すべての"モノ"をインターネットにつなげるIoT(Internet of Things)はIT各社が注目し、2014年のキーワードに数えてもおかしくないほど認知度を高めた。そのIoTを実現する可能性の1つにTRON(トロン)プロジェクトがあるのをご存じだろうか。リアルタイムOSの仕様策定を核に、「どこでもコンピューター=ユビキタスコンピューティング環境」を目指しながら、1984年から坂村健氏を中心に続けてきたプロジェクトだ。
今年で30周年を迎えるTRONプロジェクトを記念し、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所は、最新の成果を紹介する「TRON Symposium -TRONSHOW-」を、2014年12月10日~12日の期間で開催する(場所は東京ミッドタウンホール)。IoTプラットフォームとなる「T-Kernel」や「μT-Kernel」といった組み込みリアルタイムOS、IoTの基盤となるuIDアーキテクチャ2.0を中心としたユビキタスID技術などが披露されるという。技術協賛として、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)を迎えている。
それに先立ちYRPユビキタス・ネットワーキング研究所は、都内で記者会見を開催した。坂村氏いわく「そろそろ東大も"お役御免"になりそうな歳」としながらも、相も変わらずパワフルな発言や、TRONプロジェクトの現状をレポートする。
組み込みシステム用OSでトップシェアを誇るTRON
ちょうど2014年12月で30周年を迎えるTRONプロジェクト。坂村氏は「感無量。世界を見回しても、ここまで続けたプロジェクトは数えるほどしかない」と、長き渡る月日を振り返りながらも、「日本のコンピューター技術は世界に通用するものが少なく情けない」と吠える。
TRONの活躍する場は我々が意識していないだけで、実は身の回りに数多く存在する。有名なところでは、過日(2014年12月3日)に打ち上げ成功した小惑星探査機「はやぶさ2」の制御システム、デジタルカメラのファインダー制御部分などに用いられている。組み込みシステム向けのリアルタイムOSである「ITRON」は、世界的に見ても幅広く使われているのだ。
しかし、今やTRONが表舞台に立つことは少ない。PCやスマートフォンのような派手さがなく、組み込み(エンベデッド)システムの世界でTRONは"ネジや釘"のような存在になるため、部品のように扱われてきたからだと坂村氏は語った。だが、この状況が変わりつつあるという。それがIoTやビッグデータという概念・ソリューションだ。
"モノ"をインターネットにつないで情報を相互に制御する基盤として、我々が普段使っているWindowsやモバイルデバイス向けのOSは、あまりにも肥大しすぎている(Microsoftは組み込みデバイス向けOSとしてWindows Embeddedをリリースしている)。そこで、当初から組み込みデバイスを対象に設計したリアルタイムOSのITRONが、脚光を浴びることになったそうだ。
その結果、これまでTRONプロジェクトを支援した組織や団体の数は、1,023(うち企業は910、学術組織は112)におよぶ。坂村氏は「今年のTRONSHOWで、協賛企業・団体の名前を読み上げようと思ったが、それだけでイベントが終わってしまうので諦めた」と笑いを誘った。
また、T-Kernel(T-Engineプロジェクトで生まれた組み込みOSの一種)、および関連ソフトウェアの利用契約締結数も8,236を数える。これはあくまでもT-Engineフォーラムに申請があった数だけであり、坂村氏は「我々の知らないところで使われた例はカウントしていない」と述べる。締結組織の所属国数をカウントすると、世界76カ国で使われているそうだ。
坂村氏が今注目しているのは、アフリカ大陸の国々に代表される工業製品の浸透途上国だという。「日本のiPhoneシェアは異常に高いが、世界的に見れば大半はAndroidを使っている。だが、工業製品の浸透途上国では高額なスマートフォンではなく、従来型のフィーチャーフォンが好まれる」(坂村氏)。コスト面の優位性を含め、国内でも多く使われてきたTRONを採用した安価なフィーチャーフォンを、新たに生産する企業が増えていることを明らかにした。