クリスマスイブに『ファーストクラス』が最終回を迎え、26日に昼ドラ『シンデレラデート』がハッピーエンド、27日に大トリの『ダークスーツ』が終わったことで、2014年の連ドラは全て終了。今年も刑事、医療、ヒューマン、恋愛、家族、学園など、さまざまなジャンルの作品で楽しませてくれた。

ここでは「朝ドラから深夜ドラマまで全作品を視聴している」ドラマ解説者の木村隆志が、一年を振り返るべく、「業界のしがらみや視聴率は一切無視」して、独断でTOP10を選んでいく。

10位 長編ミステリーに若手キャストの群像劇を絡めた『Nのために』(TBS系)

榮倉奈々

連ドラらしい長編ミステリーに真っ向挑んだだけでなく、榮倉奈々、窪田正孝、賀来賢人、小出恵介ら若手キャストの群像劇を絡めた良作。他枠が安易な1話完結ドラマや刑事モノに走る中、恋、家族、仕事などに対する等身大の姿を交えて、飽きさせない脚本・演出が光った。

印象的だったのは、キャストがそれぞれ異なる切なさを繊細に演じ分けていたこと。悲しくシビアな現実に悩まされながら、希望を見い出す彼らに感情移入した人が多かったのではないか。

さらに、過去パートの光石研、モロ師岡、山本未來、柴本幸ら脇役の好演、島と都会のコントラストを見せる映像なども素晴らしかった。

9位 時事ネタに現代社会へのアンチを込めた『ブラック・プレジデント』(フジテレビ系)

沢村一樹

"ブラック企業"という時事ネタを扱い、社長とゆとり世代の交流を描いた脱力系の社会派作品。昨今の視聴者が好む「ヒーローの出現で全て解決!(=勧善懲悪)」という展開ではなかったためか視聴率はサッパリだったが、ドラマの内容は終始充実していた。夢や仕事に希望が持てない学生たちvs毒舌ブラック社長の図式は楽しく、よどみなく放たれる正論は不思議なほど説教臭さを感じず、心に刺さるものがあった。

そもそも名作『結婚できない男』のスタッフで作られただけあって、変人の演出はバッチリ。ブラック社長役の沢村一樹は、もともと変人役が得意なだけに、尾崎将也の脚本に応えて生き生きと演じていた。

「感動からのブラック発言+高笑い」というラストの演出も分かりやすく、すっかり見られなくなった大学のキャンパスを舞台にしたのも好印象。ほとんど話題にならなかったのは、「単なるPR不足ではないか」と思われる。

8位 スタッフの自己主張とキャストの執念を感じた『家族狩り』(TBS系)

松雪泰子

植田博樹プロデューサーが「7年越しで実現させた」というだけあって、原作者の天童荒太が脚本参加し、キャストが鬼気迫る演技合戦をするなど、熱と覚悟を感じるドラマだった。

ただ、暗く重い3つの家族劇と、連続一家心中を巡るミステリーが同時進行するため、よく言えば「先が読めなくて楽しい」、悪く言えば「分かりにくくて怖い」。二分されがちな作風に加え、日テレのジブリ映画攻めで視聴率は低迷したが、コアなファンを着実に獲得した。

象徴的だったのは、生々しい家族の描写と、クリアな映像美。松雪泰子演じる氷崎游は父の認知症と母の介護疲れに悩み、遠藤憲一演じる馬見原光毅は妻が心を病み、娘とは絶縁状態などつらい状況がヒシヒシと伝わってきた。その一方で、凄惨なシーンをやわらげるためにハイビジョンを思わせる美しい映像を追求。ファンタジーをも感じさせる仕上がりで、「視聴者にあと味の悪さを残さないように」配慮していた。

「いかにも企画会議で通りやすそう」なコンセプトのドラマが多い中、これくらいスタッフの自己主張を感じる連ドラがあってもいい。挑戦を続けるTBSの金曜22時は、視聴率という結果こそ得られていないが、ドラマフリークの心はガッチリつかんでいる。

7位 2つの成長物語とラストのビッグカタルシス『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)

堺雅人

『半沢直樹』と同じスタッフで、同じキャストも多用したため、「二番煎じ」「こっちは失敗」と揶揄する声もあったが、終わってみれば爽快感あふれる力作だった。

1つ目の見どころは、「ビジネスと野球という真逆な両シーンをカットバックで描く」難易度の高いトライ。ピンチと希望をリンクさせながら、テンポよく進め、両者とも大団円につなげた。

2つ目の見どころは、出し惜しみなしの全力演出。アップや動きの力感を重視し、不要な間を徹底排除した福澤克雄監督流の映像は、「1時間がアッという間」「どこを切り取っても印象的なシーン」という臨場感があった。これはキャストやスタッフにいい意味でのプレッシャーをかけ続けた成果だろう。

3つ目の見どころは、「逆転」より「成長」のスタンス。冷酷なリストラをいとわなかった唐沢寿明演じる細川社長は「社員の思いを理解しはじめる」姿で、工藤阿須加演じる沖原ら野球部員は「過去を乗り越えて団結する」姿で感動を誘った。最近めっきり減った「悪から正義へ、弱者から強者へ成長を遂げる」物語は、もっと評価されてしかるべきではないか。

そして忘れてはいけないのが、『半沢直樹』と真逆の大ハッピーエンド。これぞ連ドラの王道であり、視聴者の「こうなってほしい」という願望に応えた点も良かった。

6位 脚本と演出が冴え渡り、新たな刑事ドラマ像を見せた『BORDER』(テレビ朝日系)

小栗旬

「死者と話せる刑事」という荒唐無稽な設定で懐疑的な見方もあったが、フタを開けてみると「被害者の想いを受け止める」ヒューマン要素が満載。新たな刑事ドラマの世界を静かに切り開いた。

まず「主人公が被害者のために無念を晴らす」展開はスカッとするし、「死者が加害者だった」「被害者が教えた犯人は間違いだった」「実は事件ではなく酔っ払いの事故死」など物語のバリエーションも多彩。サイモン&ガーファンクルら「なかば反則」の協力者をうまく使って1話完結できっちり納めるなど、金城一紀の脚本が冴え渡っていた。

さらに、ダークに統一された映像のトーン、思いを内に秘めた清濁併せ持つヒーロー像、最小限に絞った陰のある脇役、事件解決に至るドキドキ感など、洗練された演出も出色。最終回のラストシーンが象徴するように、「視聴者をその世界観に巻き込んでおいて、意外な結末で置き去りにする」余韻の残し方も絶妙だった。

裏番組の『MOZU』を視聴率、評判ともに逆転し、テレビ朝日の木曜21時枠に若年層視聴者を呼び込んだ功績も大きい。

5位 「夫婦とお金」を掘り下げ、原田知世の透明感に魅了された『紙の月』(NHK)

原田知世

テーマは「1億円横領」と思わせつつ、実は夫婦やお金について考えさせられる、奥の深いドラマ。夫の無神経な言動に悩む貞淑な妻が、若い男との情事に走り、ふとしたきっかけから横領に手を染めてしまう様子が、繊細かつ丁寧に描かれていた。

とりわけ印象的だったのは、主婦の虚無感や静かな衝動を好演した原田知世。色あせない透明感で、同作品を“スキャンダラスな事件”ではなく、“誰にでも起こり得る出来事”というイメージに変えていた。また、夫を演じた光石研も『年間最高助演俳優賞』モノの存在感を発揮。悪気なく放たれる罪な言葉や、子作りに協力しない姿で、男の嫌なところをリアルに表現していた。

一方、夫婦とお金に関する描写には、「夫と不仲で強烈な倹約家」「離婚で子どもの親権を失い、買い物依存」の友人たちを絡めて描くなど、さまざまな視点を用意。原田知世、水野真紀、西田尚美の3女優や、タイ・チェンマイの景観も含めて、目と心に優しいドラマでもあった。

全5話でキレイにまとめていたのは、「間延びしてクオリティを下げないため」であり、潔さを感じる。NHKの火曜22時枠『ドラマ10』は、テーマ選び、ヒロインの揺れ動く心、映像の美しさなど、今年も女性に寄り添った作品で楽しませてくれた。

4位 妥協なきこだわりとサービス精神を詰め込んだ『アオイホノオ』(テレビ東京系)

柳楽優弥

監督・脚本を務めた“深夜ドラマの帝王”福田雄一の妥協なきこだわりが爆発。あだち充マンガの静止画からはじめたオープニング、柳楽優弥が演じた主人公・モユルの屈折した役作り、『エヴァ』の庵野秀明や「オタキング」岡田斗司夫ら実在人物とのやり取り、野沢雅子や古谷徹などレジェンド声優の起用、缶ジュースまで完コピした80年代カルチャー、週替わりのエンディングなど、見どころを挙げればキリがなく、ここまでディテールを突き詰めた作品は記憶にない。

ストーリーも、「かわいそうなあだち充」「高橋留美子、最近少しズレてきている」と上から目線でヘリクツばかりのモユルと、才能と熱意にあふれた庵野、赤井の対比は明快。限りなくノンフィクションに近いため説得力もあり、どんどんのめり込んでしまう。さらに、全編を通して、現代の若者が失っている「自分より優れている人にライバル意識を燃やす」「多少間違っていようが貫くことで挫折を乗り越える」ことの大切さを教えてくれた。

安田顕、ムロツヨシ、中村倫也、山本美月、黒島結菜、佐藤二郎ら脇役も誰一人外れなし。最終回に原作者・島本和彦、岡田斗司夫、山田孝之をサプライズ出演させるなど、ゴールテープを切るまで全力フィニッシュを見せた。決して「オタク向けのマニアックな深夜ドラマ」ではなく、「多くの要素を絡めた誰が見ても楽しいドラマ と言える。

3位 壮大な結末で涙を誘った最高水準のリメイク『なぞの転校生』(テレビ東京系)

中村蒼

これまで多くの映画監督が関わってきたテレビ東京の『ドラマ24』。「今回は岩井俊二が企画プロデュースと脚本を、長澤雅彦が演出を手がける」と聞いて興味を持った人も多かっただろうが、期待にたがわぬ作品だった。

原作は1975年にドラマ化されたSFジュブナイルであり、これを現代版にリメイク。物語の進行は極めてスローだったが、それが気にならないほどの映像美を用意していた。学校や団地などの何気ない風景を幻想的に見せる手法も、「モリノス」をはじめとするSF表現の何気なさも、「キャラのついていない」若手キャストのみずみずしい演技も、叙情的なショパンの音色も全てが調和。さらに、ヒューマノイド(アンドロイド)の山沢典夫との友情、彼らD8世界の人から見たわれわれ地球人の問題点、原発事故を思わせる「プロメテウスの火」など、考えさせられるシーンも多かった。

うならされたのは、主人公の父親役を演じた高野浩幸の「D15世界から来た」こと。高野は1975年版の主人公であり、D15世界とはその作品のことを指している。つまり、「今作は39年前のドラマとつながっている」というメッセージだったのだ。こんな遊び心を超えた視聴者へのプレゼントも含め、「これぞリメイクの鏡」と感じさせられた。

人間の優しさと哀しさ、地球の美しさ……まさかSFモノで涙腺がゆるむとは思わなかったが、それほど高水準のドラマであり、特に大人たちの心をガッチリつかんだ。

2位 感動シーンと名言の連発で、熱狂的な支持を得た『あすなろ三三七拍子』(フジテレビ系)

柳葉敏郎

記録的低視聴率が話題になったが、『YAHOO!テレビ』のクチコミランキングでは『HERO』『昼顔』らを抑え、夏ドラマ断トツ1位。しかも「毎週涙を流しています」「逆に見ていない人が残念に感じる」という熱狂的なものばかりで、あらためて視聴率について考えさせられた。

確かに「オッサンが学ラン姿で叫ぶドラマなんて……」と思った人は多かったかもしれない。また、第1話は説明的な描写が目立ち、感情移入しにくかった感もあるだろう。しかし、さまざまな苦境の中、ガラガラ声でエールを送るなど、回を追うごとにキャストの魅力が増し、名言を連発していった。

人が殺されてばかりの刑事ドラマが増え、不倫などのショッキングな設定に頼ったものが多い中、このドラマにはドロドロの人間関係や安易な事件はなし。あったのは、等身大の毎日を懸命に生きる人々の姿だけ。「人は応援されながら生きている」「応援できる人になれたら幸せ」という人生真理を教えてもらったような気さえしてしまう。

そもそも原作は重松清、脚本は『Dr.コトー診療所』の吉田紀子、音楽は『あまちゃん』の大友良英、主題歌はスピッツの名曲という豪華布陣。ふつうに考えたら面白くないわけがないのだ。

9話で打ち切られず、全てが放送されていたら1位に選んでいたかもしれない傑作。それだけに、「一生懸命さ」や「人間の良心」を扱ったこのようなドラマが絶滅しかけていることは残念でならない。冒頭に書いた“視聴率”と“視聴熱”の反比例も含め、テレビ局側は課題を突きつけられたのではないか。

1位 年間ドラマの素晴らしさをひさびさに実感できた『軍師官兵衛』(NHK)

ある意味ベタな1位かもしれないが、今年の大河ドラマは本当に楽しませてくれた。ここ数年は視聴率の不振だけでなく、内容も人間ドラマが浅掘りのものが続き、「大河は終わった」「年間ドラマは時代錯誤」という声も出ていたが、『軍師官兵衛』は文句なし。最後まで見た人は、「一年間見てきたからこそ味わえる」幸福感を得られたのではないか。

見どころは何と言っても、黒田官兵衛を演じた岡田准一の熱演。序盤こそ、片岡鶴太郎演じるバカ殿・小寺政職に振り回されていたが、中盤からグングンたくましく成長した姿を見せつけた。有岡城の幽閉を経た6月には凄味が備わり、秀吉没後の11月にはクライマックスに向けて再び進化。あくまで軍師として仕えてきた如水(官兵衛)が一転して欲を出し、天下取りに挑む姿は圧巻だった。

岡田は物語の全貌を把握し、一年間の放送を意識した上で、役作りを逆算。「視聴率の高低がネットメディアをにぎわす」主演俳優にはつらい時代の中、「あえて序盤に抑えた演技をした勇気に拍手を送りたい。また同時に、「大河主演とはかくも難しいものか」とも思わされた。

江口洋介が演じた織田信長、竹中直人が演じた豊臣秀吉、寺尾聰が演じた徳川家康の三英傑も濃厚なキャラ演出がハマリ、官兵衛と対峙したシーンはいずれも緊迫感十分。特に秀吉との別れと、家康に負けを認めたシーンは、大河ドラマの魅力がギュッと詰まっていた。

「戦国モノは面白い」のは周知の通りだが、今作は“中間管理職”の官兵衛にスポットライトを当てたことで、世のサラリーマンも見やすかったのではないか。あらためて、「日本には1年間に渡って見られる連ドラがある」ことの幸せを感じさせてもらった。


上記10作以外では、映像の質を極めた『ロンググッドバイ』、会話劇がさらに進化した『続・最後から二番目の恋』、重厚な大人の刑事ドラマ『隠蔽捜査』、小笑いをすき間なく詰め込んだ『私の嫌いな探偵』、あえて前時代的な演出で通した『若者たち2014』、映像美と女性目線を貫いた『昼顔』、80年代の学園ドラマを思わせた『ごめんね青春!』、意外性のある“新エンタメ時代劇”を開拓した『信長協奏曲』を挙げておきたい。

2014年のドラマ界は力作ぞろいで、自分で決めておきながら申し訳ないが、「上位の順位はあってないようなもの」というのが正直なところだ。未視聴のものは、年末年始の休みに、オンデマンドやDVDでぜひ見てもらえたら、と思う。

最後に、ドラマ制作班のみなさん、俳優のみなさん、1年間おつかれさまでした。2015年も理屈抜きで楽しめる、心から感動できるドラマをよろしくお願いします。

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ解説者、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超える重度のウォッチャーであり、雑誌やウェブにコラムを執筆するほか、業界通として各メディアに出演&情報提供。取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもあり、著書に『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。