Microsoftは12月1日(現地時間)、モバイルデバイス向けのメールアプリケーションをリリースしているAcompliを買収したことを発表した。国内ではあまり聞かないソフトウェアベンダーだが、複数のメールアカウント管理やメールの振り分け、カレンダーの管理、各オンラインストレージを1つのアプリケーションで操作できるという特徴を備えている。
一見すれば何ら珍しい出来事ではない。2010年代を振り返っても2011年にはSkypeを85億ドルで、2013年にはNokiaの携帯端末事業を37億9000万ユーロで買収している。さらに振り返れば、ビジネスユーザーご愛用のPowerPointですら、1987年当時のForethoughtを買収して自社製品としたものだ。このようにMicrosoftが買収した企業・事業部門は100を超える。
今回のポイントは"今さら"メールクライアントを買収した点だ。しかも創業2年にも満たない企業をである。このたびMicrosoftがAcompliを買収したのは、自社アプリケーションの開発が何らかの暗礁に乗り上げていたことが理由ではないだろうか。WordやExcelといったOfficeアプリケーションはすでにiOSやAndroid向けにリリース済み(Androidはプレビュー版)。だが、Outlookに相当するアプリケーションはいまだ噂にも上らない。
MicrosoftはExchange ServerやOutlook.comといったメール製品・サービスをリリースしているが、モバイルデバイスからのアクセスは他社製アプリケーションに任せてきた。だが、定番のGmailはExchange Serverのサポートを2013年1月で終了し、見直しを求められていたものの、CEOの交代など社内事情により素早い判断を下せていない。そのため、Acompliを自社アプリケーションとして迎え入れるのは自然な流れともいえる。
さらに、Acompliは既存の機能を取り下げるようなことはないという。つまり、Exchange ServerやOutlook.comはもちろん、GoogleやiCloud(Apple)など他社のサービスもサポートするということだ。以前のMicrosoftでは思いも寄らないような出来事だが、同社CEOであるSatya Nadella氏の戦略と照らし合わせれば不思議ではない。
もう1つ狙いはメールビジネスの拡大ではないだろうか。個人ではSNSやIMによるコミュニケーションが主流になりつつあるが、ビジネスシーンはいまだメールを使うシーンが多い。MicrosoftはAcompliをモバイルデバイス向けメインクライアントに沿えることで、彼らビジネスユーザーの取り込みとExchange Serverをさらに押し上げるため意図があるのだろう。
他方でGoogleがリリースした「Inbox by Gmail」のように、メールに対するアプローチが変化しつつある流れも見逃せない。同アプリケーションは、メールをTODOやリマインダーのように操作し、操作名称もDone(完了)やSnooze(保留)といったものに置き換わっている。
このような変化はInbox by Gmailに限らない。Web版Gmailのカテゴリ表示やDropboxがリリースする「Mailbox」も似た機能を備えてきたが、Inbox by Gmailはさらに先を行く概念を盛り込んだメールクライアントである。ただ、新しい概念やUIが使いやすいか否かは別問題で、筆者もiOS上で1カ月ほど使ってみたが、現時点では以前のGmailクライアントに戻してしまった。
このように変わるもの・変わらざるものを求めるユーザーへの回答として、MicrosoftがAcompliをどのようなアプリケーションに進化させるのか、実に興味深い。
阿久津良和(Cactus)