせ、創業者として牽引してきた高田明氏。ともすれば「直感だけで動く経営者」と思われる可能性もあるが、最高益の達成など、必ず結果を残してきているから凄い。

テレビにも頻繁に出演し、企業の顔としての広告塔的役割を果たすなど、縦横無尽の働きで会社を牽引してきた前社長の高田明氏。視聴者や読者にとっては、「旭人社長もこのような役割を引き継ぐのだろうか?」という点が気になるところだが、それはないようだ。

「前社長と同じように事に当たるというのはないでしょうね。すでにジャパネットたかたの顔となるMCも育っていますし。私自身は、"良い商品を発掘して、最良のメッセージとして視聴者に伝える" というジャパネットの核となる部分を守りながら、その周辺にあるモノ……例えば、サービスやバックオフィスといった一人ひとりがミッションを果たせるようにするための、環境作りに注力したい」と語り、旭人社長は “調整役” に徹していく考えを示している。そんな旭人社長が特に注力し、改善したいと考えているのが、「公平な人事評価制度」だという。

「ジャパネットは良くも悪くも家族的な会社。その家族的な良さを生かしつつ、役割を果たした人間がきちんと評価されるようにしていきたい」とのこと。これは、どちらか一方がベストということではなく、皆で助け合う一体感と成果主義のバランス重視した評価制度を取り入れていくということだ。

テレビ、ラジオ……媒体はいくつもあれど “主役はあくまでも商品”

ラジオに始まり、テレビ、チラシ、カタログ、Webサイトおよびスマートデバイスへの対応、そしてスマホアプリまで、幅広い媒体を介して通信販売を手掛けるジャパネットたかた。「時代の潮目を見定めて媒体展開してきたにすぎない」と旭人新社長は語るが、いずれの媒体においても "主役はあくまでも商品" という意識を常に持って積極的に媒体制作業務にも直接関わっているという。

真に良い商品を見つけてきて、その良さを視聴者に伝える……一見単純だが、非常に奥深い部分を追求してきた結果が、ジャパネットたかたの勢いを支える原動力になっているのだろう。

「前社長を間近で見ていると驚かされますね。私がバイヤーとして販売に注力しようとしていた万年筆を紹介する際、通販番組の放映が始まってから、ひたすら文字を書き続けているのです。『製造したメーカーの歴史やインクの材質、ペン先のクオリティ……』といった、メーカーとしては是が非でも訴えたい商品の説明はほとんどナシ。でも商品の魅力は伝わり、売れる」これが、父である前社長の凄さである。

旭人社長がバイヤーとして担当した万年筆を紹介する番組で、ひたすら文字を書き続けていた前社長の姿は、言葉よりも視聴者に訴えるものがあったようだ (写真は放映時のワンシーン。ジャパネットたかた提供)

「最近では、カニをテレビショッピングで紹介した時にも驚かされましたね。その時は、自身がひたすら食べているその姿で商品を売り切ってしまったのですから」

前社長は、その商品の本質をわかりやすく表現するにはどうすべきか? という問いに理詰めではなく感性で訴えることを解とすることが多かったが、旭人社長はその逆で、「私はどちらかというと理詰めで物事を考える性格」とのことだ。しかし、そのような前社長のやり方を目の当たりにしていると、物事は理屈だけでは通用しないこともあるのだなぁ……と身にしみて感じた」という。

「世の中に埋もれている良いモノ」を発掘して提供していくことがジャパネットたかたの使命だと語る旭人社長。ネット通販においても “ジャパネットらしさ” を大切にしていきたいという。

「ネット通販というと、大量の商品が網羅され、注文後すぐに手元に商品が届くサービスを提供する……というイメージがありますが、ジャパネットたかたはそれらを追随するのではなく、当社が自信を持ってお薦めできる商品をピックアップして掲載していく方向性を取り続けていく」とのことだ。

例えば、テレビでは1種類しか商品を紹介できなかった掃除機であれば、 "コンパクトさを追求するならコレ!" "値段を重視するならコレ!" といったように、視聴者やユーザーのニーズにダイレクトに応える商品を厳選して紹介しているという。

旭人社長は、「今まで培われてきた "ジャパネットらしさ" は、社長が代わっても何ら変わることはありません。ジャパネットたかたなら、本当に良い商品に出会える。見ていてドキドキワクワクさせてくれる。世の中に知れ渡っていない本当に良い商品を発掘してきて、お値打ち価格で提供してくれる。これからもお客様にそう思っていただける企業であり続けたい」と力強く語った。

ジャパネットたかたはいつまでも情熱的な企業であり続ける

商品の良さを友人と語り合うように掘り下げていく、ジャパネットたかた独自の商品紹介スタイル。お客様、商品を提供するメーカー、そしてジャパネットの三者がハッピーになれるよう、これまで同様に真摯に取り組んでいくと語った旭人社長。前社長が発してきた "熱量" を周囲に伝播させる力。旭人社長は、この周囲を巻き込む情熱をどのように継承していくかが自身のミッションにもなるとも語っている。

今後ジャパネットたかたを利用する視聴者やユーザーに対して、「"Trust Us" ですね。ジャパネットたかたを信じてほしい」と力強く語る旭人社長の言葉には、確かな商品を見つけてくるバイヤーの眼、商品の良さを最適な形で表現する制作のノウハウ、自身も責任者を務めた経験を持つ、お客さまとダイレクトに接するコールセンターの対応力に自信があるからこその言葉と言えるだろう。

略歴

高田旭人 (たかたあきと)
1979年長崎県生まれ。東京大学卒業後、証券会社へ入社。その後ジャパネットたかたへ。販売推進統括本部、商品開発推進本部、総合顧客コンタクト本部、商品管理部 本部長を経て、2010年には自社コールセンター ジャパネットコミュニケーションズの代表取締役に就任。2012年にジャパネットたかた 取締役副社長に就任し、現職へと至る。