日本アニメーター・演出協会(JAniCA)は、ワコムとセルシスの協力のもと、アニメ業界で働く人を対象とした『アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会(第2回)』を4月13日に開催した。ここでは、旭プロダクションで原画や動画を手がけるスタッフを講師に招いた実演の模様を紹介する。

『アニメーター・演出のためのデジタルツール勉強会』は、近年、発展が目覚ましいデジタル作画ソフトやペンタブレットなど、デジタルツールの最新情報やその技術を学ぶことを目的とした講習会。内容は、デジタルツールを使いこなすための効率的なノウハウや、工程管理・デジタル作画導入に際してのコスト面を解説する講座と、ワコムとセルシスが提供するデジタル作画環境が体験できるワークショップの2部構成(1部は約2時間、2部は約1時間)となっていた。

デジタル環境での原画製作を実演

講座前半の「レイアウト/原画セッション」で講師を勤めたのは、旭プロダクション 本社に所属し、作画歴13年、デジタル作画歴4年という原画マン・作画監督の橋本航平氏。今回は、橋本氏が作画監督を務めた作品を例に、デジタル環境で行う原画製作を実演を披露しながら、使用するソフトやデバイスの特徴や効果的な使い方、便利な機能などを紹介してくれた。

「RETAS STUDIO STYLOS」でラフを描いていく

原画の製作では、アニメ作成ソフト「RETAS STUDIO STYLOS」と液晶ペンタブレット「Cintiq 13HD」を使用。セッションは、レイアウト用紙を読み込んで、カットのひな形を描くところから始まった。レイアウト用紙は、制作会社ごとにサイズが異なっているため、制作会社別にサイズを設定しておいたものを読み込んでいる。

まずは、鉛筆ツールを使用したフリーハンドでキャラクターや机などのラフを描いていくが、この作業は一般的なペイントソフトと全く同じだ。橋本氏の場合は、アタリを「RETAS STUDIO STYLOS」でざっくりと描いたら、イラスト・マンガ制作ソフト「CLIP STUDIO PAINT」でキャラクター・パースのある背景の描き込みを行うとのこと。こうした手順やソフトの使い分けは人によって異なり、旭プロダクションでもそれぞれの原画マンが自分に合った方法で行っているという。

「RETAS STUDIO STYLOS」で清書を行う

「CLIP STUDIO PAINT PRO」を使用する理由は、前回のレポートでも紹介した「パース定規」をはじめとする、作画に便利な機能が揃っているためだ。清書の線を描く際は、常にタブレットペンを使用しており、ツールの切り替えには前回紹介した左手用デバイスを使用している。そのため、描画中は液晶ペンタブレットから目を離すことがなく、左手用デバイスのボタンを押す音が絶え間なく鳴っていた。こうしたデバイスの使いこなし方は、動画セッションで講師を務めた鈴木理人氏も同様だ。また、液晶ペンタブレットに関しては、「初めて液晶ペンタブレット使ったとき、紙に描いていた時代の感覚がよみがえって、それからペンタブレットには戻れなくなりました」とのエピソードを語っている。

「CLIP STUDIO PAINT PRO」で描き込みを行った原画は、もう一度「RETAS STUDIO STYLOS」に読み込み、その原画を透かした状態にして2枚目の作画を行う、という手順の繰り返しとなる。

デジタル環境での動画製作

講座後半は、橋本氏が描いた原画を元にした「動画セッション」が行われ、講師を勤めたのは、旭プロダクション 宮城白石スタジオの鈴木理人氏。作画歴は4年だが、最初からデジタル作画を行っているスタッフだ。

鈴木氏のセッションでは、動画を描くだけではなく「RETAS STUDIO STYLOS」のファイル管理機能や出入力機能の解説も交えて、仕上げ担当とスムーズに連携する方法なども紹介。例えば、動画製作に取りかかる前に、アナログでのカット袋に相当する「カットフォルダ」を作成する手順や、解像度・ピクセルサイズ・レイヤー数・時間・コマ数などの設定方法などを説明している。

実際の描画実演では、「RETAS STUDIO STYLOS」の曲線ツールが使用されていた。同ツールは、直線を描いた後に曲がる方向にポインタを動かして、直線を曲線に変化させることができる。均一な線になりがちだが、2本の線をずらして重ねることでタッチを表現したり、入りと抜きの線幅を設定して、ペンで描いたような味のある線を引くことも可能だという。同ツールの利点は、誰でもきれいな線を引くことができるので、線を引く練習が不要になることだという。

ライトテーブル機能で原画を表示しながら中割りを描く

中割りを描く実演では、「RETAS STUDIO STYLOS」のライトテーブル機能を紹介。2枚の原画の中間を描く場合、両方をライトテーブル機能で重ねると、その中間が描きやすくなるのだ。また、双方の原画の線を別の色で表示したり、ライトテーブル上で原画の移動や回転、拡大・縮小なども可能。ふたつの原画の中間を指定してくれる機能もあり、直線移動の中割りを描く場合は便利とのこと。また、ライトテーブルには、自分で取り込んだ画像を表示することができるので、キャラ表や写真などを表示させることもあるという。また原画では、頭身を合わせたい場合にキャラ表を表示させると便利だと、橋本氏が補足していた。

動画を描いた後は、その場でプレビューを行うこともできる。アナログでもQAR(Quick Action Record)を使えばプレビューを見ることができるが、デジタルではすべてのレイヤーを重ねた状態で見ることができる。プレビューの確認後は、「カットフォルダ書き出し」を実行し、仕上(ペイント)担当へ渡すファイルを書き出して実演は終了となった。

デジタル作画のメリットと課題、設備投資など

講座のまとめとして、司会進行役を務めてくれた旭プロダクションの濱雄紀氏が、デジタル作画のメリットと課題、設備投資などを解説。

メリットとしては、実演中にも語られた通り、拡大・縮小、回転、貼り付け、パース定規などの機能が使えることや、紙を傷める心配もなくやり直しが何度も行えること、その場で動画チェックが行えること、今回は見せることができなかったがロボットアニメなどで使われる3Dとの親和性が高いこと、ペーパーレスなので制作が楽になること、などを挙げている。

デジタル作画のメリットと課題

設備投資を解説。表で紹介している金額は実勢価格となっており、ソフトウェアはよりローコストな月額利用版もある

課題としては、ソフトの機能やデバイスを扱う技能の習得に時間が必要なこと、ITリテラシーが多少は必要であること、設備投資のコスト、証明されてはいないがコピペに頼ると画力が向上しにくいと言われていること、ソフトウェアが発展途上であること、紙で作業する人と組むとリテイクや作監修の際に印刷が必要、といった事項が解説された。

また、デジタル作画に移行して仕事が来るのかという懸念に対しては、旭プロダクションの場合はデジタル作画を理由に仕事を断られたことがないことや、紙で見せる必要がある場合は印刷すれば済むこと、デジタル作画に関心を持つ会社が増えているので今後拡大傾向にあることなどを解説。導入費用に関しても、旭プロダクションの導入例では合計で23万9,750円だが、さらに削減可能であることなども紹介している。

今回は、旭プロダクションのスタッフが現場で使用している機材や素材を持ち込んで、仕事と同じ作業を実演する、というかなり実践的な講座であった。参加者もアニメ業界で働く人がほとんどであったため、デジタル作画導入への手助けになったのではないだろうか。