今年の逗子市議会第1回定例会で「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例」と「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例施行規則」が可決し、逗子海水浴場の浜辺と海の家で音楽を流すことが禁止されたほか、浜辺での飲酒も規制の対象になった(海の家では可能)。

背景にあったのは、治安の悪化と風紀の乱れ。今夏、各メディアで大きく取り上げられたこの問題を、アーティストはどのように捉えているのか。数多くの夏フェスに出演し、海外移住経験もあるレゲエ歌手・lecca。「海の家」からはじまり、「クラブと風営法」、そして音楽業界の今後についても本音で語ってもらった。

8月9日に9thアルバム『tough Village』をリリースした
撮影:石川信介(Sketch)

――逗子市の海水浴場規制についてどう思われますか。

禁止するものを間違えていると思います。お酒を浜辺で飲むのも禁止しているわけですよね。全面禁止って…そこの街、村、海辺が今までどんな景色だったのかを皆さんはご存知だったのかなと。そこに行政が入ってきて、一部の住民の声だけで決めるのはもったいないなと思います。でも、住民の方のご苦労もきっとあるはず。もっと折衷案って探れると思うんですよね。音楽禁止、「音楽=騒音」ってなってしまう時代って、すごく切なくて寂しいなという気持ちしかありません。

ただ、私もフェスにたくさん出演させて頂く中で、怖い方々もいらっしゃるんですね。勝手に控え室に来る方がいたり…それで出演をお断りするフェスがあったりするので、一般住民の人が不安を感じるというのもすごく分かります。そういう意味で、ヒップホップとかレゲエとかの音楽の重低音が響いているところでは、何かよからぬ男女がいて、何かよからぬことが行われているんじゃないかと疑われるのは仕方のないことだとも思います。私は、厳格なおばあちゃんと両親に育てられましたので、よく分かります。

でも、音楽の種類として日本古来のお祭りの音は認められていて、ほかの音楽はダメというのも、なんだか悲しいです。音楽を楽しむ側のマナーがとても悪かったからこうなったというのは、私たち音楽を営む側も考えていかなければなりません。海の家の経営も難しくなる思うんですが、このままだと逗子の海の家は消えていってしまうんじゃないかと…。それで閑散としてしまうことが市のやりたいことであれば、正しい方法なのかもしれませんが。

――海外ではこのような問題に直面したことはありますか。

カナダだと、クラブやバーなど音楽が流れる場所は内陸部。当時の法律で、夜の12時以降は音を流す営業は禁止されていたと思います。そうやって決められていたので、そこでもめることはなく、TPOに合わせて音楽を楽しむという感じでした。カナダは結構寒い国なので、日本の海の家のようにはならないんですよ。暑い中、お酒を飲んで音楽を聴いたりすると、開放的になりやすいと思うんですけど。

ある歌手が海岸沿いの豪邸エリアに家を買ったそうですが、豪邸エリアはすごく厳しくて、家の中での音楽も規制されるそうです。周囲の住民から苦情が来て、退去を求められているらしいです。すごい話ですけど、住民とはそもそもそういうもの。住民税を払って住んでいる人の利益が最前提、最優先です。そういう問題は住宅地なのでしょうがないかと思うんですけど…。

――そこに繋がる話なんですけど、「クラブと風営法」の問題についてはどのようにお考えですか(0時以降の営業禁止 ※現在は法改正の流れ)。

一律で全部禁止してしまうのは、内容を知らない人のやることだなと思います。海の家もそうですが、住み分けはできると思います。海って誰のもの? となりますし、音楽を愛する人は海辺に行っちゃいけないのかともなります。住民の方々が安全に楽しめる場所と、音楽が楽しめる海の家の場所を分けて作ることもできるわけですし。私は長年クラブで歌わせてもらっているのですが、そこでよからぬ取引とかよからぬ集会が行われていたような気配は全くなかったので、なんで取り締まられるか全然分かりません。むしろ、もっと危ない場所はあると思うんですよ。

――実情をもっと知るべきだと。

知らないし、その価値を認めてないんだと思います。「なくてもいい」と思われているものは、どんどん禁止にされてしまうので。アメリカでも禁酒法という"世紀の悪法"と言われている法律もあったことから考えても、法律がすべて正しいとは思えません。おかしいと感じた時は反対運動をしていくしかないですね。弾圧に近い規制は、音楽の盛り上がりにも関わってきます。なにか危険なことがあった時に全部禁止にするのではなく、話し合いの場があったりするといいですね。

―― 一連の規制は音楽文化発展の妨げになっていると思いますか。

みんなで音楽を聴ける場所って…ライブハウス? レストラン? 人の家(笑)? どの場所でも怒られてしまうようになったら誰も聴かなくなっちゃいますよね。最近は、そういう音楽の居場所が奪われてしまっている気がします。

――さまざまな形態で音楽を楽しむことができるようになった今、CDの売り上げが下がるのは当然のこと。それを斜陽と捉えてしまうのは時期尚早なことだと思いますが、この海の家やクラブの問題なども含め、音楽業界は暗い話題が目立つような気がします。leccaさんご自身は、今後の音楽業界についてどのようにお考えですか。

90年代ぐらいが、逆に膨らみすぎた音楽バブルだったと思います。尊敬しているSOUL'd OUTのDiggy-MO'さんは「もともと音楽は無料だから」とおっしゃっていましたが、音楽はみんなで作って楽しめるような自由な媒体。そこにお金をつけて儲けて会社の規模が膨らんで…という時代はもう終わりました。

やっぱり、そこで起こるのは自然淘汰(とうた)。でも、人が音楽を作りたい、聴きたい、流したいという欲求は絶対になくならないと思いますので、すごくいい音楽やアーティストが今後は残っていくと思います。もちろん、何百万枚ものCDを売れる人はもう出てこないかもしれないですが、音楽を楽しんでいる人がどれだけいるかの方が大事。フェスやライブにはたくさんのお客さんが来てくれますし、そういうところでも音楽は残り続けていきます。

――よくフェスに出演されていますが、会場の熱気はいかがですか。

すごいです。子供連れや女性同士でも楽しめる場所、それがフェスです。一昔前のレコード屋さんに行く感覚に近いんじゃないですかね。お目当てのアーティストは1人でも、帰るときにはそれまで知らなかったアーティストを好きになっていたり。

個人的には、音楽は無料でダウンロードできるようにしちゃってもいいんじゃないかなと思っているんです。たくさんの人に聴いてもらえる環境を作って、ライブやフェスで生の音楽を楽しんでもらう。音楽はそうやって生き残っていけばいいんじゃないかなと思います。


■lecca(レッカ)
2000年から歌手として、渋谷asiaなどを中心にレギュラーイベントを含め、多数出演。2002年に大学卒業後、武者修行と称してニューヨーク、トロントに半年間滞在した。2003年帰国後、国内での活動を再開。2005年に14曲入りのフルアルバム『烈火』でインディーズ、2006年4月にミニアルバム『Dreamer』でメジャーデビュー。2009年3月には自身初となるシングル曲「For You」をリリースし、配信の総ダウンロード数80万超えを記録。2012年5月には自身初の日本武道館公演を行った。9thアルバム『tough Village』を今月9日にリリースした。