初回放送が今年のドラマ視聴率1位となる26.5%を叩き出した『HERO』。13年ぶりのブランクを感じさせない最高のスタートを切り、21日に15分拡大版の第2話が放送された。

オープニングは、川尻部長(松重豊)が書類に目を通すスローモーションの映像から。険しい顔で一枚一枚吟味する重々しい映像で「どんな事件が起きるんだろう……」と思っていると、一転していつものかけあいがはじまった。

『HERO』の第2話で共演した北川景子(左)と谷原章介

川尻部長「今日は4件」、麻木事務官(北川景子)「新規の事件ですか!?」、田村検事(杉本哲太)「とにかく毎日毎日……」、遠藤事務官(八嶋智人)「勘弁してくださいよ!」、末次事務官(小日向文世)「世の中には犯罪者が多すぎますよね~」、宇野検事(濱田岳)「僕、今20件も抱えているんですよ」、馬場検事(吉田羊)「私は25件」、久利生検事(木村拓哉)「検事増やさないの?」、井戸事務官(正名僕蔵)「事務官もですよ……」、川尻部長「振り分けてもいいかな?」と、間髪入れずに飛び交うセリフのダイレクトパスだ。

川尻部長「1つは野球賭博」、田村「野球か~しばらく投げてないな」、宇野「野球やってたんすか?」、田村「高校球児だったんだ」、井戸「僕もです」、遠藤「中学のとき野球部~」、久利生「リトルリーグ入ってた」、末次「私は三角ベースボール」、麻木「甲子園とか目指してたんですか?」、田村「当たり前だよ」、馬場「目指すだけなら誰でもできる」、田村「何~!」、久利生「でもオレ、中学のときサッカーいっちゃったの」、遠藤「わかる~」、全員爆笑。

こんな「重い軽い」「早い遅い」の緩急だけで視聴者を"『HERO』ワールド"に巻き込んでしまうのはさすが。早くも「何かツイートしたくなってしまった」のは、私だけではない気がする。

ラストカットが「正義の女神」の理由

今回の事件は痴漢、テーマは「お金と立場の格差」だった。

金持ちの痴漢容疑者には、久利生が「でっかい事務所のトップですよ」と話す凄腕弁護士・桜井(谷原章介)がついたことで、すぐに一時帰宅を許され、200万円もの大金で示談成立。一方、貧乏な痴漢容疑者には、会話中に寝てしまう国選のおじいちゃん弁護士しかつかなかった。

また、久利生の事務官・麻木は、弁護士の桜井から「素人は黙っていろ」とバカにされ、担当刑事からも「事務官に文句言われてもな。検事さんから連絡くださいよ」と相手にしてもらえない。痴漢被害者の女性も、示談を受け入れたものの、桜井から「容疑者を撃退したときの過剰防衛で訴える」とおどかされ、会社に行けなくなるほどのショックを受けてしまう。いずれも、貧富や立場の格差を分かりやすく伝える絶妙な脚本だった。

最後は久利生と麻木の活躍で、被害者は示談を取り下げ、過去の強姦容疑も発覚した金持ちの痴漢容疑者が起訴されて、ハッピーエンドで終わった。ただ久利生は、「痴漢はしたけど、金で全部解決したってことでしょ。ふつうにあるんだよな、こういうこと」という言葉を残している。そして、ラストカットは裁判所にある銅像・正義の女神……。この像は目隠しをして天秤を持つ、"公正さの象徴"だけに、現代社会や司法制度におけるアンチテーゼであり、奮闘した麻木へのエールなのかもしれない。

敵は「いけ好かないハンサム」弁護士

今回の敵は、痴漢の容疑者というよりも、エリート弁護士。「いけ好かないハンサム」を演じさせたらピカイチの谷原章介が、見事なまでの敵役を演じた。まず麻木には、「事務官は司法試験に通った法律家ではない。単なる検事のサポート役」とバッサリ。久利生から「相談料高そう。30分5万とか?」と聞かれても、「10万円。金額に見合うだけの仕事をすればいい」と断言。さらに「私の仕事はクライアントを守ること。そのためなら多少大げさなことを言いますし、金でカタがつくならそこで話をまとめますよ」とまで言ってしまう。

あげくの果てには、「感情的な人だな。僕たちはディベートをやっているんでしょ。僕と久利生さんは、肯定側と否定側に分かれて闘っているんです。六法全書をルールブックとして。そこに感情をはさむ余地なんかない。ディベートなんだから、今もし立場を変えてもこのゲームは成立する。僕たちは理性的に闘っているんです。もう示談は成立したんですから、潔く負けを認めてくださいよ。まだ無意味な議論を?」と開き直ってしまった。

最後も、「もう事実認定で争うつもりはありません。できるだけ軽い判決を勝ち取るつもりです。今回は僕の負け。というより、久利生検事がお見事でした。あなたはいつでも弁護士に転向できますよ」と上から目線だった。これくらいの敵役が現れてこそ、久利生たちの輝きが増すのだ。

主役は「復活の早い元ヤン」麻木だった

初回放送で、前作の雨宮(松たか子)に負けない存在感を放っていた麻木。第2話はさらに彼女のキャラを浸透させるための脚本・演出が目立った。担当検事の久利生に対して、「ちょっとやめて! 久利生検事に同情されるとますます落ち込む。ジーパン履いたこんなのが検事なんて」「本当に司法試験通ったの? 実は優等生だったとか。東大とかでよくいる変わり者?」「大学行ってないってどういうこと? 中卒?」とダークサイド発言を連発。

「ちょっと(反撃を)やりすぎたかな」という痴漢被害者に対しても、「いいんです。一発殴ったくらいじゃ逆上してくるかもしれないし、やるからにはしっかりトドメ刺さないと」「見たかったな~痴漢がKOされるところ」、宇野にも「宇野ッチってさ、いじめられっ子だったでしょ。わかるんですよね。私、いじめっ子だったから。ちょっとやんちゃしてたっていうか、暴れてた。あハハハハハ! クソー、あの弁護士、あの刑事。あんにゃろ、どいつもこいつも私をコケにしやがって!!」と元ヤン発言を連発した。

しかし、さんざん悔しい思いをしつつ、最後に立ち上がるのが麻木の魅力。キックボクシングを習っていた痴漢被害者に「終了のゴングはまだ鳴っていませんよ。もう一度立ち上がって一緒に闘いませんか?」、桜井に「おカネさえもらえば誰の味方にもなれるんでしょうけど、検事は社会のためとか被害者のためとか、そういう気持ちがなきゃできない仕事だと思っています。だから先生には検事は無理です。久利生さんはディベートなんてやってるつもりないはずですから」と正義感を見せまくってハッピーエンドにつなげた。

今回、久利生が「ホント、復活するの早いんだな」というセリフを連発していたが、「踏まれても立ち上がる」めげないキャラが定着していきそうだ。

久利生の名言、通販、「あるよ」は?

最後に、今回飛び出した"久利生の名言""メンバーの爆笑キャラ""通販グッズ&「あるよ」"の3点をおさらいしておこう。

久利生の名言は、事務官の立場に悩む麻木にかけた、「どうでもいいだろ、今自分がどこにいるかなんて。大事なのは、今の自分がこれから何をするかだろ?」に独断で決定。

城西支部メンバーたちの見どころも多かった。遠藤・末次・井戸の事務官トリオが「事務官の誇りと自信を取り戻す」合コンへ行って撃沈したり、馬場が「夜の私は寂しいのよね~。誰かいい人いないかなあ。検事は出会いがなさすぎ。あっても犯罪者ばっか」とグチったり、田村の妻が牛丸次席検事(角野卓造)の娘で顔が似ていることが発覚したり、川尻は警察に怒鳴っておきながら3秒後に「オレ何言った……?」と落ち込んだり、とにかく笑いに事欠かない。

今回の通販グッズは、オールをこぐような形の健康器具のみ。久利生は「ネットで購入した」と言っていたが、あのおバカなテレビショッピングが見られなかったのは残念……。一方、マスター(田中要次)の「あるよ」は、麻木が注文したカツ丼と、こちらも軽めのネタだった。

第2話も内容はもちろん、視聴率も19.0%を記録し、依然絶好調の『HERO』。第3話も15分拡大版だけに、今から来週の月曜が楽しみだ。

■木村隆志
コラムニスト、テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。