自動販売機と言われて真っ先に想像するものといえば、飲み物やタバコの自販機。今はそれが普通だが、昭和の頃には「ハンバーガー」や「うどん」といった自販機が数多くあったのだ。

そんな今や失われつつある魅力に惹かれた人がいた。自転車やバイクで全国を旅し、数々のレトロ自販機を撮影、そして「懐かし自販機」というサイトで各地の自販機の紹介をしている魚谷裕介さんが、その人だ。ということで今回は、魚谷さんにその魅力を熱く語ってもらったゾ。

設置店の店主がオリジナルの味を作る!

「僕が紹介している自販機は昭和40年~50年に開発されたもので、部品はほとんどが生産中止になってます。だから設置している店舗は、だいたい自前で部品を作っていますし、中身の商品もたいていお店の自家製なんですよ。要するに具材やら味付けは、そのお店のオリジナルなんです」。マジすか!? 驚愕すぎる事実! メンテナンスもだが、商品を自分の店で作っているとは。

「今残ってるレトロ自販機も、店主の高齢化や電気代値上げのあおりなどで、ここ2~3年でかなり減ってきています。でも地元の人からの根強い人気や固定ファンも少なくないこともあり、頑張って続けているお店も多いんです。ただ、頑張っていても厳しい現状は変わりません。昭和の面影をとどめている自販機が日本からどんどん消えていっているという事実は、寂しいかぎりですね」。

岩手県に某所にある牛乳自販機。風呂上り(?)には思わず買ってしまうこと請け合いだ

「日本で唯一稼働している」(魚谷裕介さん)という島根県のカレー自販機。わざわざご飯とレトルトパックが別々に出てくるように改造されているという

自販機と触れ合いは人との触れ合い

多くの自販機がある島根県の店。うどん、ラーメン自販機はイラストや文字のすべてに味がある

そんな魚谷さんに印象に残っている店や自販機を伺ってみた。「島根県にラーメン、うどんなどの自販機を扱っているお店があるんです。ここの店長さんは自販機の部品を自分で作って修理しているだけでなく、島根県、山口県の同じようにレトロ自販機を扱っている11軒の店のメンテナンスもしているんですよ」。

レトロ自販機界の重鎮、キタコレ! もはやこの店長さんが管理会社じゃないか!? と思える働きぶり。ちなみに、中身の商品も作って提供している店もいくつかあるというからスゴすぎる。

「他にもたくさんあるんですけど、『この近くにまだやってる店があるよ』って僕が知らない情報を教えてくれたり、古い自販機の貴重なマニュアルを見せてたりしてくれる人がいましたね。こういう風に自販機を通じて人と触れ合えるのは嬉しいかぎり」。

魚谷さんが語るレトロ自販機と人との出会い。これはほんの一部で、すべてはとても語り尽くせないそうだ。

肝心のお味は如何に…!?

ここまで聞いてどうしても気になってしまうのが味のクオリティー。「例えば先ほどの島根県のお店が出してるラーメンやうどんは、自販機のものとは思えないほど凝ってて、愛情がこもってます。それに店主が自分で作っているところも多いため、結果として味のバリエーションはかなり豊富ですね」。改めて感じるが……なんだかディープすぎるぞ、レトロ自販機。

宮城県のドライブインにあるオモチャの自販機。100円を入れてレバーを下げるという買い方に懐かしさを覚えてしまう

都内某所にあるハンバーガーの自販機。見ていると不思議とお腹が空いてくる

レトロ自販機の魅力は当時のままの趣を残しているのはもちろん、設置されている店やそこで出会う人達、様々な要素が混ざり合ってこそ。最後に魚谷さんが「まるでタイムスリップしたかのように昔を思い出させてくれる」と語ってくれたが、まさにその通りなのだろう。機会があれば、その懐かしさを味わいに少し遠出してみてはいかがだろうか。

(文・A4studio鈴木悠史)