NTTドコモやKDDI、ソフトバンク、NTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)らで構成される「無線LANビジネス推進連絡会」は、大規模災害が発生した際に、公衆無線LANサービスを無料で開放するためのガイドラインを定めた。災害によって携帯電話での通信が行えなくなった場合に、各社が「00000JAPAN」という1つのSSIDを設定して、被災地における通信環境の確保を目指す。ガイドラインに従って、各社が今後対応を進めていく。

同時に、同連絡会では、2020年の東京五輪開催を見据えて、訪日外国人に対して公衆無線LANサービスを提供するための活動を強化する。連絡会内に「オリンピック小委員会」を設け、外国人旅行者が簡単に無線LANサービスを利用できるような環境構築を目指していく。

災害用統一SSID「00000JAPAN」。写真左から、総務省総合通信基盤局データ通信課長の河内達哉氏、無線LANビジネス推進連絡会会長の小林忠男NTTBP社長、無線LANビジネス推進連絡会運用構築委員会委員長の大内良久氏

連絡会には4つの委員会があり、運用構築委員会が今回の検討を行った

「いのちをつなぐ00000JAPAN」

2011年の東日本大震災では、さまざまな理由で携帯電話網が断絶。被災地での通信環境が悪化した。携帯各社は、災害に強いネットワーク作りや早期の復旧を目指した取り組みを続けているが、それとは別に、公衆無線LANサービスを無料開放して通信環境をカバーする、というのが今回の取り組みだ。

NTT東西、ドコモ、KDDI、ソフトバンクだけで、すでに国内90万カ所の無線LANスポットを設置しており、2011年以来の3年間で70倍まで拡大した。それ以外のサービスも加えると、100万スポットを超える、ということで、都市部を中心に無線LAN環境は充実した。

携帯各社が自社ユーザーに提供していることもあり、公衆無線LAN利用者は2013年度で1,700万人を突破。利用者も拡大し続けている。

携帯3社とNTT東西の公衆無線LANスポットは90万を超えた

公衆無線LAN利用者は順調に拡大している

この無線LANネットワークを災害時だけでなく、さまざまなビジネスで活用するため、総務省を中心に無線LANビジネス研究会が検討を行い、2012年7月には報告書が出された。それを受けて2013年1月には連絡会が設立され、その中で災害時の無線LAN利用の検討が開始された。

2013年9月には、岩手県釜石市で「災害用統一SSID」の実証実験が行われている。災害が発生した際に、各社で異なる無線LANのSSIDを統一して提供することで、公衆無線LANサービスを問わず、周辺の生きているアクセスポイントに接続して通信が行えるようになることを目指している。

この実験では、操作方法を示すことによって、約9割の利用者が接続できたことで有用性は確認できた。ただ、どういったタイミングで無料開放を行うか、自治体と事業者の連携をどうするか、といった課題が残された。

釜石市の実験では、手順さえ分かればほとんどの人が接続できた

これらを踏まえて策定されたのが、今回のガイドラインだ。ガイドラインでは、大規模災害を「通信ネットワークが広範囲に被害を受け、携帯電話やスマートフォンが利用できない状態が長時間継続する恐れがある場合」と定義。具体的なマグニチュードなどの数値は定めず、災害の状況に応じて柔軟に対応できるようにした。

一般的に、災害が発生して72時間を過ぎると、救助対象者の生存率が極端に低下することが知られている。ガイドラインではこの「72時間」をリミットとして、災害発生後、無線LANサービスを無料開放することとなっている。

開放された無線LANに接続すると、災害用ポータルにアクセスでき、被災状況やライフライン、避難場所の情報などを確認可能。加えて、検索エンジンの検索窓や、SNSへのリンクなどにアクセスできるようにすることも想定する。

普段は契約者しか接続できないアクセスポイントが共通のSSIDとなり、非契約者も接続できるようになる。アクセスポイントは、統一SSIDと通常のSSIDの双方を発する形だという

災害用ポータルの例

公衆無線LANサービスの開放では、自治体などが提供している既存のサービスが開放されたり、携帯キャリアの公衆無線LANサービスが生きていれば、ユーザーはそのままそちらを利用すればいい。それに対して災害用統一SSIDは、それらのサービスの利用者でなくても、接続して利用できる点がポイント。対応するすべてのアクセスポイントが同じSSIDとなるため、一度接続しておけば、移動してもどこでもそのまま接続できるようになる。

自治体のサービスなどの開放に加えて、民間のサービスも開放するというのが今回の取り組み

当初は、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのスポットが統一SSIDに対応。災害時に特定の地域でのみ、遠隔から統一SSIDを設定でき、現地ですぐに利用できるようになる。

統一SSIDは「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」。スマートフォンやPCなどで周囲のSSIDをリストアップする場合に、一番上に表示されるように「0」を5つ並べたSSIDとなった(すでに「0」が4つのSSIDがあるため)。

2015年3月には、宮城県仙台市で「国連防災世界会議」が開催されるが、そこで災害用統一SSIDの無料開放を実施し、各国からの来場者に対して利用してもらうとともに、運用を確認する。少なくともこのタイミングまでに、携帯3社は災害用統一SSIDが提供できるように環境を整備する計画だ。

今後はほかの公衆無線LANサービスの提供者とも連携を拡大し、災害用統一SSIDを提供できるようにしていく。また、訓練として定期的に災害用統一SSIDを設定し、一般ユーザーに試してもらうことで、緊急時でもすぐに活用できるような体制を整えていきたい考えだ。

東京五輪までに、外国人に使いやすい無線LANサービスを

同時に、訪日外国人に向けた無線LANサービスの提供についての検討も強化する。外国人旅行者に対するアンケートでは、2011年11月時点で無線LAN環境に不満があったという人が36%に達したが、2014年3月には「満足」という回答が64%、「大きな問題はなかった」が33%にまで拡大し、環境は整ってきた。

2020年に向けて、ビジネスの発展と旅行者の利便性、災害時の通信確保を並列で実現していくのが目標

しかし、まだ改善が必要との認識で、2020年に向けて、これをさらに強化していきたい考え。もともと、各社ともビジネスとして公衆無線LANサービスを提供しているが、訪日外国人に対しては無料でサービスを提供したいという総務省らの意向もあり、この整合性を保ちつつ、最適なサービスを模索していく。

現在も、例えばNTTBPが「Japan Connected-free Wi-Fi」というサービスを提供しており、1つのIDがあれば対応スポットすべてに接続できる仕組みがある。成田空港や福岡市のサービスでも利用されているが、これは海外でアプリをダウンロードして登録を行っておけば、日本に来たときにすぐに接続できる。

ほかにも、スターバックス コーヒー ジャパンの無線LANサービスは、2013年11月に100万ユーザーを突破し、そのうちの2割が外国人だったという。スターバックスは、海外でも無線LANが使えるカフェとして知られており、利用者の拡大につながっているようだ。

鉄道路線では、京浜急行電鉄が6時間限定で無料の無線LANサービスを提供。町中のau Wi-Fiも利用できる形にしており、利便性を高めている。東京・お台場のFreeWiFiサービス、京都市の無線LANサービスなどもあり、こうしたサービスも活用していきたい考えだ。

日本では、セキュリティなどの問題もあり、最低でもメールアドレスによる確認を必要とし、さらに暗号化も設定した無線LANサービスを提供する考え。そのため、どのように登録してもらい、利用してもらうか、といった点も検討する。

また、現時点で携帯3社のスポットは利用できない状態であり、これをどう扱うかも検討していく。