「壁ドン」に女子が萌えているといっても、それは妄想の世界での話

「壁ドン」という言葉、聞いたことがあるでしょうか。最近は、比較的防音がしっかりしていますが、マンションやアパートなどの集合住宅で、隣人が大きな音でテレビを見ていたりすると、その音が自分の部屋まで聞こえることがあります。そんなとき、それを知らせるために「壁をドンとたたく」ことを「壁ドン」と、表現するようです。そこから派生して、相手を壁際まで追い込み、逃げ場をなくして壁を手で相手越しにドンとする行動も「壁ドン」とよばれているようです。時には相手を押し付けて、ドンとしたりもします。女子の中には、男子に壁ドンされるシチュエーションに萌える人もいるようで、ネット上でも度々盛り上がっています。どうして、女子たちは壁ドンに萌えるのでしょうか。それを考えるキーワードに、「妄想」を取り上げてみたいと思います。

キーワードは「妄想」

10代~30代の未婚女性に「恋愛に関する妄想が好きですか」と聞いたところ、72%が「好き」と回答(トレンド総研)。さらに、「ゲータイ恋愛ゲームで擬似恋愛したことがあるか」の問いに、4割が「ある」と回答していました(メディケア生命保険ニュースリリースより)。その理由として、「こうだったらいいのに」「あんなことされてみたい」という恋愛に関する欲求の不満やストレスを、妄想によって満たしているのではないかといわれています。フジテレビのドラマ「失恋ショコラティエ」が放送されたのは、記憶に新しいと思います。このドラマも、松本潤さん演じる主人公の妄想シーンが、非常に多いことで話題となりました。

話を壁ドンに戻しますと、このシチュエーションは現実に起こると恐怖すら感じることでしょう。自分の身動きが拘束されて、何をされるかわからないわけですから。なので、これを読んでいる男性は、簡単に壁ドンをしないでもらいたいのですが、この壁ドンというシチュエーションは、テレビやマンガの世界では、結構に登場します。そして、多くの場合は恐怖ではなく、例えば告白されたりキスをされたりと、強引だけれども甘い恋愛の道具として登場するのではないでしょうか。実際に起こったら怖いけれど、妄想で疑似体験する分には大丈夫ですよね。「失恋ショコラティエ」が人気なのは、主人公が年下男性と年上男性のハイブリッド型の男性だからという理由を以前に紹介しましたが、この妄想にも一因があることは否めません。

私たちは、現実の体験だけではなく、映画やテレビドラマを見たり、読書などの体験を通じたりして擬似的に経験を積んでいきます。主人公に共感して悲しんだり、登場人物のイメージが自分の行動に影響を与えたりもします。その意味において、妄想も読書や映画を見るような疑似体験の一つ。現実の恋愛で経験してみたいことや、したくてもできないことを妄想で対応しているのです。いわば、欲求不満状態の恋愛のカタルシスとして妄想があるわけです。いってみれば、男子に壁ドンされるシチュエーションに萌える女子の存在というのは、現実の恋愛に不満が多いという女子の実態をあらわしているのかもしれません。

※画像は本文と関係ありません。

著者プロフィール

平松隆円
化粧心理学者 / 大学教員
1980年滋賀県生まれ。2008年世界でも類をみない化粧研究で博士(教育学)の学位を取得。京都大学研究員、国際日本文化研究センター講師、チュラロンコーン大学講師などを歴任。専門は、化粧心理学や化粧文化論など。魅力や男女の恋ゴコロに関する心理に詳しい。
現在は、生活の拠点をバンコクに移し、日本と往復しながら、大学の講義のみならず、テレビ、雑誌、講演会などの仕事を行う。主著は「化粧にみる日本文化」「黒髪と美女の日本史」(共に水曜社)など。