スマホ・タブレット全盛の今、なぜ手帳が売れている?

スマホやタブレット端末の普及で劣勢と思いきや、今、手帳が売り上げを伸ばしているという。手帳といえば、全国の書店にズラリと並ぶ能率手帳が知られているが、今年5月、64年ぶりにブランド名を変更し、NOLTY(ノルティ)として新たなスタートを切った。

公式サイトによると、NOLTYというブランド名には「New style(新しいスタイル)」、「Original(そしてたったひとつの存在で)」、「Life Time(ずっと毎日)」、「Your will(あなたの想いを叶えたい)」という意図が込められているという。

抜群の知名度を誇る「能率手帳」という名をあえて変更した真意は? そしてなぜ今、手帳が売れているのか。本社を直撃取材した。

「時間」を効率的に使う提案から誕生

インタビューに答えてくれたのは、日本能率協会マネジメントセンターNPB事業本部、NOLTY企画部長の二宮昌愛さんだ。

NOLTY企画部長の二宮さん

――能率手帳の歴史を教えてください。

二宮さん「当社はもともと社団法人が母体で、様々な企業の生産効率を上げるお手伝いをしていました。その中で、1949年に国内で初めて時間メモリ入りの手帳を開発し、これが経営者たちの評判を呼んだのです。当初は社団法人の会員向けに作っていた手帳を、1958年より一般発売を開始しました」

――なぜ手帳を作ったのですか?

二宮さん「時間メモリの導入経緯などの詳細は記録が残っていないのですが、経営資源のひとつである『時間』を効率的に使おうという提案の中で、手帳が開発されたようです。身近なツールで時間管理の習慣がつく点が評価いただきました。ちなみに、当初からずっと『能率手帳』という名前でした」

能率手帳の長い歴史を感じる

ビジネス以外のシーンでも使ってほしい

――今回、なぜブランド名を変更することになったのですか?

二宮さん「当社は教育事業を行っていますが、全社で社会環境の変化に合わせて変革を進め、改めて会社のミッションを再定義することになりました」

――再定義とは?

二宮さん「『成長したいと願うすべての人を支援し続けていきます』というものです。これまでは、主にビジネスパーソン向けに商品開発や教育事業などのサービスを提供してまいりました。しかし今後はその範囲を広げ、様々な人へのサポートをしていくということです。従来の『能率手帳』では、ビジネスパーソンに限られているというイメージが強いため、すべての人に充実を感じてもらえる手帳になるために、思いきってブランド名を変更しました」

――すぐに「NOLTY」に決まったのですか?

二宮さん「候補は100以上あり、意味合いや響きも考慮しました。多くの方々からご支持いただいた能率手帳のDNAを引き継いでいるので、最初に能率手帳(NORITSU)のNがついた『NOLTY』が選ばれました」

――「能率手帳」を変えることに反対の声はなかったですか?

二宮さん「もちろん、『能率手帳』という名前を変えていいのかというためらいがあったのも事実です。最終的には、名前を変えようというトップ判断があり、メンバーも迷いを捨て、前に進みました。むしろ記者発表後に、お客さまや業界紙の記者から驚かれることが多く、私たちが思っていた以上に『能率手帳』ブランドが浸透していたことに気づかされましたね」

――ということは、『能率手帳』はもうなくなってしまうのですか?

二宮さん「いえ、『NOLTY』という大きなブランドの下に、サブブランド(商品名)として『能率手帳』は残ります。もちろん手帳自体も今まで通り発売しますよ」

女性のプライベート向け手帳シリーズ「PAGEM」も人気

ママのための手帳も登場

二宮さんによると、従来から支持されていた手帳のレイアウトや商品番号、価格(一部商品を除く)は、これまで通り変更しないとのこと。一方、NOLTYのコンセプトの導入として、方眼メモページの増加や書き味の良いNOLTY用紙の開発、買い替えの時期に合わせて週間タイプの始まりを早め、12月1日から使えるようにするなどの変更があるという。

また、週間日記欄の上部に罫線(けいせん)を追加した。「そこに夢や目標を書くことで、日々の生活をもっと豊かにしてほしい」と二宮さん。さらに、表紙にあった「ビジネスダイアリー」という文言はいつでも、どんな環境でも使ってもらえるように、ということからはずされた。

デジタル化の影響は? 手帳の今後を占う

――手帳は今、どのくらい売り上げがあるのですか?

二宮さん「当社は女性向けブランド『PAGEM』などもリリースしており、様々な種類がありますが、『能率手帳』シリーズは、昨年度の集計で約250万冊売れています」

――スマホやタブレット端末が普及していますが、やはり売り上げは落ちているのでしょうか。

二宮さん「いえ、実は手帳市場全体で見て微増しています。増える要素としては、今まで手帳を使っていなかった世代……学生や主婦の方が使い始めていますね。主婦の方の場合、東日本大震災をきっかけに、家族の予定をしっかり把握しておきたいという人が増えたためのようです。口頭で何となく聞いていても、いざというときに確かめられず、不安な思いをしたという人が多かったため、手帳が注目されるようになりました」

――学生というのはなぜですか?

二宮さん「教育の一環として、親や先生がお子さんに使わせているようです。忘れ物をなくすために手帳に書くようにと買い与えたところ、自分で計画を立てる習慣もついた、先生とのコミュニケーションが増えた、といった事例もありました」

――手帳には教育的な効果もあるのですね。

二宮さん「手帳に書かれることは奥深いと思っています。書くことで自分の内面への気づきがあったり、実務的にも書くことで忘れない、思考の整理ができるといったメリットがあります。実際に、今年10月に弊社が行った調査では、スケジュール管理のメインツールは手帳が40.4%とトップ。2位のスマートフォンの20.7%を大きく引き離しています」

――スケジュール管理においては、一概にデジタル化が進んでいるとは言えないのですね。

二宮さん「デジタルとアナログを併用する人が多く、今後も増えるのではないでしょうか。手帳に書くことで考える習慣がつきます。デジタルを使いこなす人は、アナログの手帳を使う人に対して『古い』『非効率』ではなく、『使いこなせるのがうらやましい』といった印象を持っているようです」

手帳を使いこなす人はスマート

――今後、NOLTYブランドはどのような展開を考えていますか?

二宮さん「およそ3年でひとつの形を作りたいと考えています。まず1年目は、ブランド名の変更を認知してもらうことに努めます。ただし、先ほどお話ししたリブランディングの過程で手帳の役割ということを再定義し、生活の充実を感じてもらえるツールは手帳以外にもあるという考えに至りました。来年以降は手帳以外のNOLTYブランドの新商品も展開していきたいと考えています」