筆者の私見だが、このSankeiBizの話はほぼ実情に則したものだと考えられる。iPhone販売を開始したいま、NTTドコモはライバルとの競争のためにもまずiPhoneに注力する必要があり、Tizenにあらゆる種類のリソースを割く余裕がないこと。そして最大の問題はTizen投入による在庫リスクだ。普通のAndroid端末のリリースに比べ、新プラットフォームとなるTizenはさまざまなリスクを孕んでおり、これを外したときのダメージは比較にならない。

もし実際にリリースするのであれば万全の体制で臨む必要がある。「最初失敗しても次がある」というわけにはいかず、おそらく立ち上げの失敗はそのままプラットフォームの死に直結する。その意味でTizen立ち上げは非常に大きな賭けとなる。「少なくともいまのタイミングではない」と、搭載端末正式発表の直前にこうした判断が下されるのも仕方のないことかもしれない。

Tizenは死んだのか

スマートフォン市場が成熟へと向かいつつあるなか、中途半端なプラットフォームの立ち上げはマイナス要素でしかない。2014年の携帯業界予測記事の中でも触れたが、リスクを被るのは携帯キャリアだけでなく、そのプラットフォームに投資を行ってきたパートナー各社も同じだ。

コミッションによる一定数の買い上げが期待できる端末メーカーに比べ、この市場にソフトウェアやサービス、アクセサリ類を投入するサードパーティらはプラットフォーム失敗のリスクをそのまま被る形となる。Tizenへのアプリ提供を渋るベンダーが複数存在すると説明したが、それも「成功するかわからないプラットフォームに多くのリソースを割くことはできない」という判断によるものだろう。

まだ正式発表前のプロトタイプですべての判断はできないが、これを見た筆者の感想は「まだ完成度が低い」「Badaのインターフェイスを引き継いでいて新鮮味がない」といったところだ。おそらく、サンプルを見たアプリ開発者らも似たような感想を抱いただろう。そして現在のモバイル市場を鑑みて、Tizenが成功する可能性がどれだけあるかと考え「いまはまだ様子見したい」と判断するのもわかる。

サムスン開発のTizenスマホのリファレンスモデル

さて問題は「本当にTizenは死んだか」という点だが、筆者の考えとしては「日本ではかなり厳しい状況」であり、世界的には「2014年は試練の年」といったところだ。前述のようにドコモが早期リリースする可能性はなくなり、少なくともカレンダーの日付で2014年いっぱいは市場投入される可能性はないだろう。